震源過程(読み)しんげんかてい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「震源過程」の意味・わかりやすい解説

震源過程
しんげんかてい

地震は、地下のある面に沿ってずれ(「食い違い」や「すべり」ということもある)という形で破壊が始まり、それが平面状に広がっていくことによりおきる。この破壊過程のことを震源過程といい、ずれた面は、震源断層として認識される。震源過程解析の目的は、この破壊過程を定量的に把握することである。そうすることにより、地震の発生の仕方の定量的比較や、ほかの地学的データとの相関も議論できる。

 震源過程の解析は、普通、次のような方法で行う。地震波データや測地データなどにあうように、断層のずれが、時間的・空間的にどのように変化していったのかということを決める。ここで求められたずれの特徴に基づいて、破壊過程を理解するわけである。ずれは地下のある点で始まり、有限な速度で拡大していくが、破壊伝播速度とは、その破壊面の先端の進む速度である。これまでの研究により、後述するゆっくり地震などを除き、われわれが体感する通常の地震の破壊伝播速度は地震の規模大小によらず毎秒2~4キロメートル程度だということがわかっている。ずれは、破壊面の先端がそこに到達するとともに開始するが、ずれの速度は毎秒0.5~1メートル程度、したがって人が歩く速度かそれよりやや遅い程度だということがわかっている。

 データ解析により得られる震源過程像は、用いるデータの波長や観測点配置により、その分解能が異なる。より短い波長のデータを用いれば、より細かなふるまいがわかる。そのため、断層の広がりよりもずっと長い波長の地震波を用いて推定される震源過程は断層面上での平均的な描像にすぎないが、異なる地震を大まかに比べる場合には、このような平均的描像は、十分に有用である。その場合の地震の大きさを表す量として地震モーメントMOというものがある。式を用いると
  MO=μDS
と書くことができる。ここでμは媒質の剛性率、Sは断層の面積Dは断層面上での平均的なずれの量を表す。地震モーメントの対数に比例するモーメントマグニチュード(MW)という量が定義され、大地震の大きさを表すために広く使われている。

 それぞれの地震がどのようにおきたかということを詳細に理解するためには、波長の異なる多様なデータを用いて、ずれが断層面上でどのように変化したかということを調べる必要がある。高性能地震計の高密度配置や高速大容量コンピュータの出現により、このような解析が可能となり、詳細な震源過程の推定が可能となった。このような研究の結果、断層面上で、ずれの大きさは大きく変動していることがわかってきた。たとえば、2011年(平成23)東北地方太平洋沖地震の場合、ずれは海溝付近でもっとも大きく数十メートルに達したと考えられている。このようなずれの大きい場所は、大きなエネルギーを解放する。つまり、断層面上では、大きくエネルギーを解放する所と、そうではない所があるということである。このようにして、個別の地震が「どのようにしておきたか」ということは、推定される。しかし、「なぜ、そのようにおきたのか」ということを理解するには、理論的研究や実験的研究が欠かせない。

 いくつかの沈み込み帯では、上に述べた通常の地震がおきる場所のすぐ下の深さ30キロメートルから50キロメートルのあたりで、通常の地震と性格が大きく異なるゆっくり地震(スロー地震ともよばれる)といわれる地震がおきていることがわかってきた。たとえば、ゆっくり地震の一種であるスロースリップのずれの速度は1年間で数センチメートルから数十センチメートル程度だと考えられており、きわめてゆっくりとした破壊現象である。そのため、ゆっくり地震の震源過程の解析には、測地データも必要となる。

 震源の深さが100キロメートルを超えるような深発地震の場合、浅い地震に比べ解析にいくつかの困難さはあるが、浅い地震と同様に、ずれという形での地震がおきているようである。

[山下輝夫]

『島崎邦彦・松田時彦編著『地震と断層』(1994・東京大学出版会)』『東京大学地震研究所監修、藤井敏嗣・纐纈一起編著『地震・津波と火山の事典』(2008・丸善)』『金森博雄著『巨大地震の科学と防災』(2013・朝日選書)』

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