韓非子(読み)カンピシ(英語表記)Hán Fēi zǐ

デジタル大辞泉 「韓非子」の意味・読み・例文・類語

かんぴ‐し【韓非子】

韓非」の敬称。
中国の思想書。20巻55編。一部は韓非の著とされるが未詳。厳格な法治主義励行が政治の基礎であると説き、法と術の併用によって君権を強化することを目ざした。

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精選版 日本国語大辞典 「韓非子」の意味・読み・例文・類語

かんぴ‐し【韓非子】

  1. [ 一 ]かんぴ(韓非)」の敬称。
  2. [ 二 ] 叢書。二〇巻。編者不詳。紀元前二世紀末にかけて成立。韓非およびその一派の著作五五編を収めたもの。法治主義に基づく思想展開

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改訂新版 世界大百科事典 「韓非子」の意味・わかりやすい解説

韓非子 (かんびし)
Hán Fēi zǐ

中国,戦国末の思想家韓非(?-前234?)の言説を集めた書。20巻55編。すべてが韓非の自著ではなく,後学のものも含まれているが,孤憤・説難(ぜいなん)・和氏(かし)・姦劫弑臣(かんきようししん)・五蠹(ごと)・顕学の諸篇はもっとも真に近い。秦の始皇帝は孤憤・五蠹の篇を読んで,いたく感激し,この人に会って交際を結ぶことができたら,死んでも思い残すことはない,と漏らしたという。《韓非子》では,人民は支配搾取の対象であり,君主に奉仕すべきものとされる。〈君主と人民の利害は相反する〉として,この観点から,厳格な法で人民を規制すべきを説くが,そのいわゆる法治主義は,法と術と勢の三者を強調する。君主たる者は臣下を統御しうる勢を利用し,客観的な法と,胸中にかくす術とを兼ね用いれば,臣下を自由自在に操縦することができる。その際には,賞と罰の二柄(にへい)が有効な要具となる。

 その法治主義は法の権威を確保するために,いっさいの批判を封ずる。現在の法を批判する者は,多くの場合先王の法をもちきたって,両者を対置して論評する。韓非にとってまず抹殺さるべきは先王の法であった。先王主義を否定する論拠は,顕学篇に詳しい。

 法治の妨害者として五蠹をあげ,その撲滅をはかる。蠹は木を食う虫で,五蠹は,五種の社会を害する者の意。その第1は,学者道徳を唱えて法を批判し,無用の弁説をもてあそぶ。第2は,言談者-デリケートな国際関係を利用して,詭弁を弄し君主をまどわす。第3は,俠客-私の節義のために法禁を犯し,然諾を重んじて死を軽んずる。第4は,君主の側近。第5は,商工業者。保護育成すべきものとして,軍人と農民をあげる。それは国力の増強に直接寄与し,知能が低く単純なので,権威に弱く御しやすい。つまり,知的な面での愚民と経済の面での弱民とは,君主の支配が容易なので,国家主義の歓迎するところである,という。
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百科事典マイペディア 「韓非子」の意味・わかりやすい解説

韓非子【かんぴし】

中国,戦国時代末の法家の思想家韓非〔?-前234?〕に帰される論文集。20巻55編。秦の始皇帝が感銘を受けたと伝えられ,峻厳な法治主義を特色とする。君主と人民の利害は相反するゆえ,人民を法で規制すべきこと,臣下を賞罰をもって自在に操縦すべきこと,法の権威を保つべくいっさいの批判(とりわけ先王の法をもってする批判)を封じるべきことなどが説かれる。
→関連項目諸子百家性悪説老荘思想

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「韓非子」の意味・わかりやすい解説

韓非子
かんぴし
Han Fei-zi

[生]?
[没]始皇帝14(前233)
中国,戦国時代末期の韓の思想家。法家。子は敬称,またはその著書をさすのに用いる語。韓の弱体に発奮して法家思想をきわめた。荀子に学び,申不害,慎到,商鞅らの法家思想を大成。荀子の性悪説を人性利己説に徹底させ,また老子の無為自然説を君主の絶対権力の理論と臣下操縦術に実用化し,儒学の礼楽による徳治を退け,法律,刑罰を絶対化し,信賞必罰を説き,富国強兵と中央集権強化をはかった。秦に使して,李斯に毒殺された。その説は秦始皇帝の帝国統一の理論として役立った。その著作とされる『韓非子』には後世付加の部分が多い。この書は唐代までは韓子と称したが韓愈との混同をさけるため,宗代以後は韓非子と称せられた。

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とっさの日本語便利帳 「韓非子」の解説

『韓非子』

戦国末期の韓国の公子韓非(前二八○頃~二三三)の著。秦の始皇帝に招かれて赴き、「賞罰信ならず、故に士民は死せざるなり」とし、仁政を避けて法治を主とした。同じ荀子門下の李斯の讒言(ざんげん)を受けて自殺した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「韓非子」の意味・わかりやすい解説

韓非子
かんぴし

韓非

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世界大百科事典(旧版)内の韓非子の言及

【春秋戦国時代】より

…彼は礼を守るために必要とされた法そのものを礼であるとし,人間の本性は欲望に支配された悪であるから,すぐれた王がそれを規制するために定めるのが礼=法であるとした。この荀子の影響を強く受けた韓非子は,王によって定められた法を励行するのが官吏の任であり,そのために官吏の才能を把握し,成績を監督し,信賞必罰を行うのが王の任務であるとし,王を頂点とする法による支配を理念化した。一方,戦国中期には,儒家,法家とは別に,都市下層民を中心に墨家が形成された。…

【慎到】より

…《漢書》は法家に列して《慎子》42編を記録しているが,多く散逸して,現行本は5編である。その勢(位)を重んずる主張は,商鞅(しようおう)の説いた法,申不害の尊んだ術とともに,韓非にとりいれられて《韓非子》の法思想を構成することとなる。【日原 利国】。…

【中国哲学】より

…同時に,その性悪説の結果として,内発的な徳よりも,外部から人間を規制する人為的な礼に重点を移すことになった。荀子の門下から出たとされる法家の韓非子は,礼が刑罰の裏づけを欠いているのにあきたらず,礼よりもさらに強い拘束力をもつ法による政治を強調した。秦の始皇帝の天下統一は,この法家政策によって実現したものである。…

【法家】より

…以後,韓の申不害(?‐前337)は〈刑名(実功と言辞)〉審合で臣下を統御し〈術〉によって黄老風に権力意志を〈無為〉に隠匿(カムフラージュ)する独裁術を唱え,斉の稷下(しよくか)学士(稷門)の慎到は客観的な力関係と権力の掌握行使の方策が〈勢〉威にあると説いた。 戦国末期の韓非子は,儒家の徳治主義を排するが荀子流〈礼〉の実在を法権の超越的実在に入れ替え,〈法・勢・術〉3者を総合して権勢を君主に集中独裁させ,官僚を爪牙に駆民統治をめざす法治思想を集大成した。秦の始皇帝の全国統一で,韓非子の同門李斯(りし)は,この法治政策を実施し,漢初には統一政権の保持は黄老思想で,緊急の駆民治安は酷吏刑名で,という両法家路線が並行した。…

※「韓非子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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