末広鉄腸の政治小説。1886年(明治19)8月に上編,11月に下編を刊行。在野の青年政治家国野基(くにのもとい)の演説に感動した富永お春は,資金を送って彼の政治活動を援助する。国野は過激派の嫌疑で投獄され,お春も叔父の奸計により国野の属する政党領袖と結婚させられそうになる,などの苦難の後,2人は親のきめた許婚者であることがわかって結ばれ,国野はお春の財産を得て国事に奔走する。資産ある者が政治にたずさわるべきだというブルジョア的政治思想を,人情本的ストーリーに託して描いたもの。坪内逍遥の文学理論に影響をうけて寓意的政治小説に人情本的風俗描写が加わり,後期政治小説の一典型を示している。《花間鶯(かかんおう)》はその続編。
執筆者:小川 武敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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末広鉄腸(てっちょう)の政治小説。1886年(明治19)8月に上編,同年11月に下編を博文堂から刊行。正確には「(政治小説)雪中梅」で「花間鶯(かかんおう)」はその続編。政治家志望の青年志士国野基は過激派に送った手紙がもとで投獄されるが,彼の政治主張に深い理解をもつ富長春は獄中の国野を物心両面から援助し,基の出獄後さまざまな妨害や誤解にもかかわらず2人はめでたく結ばれる。国会開設を想定した未来小説の代表で,穏健な自由主義的政治思想が寓意された人情小説。
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…《佳人之奇遇》についであらわれた政治小説は,民権運動の敗北と国会開設への楽天的な期待を背景に,政治的主張はうすめられ,写実的な傾向が目立つようになった。この人情的,風俗的な傾向の作品としては,末広鉄腸の《政治小説 雪中梅》(1886)がよく知られている。政治小説は,古風な漢文調の文体や類型的な人物描写を脱しきれなかったために,自由民権運動が終息した90年ごろから急速にジャンルとしての活力を失っていく。…
※「雪中梅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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