中国,戦国末の思想家韓非(?-前234?)の言説を集めた書。20巻55編。すべてが韓非の自著ではなく,後学のものも含まれているが,孤憤・説難(ぜいなん)・和氏(かし)・姦劫弑臣(かんきようししん)・五蠹(ごと)・顕学の諸篇はもっとも真に近い。秦の始皇帝は孤憤・五蠹の篇を読んで,いたく感激し,この人に会って交際を結ぶことができたら,死んでも思い残すことはない,と漏らしたという。《韓非子》では,人民は支配と搾取の対象であり,君主に奉仕すべきものとされる。〈君主と人民の利害は相反する〉として,この観点から,厳格な法で人民を規制すべきを説くが,そのいわゆる法治主義は,法と術と勢の三者を強調する。君主たる者は臣下を統御しうる勢を利用し,客観的な法と,胸中にかくす術とを兼ね用いれば,臣下を自由自在に操縦することができる。その際には,賞と罰の二柄(にへい)が有効な要具となる。
その法治主義は法の権威を確保するために,いっさいの批判を封ずる。現在の法を批判する者は,多くの場合先王の法をもちきたって,両者を対置して論評する。韓非にとってまず抹殺さるべきは先王の法であった。先王主義を否定する論拠は,顕学篇に詳しい。
法治の妨害者として五蠹をあげ,その撲滅をはかる。蠹は木を食う虫で,五蠹は,五種の社会を害する者の意。その第1は,学者-道徳を唱えて法を批判し,無用の弁説をもてあそぶ。第2は,言談者-デリケートな国際関係を利用して,詭弁を弄し君主をまどわす。第3は,俠客-私の節義のために法禁を犯し,然諾を重んじて死を軽んずる。第4は,君主の側近。第5は,商工業者。保護育成すべきものとして,軍人と農民をあげる。それは国力の増強に直接寄与し,知能が低く単純なので,権威に弱く御しやすい。つまり,知的な面での愚民と経済の面での弱民とは,君主の支配が容易なので,国家主義の歓迎するところである,という。
執筆者:日原 利国
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…彼は礼を守るために必要とされた法そのものを礼であるとし,人間の本性は欲望に支配された悪であるから,すぐれた王がそれを規制するために定めるのが礼=法であるとした。この荀子の影響を強く受けた韓非子は,王によって定められた法を励行するのが官吏の任であり,そのために官吏の才能を把握し,成績を監督し,信賞必罰を行うのが王の任務であるとし,王を頂点とする法による支配を理念化した。一方,戦国中期には,儒家,法家とは別に,都市下層民を中心に墨家が形成された。…
…《漢書》は法家に列して《慎子》42編を記録しているが,多く散逸して,現行本は5編である。その勢(位)を重んずる主張は,商鞅(しようおう)の説いた法,申不害の尊んだ術とともに,韓非にとりいれられて《韓非子》の法思想を構成することとなる。【日原 利国】。…
…同時に,その性悪説の結果として,内発的な徳よりも,外部から人間を規制する人為的な礼に重点を移すことになった。荀子の門下から出たとされる法家の韓非子は,礼が刑罰の裏づけを欠いているのにあきたらず,礼よりもさらに強い拘束力をもつ法による政治を強調した。秦の始皇帝の天下統一は,この法家政策によって実現したものである。…
…以後,韓の申不害(?‐前337)は〈刑名(実功と言辞)〉審合で臣下を統御し〈術〉によって黄老風に権力意志を〈無為〉に隠匿(カムフラージュ)する独裁術を唱え,斉の稷下(しよくか)学士(稷門)の慎到は客観的な力関係と権力の掌握行使の方策が〈勢〉威にあると説いた。 戦国末期の韓非子は,儒家の徳治主義を排するが荀子流〈礼〉の実在を法権の超越的実在に入れ替え,〈法・勢・術〉3者を総合して権勢を君主に集中独裁させ,官僚を爪牙に駆民統治をめざす法治思想を集大成した。秦の始皇帝の全国統一で,韓非子の同門李斯(りし)は,この法治政策を実施し,漢初には統一政権の保持は黄老思想で,緊急の駆民治安は酷吏刑名で,という両法家路線が並行した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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