真言(しんごん)密教の観法(かんぼう)の一つ。阿字は一切の事物の本源であり、それ自体は不生である(本不生(ほんぷしょう))と観じ、自己の観念をその理に合入することを目ざす。道場を整え、蓮華(れんげ)の台上の白い月輪(がちりん)の中に阿字を描いた掛軸を掲げ、その前に座って呼吸を整え、観念をその阿字に集中し、心と阿字が一つになったとき、そこに悟りが実現するとする。真言密教には種々の行法(ぎょうぼう)があるが、この阿字観は簡要で行いやすく、しかも真言密教の極意に達する深奥(しんおう)の行法であり、その実修にあたっては、阿闍梨(あじゃり)の指導が不可欠とされる。阿字観の次第を記したものは、空海の高弟実慧(じちえ)の著した『阿字観用心口訣(ようじんくけつ)』ほか数多い。
[小野塚幾澄]
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