矢の根(読み)ヤノネ

デジタル大辞泉 「矢の根」の意味・読み・例文・類語

やのね【矢の根】[歌舞伎]

歌舞伎十八番の一。時代物。享保14年(1729)江戸中村座初春狂言扇恵方曽我すえひろえほうそが」の中の一幕として2世市川団十郎初演曽我五郎が矢の根を研いでまどろむうち、夢の中で兄十郎危急を知り、工藤の館へはせ向かう。

や‐の‐ね【矢の根】

やじり1」に同じ。

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精選版 日本国語大辞典 「矢の根」の意味・読み・例文・類語

や【矢】 の 根(ね)

  1. 矢柄(やがら)の先端にあり射当てたとき敵を突き刺すように作った部分。鏃(やじり)
    1. [初出の実例]「飯尾賀州、大和下向人夫并矢根竹所望事」(出典:東寺百合文書‐ち・永享九年(1437)三月四日・二十一口方評定引付)
    2. 「胸板と首にはやのねを強く打込み」(出典:浄瑠璃・頼光跡目論(1661‐73頃)四)

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改訂新版 世界大百科事典 「矢の根」の意味・わかりやすい解説

矢の根 (やのね)

歌舞伎狂言。時代物。1幕。歌舞伎十八番の一つ。2世市川団十郎が創演。1729年(享保14)正月江戸中村座《扇恵方曾我(すえひろえほうそが)》の一場面として初演,以来58年(宝暦8)江戸市村座《恋染隅田川(こいそめすみだがわ)》の一世一代まで生涯に4回《矢の根》を演じ家の芸として定着させた。内容は故郷の曾我古井に帰っていた曾我五郎時致(団十郎)が,亭の内で,武人のたしなみとして矢の根をみがくうち寝てしまい,夢の中で兄十郎の危難を知り,馬に乗ってかけつけるというただそれだけのもの。筋立ての原拠は幸若舞曲や土佐節の《和田酒盛》にある。それを歌舞伎風の演出に仕立てなおした。褞袍(どてら)の下に胸当,小手脛当を着込み,顔には隈取をした大仰な荒事師の姿をした五郎が,勇壮な大薩摩浄瑠璃の出語りにあわせて,人間の姿よりも大きな矢の根をゆっくりととぐ姿と,漢語と江戸なまりを交えた口からでまかせの大風なせりふをいう稚気とが,春風駘蕩(たいとう)とした享保期(1716-36)の好みであった。2世団十郎は《矢の根》の芸を9世市村羽左衛門に相伝し,羽左衛門から5世団十郎らの手を経て,1832年(天保3)に7世団十郎によって歌舞伎十八番の一つに選ばれているが,この間に,《鳴神》の文句を流用した〈柱巻きの見得〉など動きが加わり所作事化し,また馬に乗って五郎が引っ込む際に大根を鞭の代りに使ったり,大薩摩の太夫と五郎役者が舞台上で正月の挨拶をかわす趣向が彩りとして付け加えられていった。
曾我物
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「矢の根」の意味・わかりやすい解説

矢の根
やのね

歌舞伎(かぶき)劇。一幕。「歌舞伎十八番」の一つ。2世市川団十郎が1729年(享保14)1月、江戸・市村座で初演した『扇恵方曽我(すえひろえほうそが)』の一節が洗練されて後世に伝わったもの。父の仇(あだ)を討とうと一心に矢の根を研いでいた曽我五郎が、うたた寝の夢のなかで兄十郎の危急を知り、通りがかりの馬士(まご)の馬を奪って工藤の館(やかた)へ向かうという筋で、大薩摩(おおざつま)を伴奏に生粋(きっすい)の荒事(あらごと)演出を見せる。原拠は幸若(こうわか)舞曲『和田酒宴(わだのさかもり)』で、団十郎がひいきの研(とぎ)師の家に伝わる正月の研物始めの儀式を取り入れたといい、初演の舞台が大評判で、座元は興行の利益によって矢の根蔵(ぐら)と称する蔵を建てたという。大薩摩の太夫(たゆう)に扮(ふん)した役者が五郎の役者と舞台で正月の挨拶(あいさつ)を交わすなど、初春の祝儀的な性格が濃い演目。

[松井俊諭]

『郡司正勝校注『日本古典文学大系98 歌舞伎十八番集』(1965・岩波書店)』『服部幸雄編著『歌舞伎オン・ステージ10 勧進帳/矢の根他』(1985・白水社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「矢の根」の意味・わかりやすい解説

矢の根
やのね

歌舞伎狂言。時代物。1幕。歌舞伎十八番の一つ。2世市川団十郎の創演で,享保 14 (1729) 年『扇恵方曾我 (すえひろえほうそが) 』の1番目として上演され,大当りをとった。原拠は幸若舞曲および土佐浄瑠璃の『和田酒盛』。その後中絶するが9世団十郎によって復活され,今日の形式となった。矢の根を磨いていた曾我五郎が夢で兄十郎の危難を告げられ,工藤祐経の館へはせ向うという筋で,荒事の様式美と伴奏の大薩摩がよく調和し,おおらかで夢幻的な一幕となっている。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「矢の根」の解説

矢の根
(通称)
やのね

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
扇恵方曾我 など
初演
享保14.1(江戸・中村座)

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