開合(読み)カイゴウ

デジタル大辞泉 「開合」の意味・読み・例文・類語

かい‐ごう〔‐ガフ〕【開合】

開いたり合わせたりすること。
開音合音。開音(開口音)は口の開きの広い音、合音(合口音)は狭い開きの音。オの長音についての2種の漢字音では、韻の主母音に、円唇母音uまたは副母音wをもつものを合、その他を開とする。
一般的に発音発声のこと。本来声明しょうみょう謡曲用語

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精選版 日本国語大辞典 「開合」の意味・読み・例文・類語

かい‐ごう‥ガフ【開合】

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] 開くことと閉じること。
    1. 開いたり、また、合したりすること。分解したり、結合したりすること。開くようにして、また合うこと。
      1. [初出の実例]「丹青知巧、開合又西東」(出典:菅家文草(900頃)五・屏風)
      2. [その他の文献]〔木萃文‐海賦〕
    2. 対照的なものの取り合わせ。調和。
      1. [初出の実例]「破題の章句に残梅は前代の士とあり〈略〉五柳は本朝心とあり。その時よいついなり。章句と開合の心がよいとさたあったぞ」(出典:玉塵抄(1563)一一)
  3. [ 二 ] 口の開きの広い発音と狭い発音。開音と合音。開口(音)と合口(音)。
    1. 中国音韻学でいう開口(円唇性の動きをもたない発音)と合口(円唇性の動きをもつ発音)との対立
      1. [初出の実例]「云開音者、又曰全開音。以簡遂韻開合」(出典:韻鏡道恵抄(1654)五)
      2. [その他の文献]〔切韻指掌図検例‐弁独韻与開合韻例〕
    2. もと、声明(しょうみょう)、謡曲の用語で、オ列長音の二種を区別する名目(謡曲ではウ列長音も「合」に入れる)。鎌倉から室町にかけて、アウ・カウなどア段音にウが続いた音の長音化したもの([-ɔː])、すなわち、開音と、オウ・コウなどオ段音にウの続いた音およびエウ・ケウなどエ段音にウの続いた音の類が長音化したもの([-oː])、すなわち、合音とをいう。キリシタンのローマ字書きでは、オ列長音について、開音を「ǒ」、合音を「ô」で表わしている。〔日葡辞書(1603‐04)〕
    3. ( [ 二 ]から転じて ) 一般的に、発音、発声の意。〔日葡辞書(1603‐04)〕

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「開合」の意味・わかりやすい解説

開合
かいごう

(1) 中国音韻学の用語。介母が唇の丸めを伴う (uないしw) 場合,ときには韻母全体が円唇性を伴う場合も「合」 (合口) といい,そうでない場合を「開」 (開口) という。これは『韻鏡』の転図の注記にも,また漢字音の研究にも用いられている。『韻鏡』には,ほかに「開合」という注記もあるが,その意味は未詳である。 (2) 室町時代における日本語のオ列長音の2種の別を表わす用語。開音 (開口音) はより広い母音で,「ひらく」「ひろがる」などともいい,ǒ,ɔ: などで表わされる。-auから変ったもの。合音 (合口音) はより狭い母音で,「すばる」などともいい,ô,o: などで表わされる。-ou,-euから変ったもの。たとえば,「湯治」は開音,「冬至」は合音である。この区別は現在でも一部の方言 (越後方言など) で保たれている。

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百科事典マイペディア 「開合」の意味・わかりやすい解説

開合【かいごう】

中国・日本の音韻学の用語。日本語では,おもにオ列長音の2種を区別する名目。口の開きの広い開音のオーと,口の開きの狭い合音のオーとがある。中世初期から長音が発生し近世初期に合音一本になるまでこの区別が存した。[ou][oo][eu]が長音化した時(思ふ等)は合音で,[au]が長音化した時(高う等)は開音で発音した。なお,この開合論は中国の音韻学における開合観とも関係が深く,中国の《韻鏡》ではすべての転図を開・合・開合の3種類に分けている。ただしこの区別が実質的に何を意味していたかについては議論がある。

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普及版 字通 「開合」の読み・字形・画数・意味

【開合】かいごう

開閉。

字通「開」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の開合の言及

【字音】より

… 唐代以降,特定韻母の字についてp→f,b→vといった摩擦音化(軽唇音化)が生じたが,これを反映するのは,これらの子音の区別をもつベトナム語の漢字音のみである(ただし,日本唐音の包(パウ),兵(ピン)等対方(ハウ),不(フ)等にも一部反映はあり,漢音の直拗に反映するという説もある)。 中古字音の介音Mには〈開合〉すなわちu介音の有無,〈直拗〉すなわちi介音の有無,〈重紐〉すなわちi介音の2種(iとi,またはiとïとも)の区別があった。このうち,開合は日・朝・越漢字音(特に牙喉音――k,g,x等)でほぼ区別される。…

【日本語】より

…音節の結合のしかたについては,母音が原則としては語頭にしか立たないということも,古代日本語の特質であったが,イ音便とウ音便の発生などによって,この原則は崩壊した。こうして発生した母音と母音との結合のうち,アウ・カウ・サウの類とオウ・コウ・ソウの類との対立は,古く開合とよばれたが,この開合は,au→ɔːとou→oːとの段階をへて,ɔːとoːとが混同するにおよび,室町時代の末にはその区別が失われた。
[文法]
 いわゆる文語文法は,明治時代に,当時の正式の文章の規範として制度化されたものであるが,伝統的にみると,平安時代の言葉の文法にもとづいている。…

※「開合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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