食道は成人で長さ平均25㎝、1周約5㎝の弾力性をもつ管状臓器で、
ここで述べる食道狭窄とは、食道の病気によって物理的狭窄を生じ、食物の通過障害を来した状態です。
原因には良性疾患と悪性疾患があります。良性疾患としては先天性食道狭窄や重度の逆流性食道炎、自殺・
しかし、最も頻度が高いのは悪性腫瘍の食道がんです。大部分(約95%)は
いずれの病態でも、食道狭窄により嚥下困難やつかえ感といった食物通過障害や体重の減少を訴えます。食道がんでは、進行するにつれて胸・背部痛や反回神経
一方、アカラシアでは同様に食物がつかえる感じがあり、通過障害や嘔吐などが現れます。固形物よりも冷たい液体が通りにくく、緊張状態や冷水などの寒冷刺激で症状が
最も頻度が高い食道がんについて述べます。治療方針選択のために腫瘍の占居部位、病型、
①食道X線造影検査
バリウムを使って造影し、多方向から病変を描出します。
②内視鏡検査
通常観察に、ヨード液散布法を併用します。がんの部位はヨード不染域として摘出されます。また、生検組織診を行います。
③CT検査、MRI検査、超音波検査
リンパ節の腫脹や他臓器への転移および隣接臓器への浸潤の有無を検索します。
④超音波内視鏡検査
病巣の
良性食道狭窄では保存的治療を優先します。
逆流性食道炎では、プロトンポンプ阻害薬の内服や食道の拡張術を行います。内科的治療では効果がない抵抗性の狭窄に対しては、手術が選択されます。
食道がんでは、その深達度により治療方針が大きく変わります。それは、粘膜がんではリンパ節転移の可能性が極めて低いのに対し、粘膜下層中層よりも深く浸潤したものでは、40%以上で転移が認められるためです。
①内視鏡的切除術
壁深達度が粘膜上皮、粘膜固有層の病変は、リンパ節転移が極めてまれで周在性3分の2以上の病変が絶対的適応です。また、壁深達度が粘膜筋板や粘膜下層浅層(200㎛まで)の病変で、臨床的にリンパ節転移のない症例は相対的適応となります。
②外科的切除術
標準的食道がん根治術は、右開胸開腹胸部食道切除、
③放射線療法、化学療法
切除ができない症例に対して行われます。また、両者を組み合わせた化学放射線療法も、根治的療法として施行されます。
④食道ステント術
食道がんないし食道がん治療後の変化による食道狭窄のため、経口摂取困難な症例に対する
千野 修, 幕内 博康
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
先天性もしくは後天性に食道の一部に狭窄を生じたものであり、先天性のものの多くは離乳期(生後6か月ごろ)以降になって初めて発見されることが多い。狭窄の診断は食道造影や内視鏡により行われる。狭窄の原因は、先天性では気管原基迷入型、繊維性狭窄、膜様狭窄に大きく分けられる。後天性食道狭窄としては食道腫瘍(しゅよう)(おもに食道癌(がん))によるものと瘢痕(はんこん)性によるものとがある。
瘢痕性狭窄の原因としては、(1)酸やアルカリなどの腐食性毒物を誤って、あるいは自殺目的で飲んだ場合、(2)逆流性食道炎、(3)手術後や内視鏡治療後の瘢痕性狭窄がある。腐食性毒物の嚥下(えんげ)による食道炎の治療においては、急性期と瘢痕が形成された慢性期とではまったく異なってくる。嚥下後比較的間もない急性期では、症状や全身状態の程度によるが、喉頭(こうとう)や咽頭(いんとう)の内視鏡による観察のほか、必要に応じて気管切開や気管内挿管による気道の確保、および誤嚥の防止を行う。また、瘢痕狭窄を予防するために、定期的な内視鏡的拡張術が必要になることもある。慢性期においては、狭窄の範囲が数センチメートル以下と比較的狭い場合はブジーによる拡張や電気メスによる切開が行われる。狭窄の範囲が広範でブジーによる拡張が困難な場合は食道切除や食道空置(くうち)によるバイパス手術が適応になることもある。なお、食道空置とは、食道を切除せず、ほかの消化管(胃、大腸、小腸など)を用いてバイパスする技法である。
癌性の狭窄に対しては、まず癌に対する治療(手術、抗がん剤、放射線など)が第一に考慮されるが、これらの治療が困難な場合、姑息(こそく)的な治療として食道ステントが留置されることがある。「姑息的な治療」とは、palliative therapyの日本語訳で「根治を目的とした治療ではなく、症状を改善し、クオリティ・オブ・ライフquality of life=QOL(生活の質)の向上を目的とする治療」を意味する医療用語であり、「症状緩和のための治療」ともいえる。患者の違和感や疼痛(とうつう)の強い上部食道、胃内容物の逆流が問題となる胃食道接合部などステント留置が適さない場合や、狭窄が強すぎてステント留置が不可能な場合には、経皮的に胃内に栄養を注入することを目的に胃瘻(いろう)を造設することがある。胃瘻造設は開腹下に造設する場合と、内視鏡的に造設する場合があるが、近年では内視鏡技術の進歩により内視鏡的に胃瘻を造設するPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)が普及している。
[掛川暉夫・北川雄光]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…大きなものの場合は憩室摘除術が行われる。(9)食道狭窄 食道の一部が狭くなって,液体や食物の嚥下が困難になった状態。異物による狭窄,腫瘍による狭窄(食道癌,食道肉腫,食道筋腫など),ひきつれによる狭窄(食道炎,食道潰瘍,食道手術後など),外圧迫による狭窄(食道憩室,隣接臓器の疾患など),機能的狭窄(食道アカラシアなど)がある。…
※「食道狭窄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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