(読み)あん

精選版 日本国語大辞典 「餡」の意味・読み・例文・類語

あん【餡】

〘名〙
① 餠やまんじゅうの中に詰めるもの。
※京大本湯山聯句鈔(1504)「饅頭のあんにはあづきがさたうがなるか。土饅頭のあんには人がなるほどに」 〔和訓栞(1777‐1862)〕
小豆、インゲンなどの豆類または芋類を煮てすりつぶし、砂糖または塩を混ぜ、さらに煮たもの。餠に包み、団子に塗り、あるいは汁粉として食べる。白餡、黒餡、漉(こし)餡、小倉餡(つぶし餡)、芋餡などがある。あんこ
※和漢三才図会(1712)一〇五「餡(アン)〈略〉今唯以赤小豆煮熟擂之去皮和沙糖者曰餡」
片栗粉、またはくず粉を溶いて、みりん、砂糖、しょうゆを混ぜたすましの沸騰している中に流し入れてどろりとさせたもの。くずあん。餡かけ。くずだまり。
④ 広く、物の内部に詰めるもの。特に、金銀の細工物などで、内部に銅などを入れたものを餡詰めという。贋金(にせがね)などにもいう。転じて、表面はよく見えて中身の悪い品物。→あんこ(餡━)

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デジタル大辞泉 「餡」の意味・読み・例文・類語

あん【×餡】

アズキインゲンなどの豆を煮てつぶし、砂糖や塩を入れ、さらに加熱して練ったもの。菓子・汁粉などに使う。豆をつぶしたままのものをつぶし餡、皮を取り除いたものをこし餡という。あんこ。「パン」
もちやまんじゅうの中に詰めるもの。1のほか、調味したき肉・野菜など。
くず粉かたくり粉を加えてとろみをつけた汁。「かけ蕎麦そば
広く、物の中に詰めるもの。あんこ。
[類語]あんこ小倉餡粒餡潰し餡漉し餡

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「餡」の意味・わかりやすい解説


あん

まんじゅうや餅(もち)の中に詰める物を餡という。詰め物にする餡の原料には、アズキ、白インゲン、青エンドウ、ササゲなどの豆類のほか、ジャガイモサツマイモ、クリ、ユリ根など(デンプン質の多いもの)が用いられる。調味には主として砂糖が使われるが、用途により黒糖や水飴(みずあめ)を加える。また砂糖が高価な時代には、塩餡に仕立てることもあった。餡は本来「中に入れる雑味」のことだが、いつしか、これらの材料を煮て砂糖を加え、練り上げたもの自体を餡、または「あんこ」と称するようになった。したがって餡餅などのように上からくるむ場合も餡という。葛粉(くずこ)に、酒、しょうゆ、砂糖などを加えてつくる葛だまりを葛餡と称するのも、そうした慣用が行われてからのことといえる。日本で餡が用いられるようになったのは、南北朝時代の1350年(正平5・観応1)に、中国浙江(せっこう)省出身の林浄因(りんじょういん)が来日し、後村上(ごむらかみ)天皇にまんじゅうを献上したことに始まるといわれる。しかし平安初期の宮中の年中儀式や制度を記した『延喜式(えんぎしき)』は、唐菓子の一種として団喜(だんき)をあげている。これは、小麦粉を練った皮で巾着(きんちゃく)形の福袋をつくり、中に甘葛煎(あまずらせん)で調味した桂皮(けいひ)や数種の木の実を詰め、ごま油で揚げたものである。今日の餡にはほど遠いが、中国の月餅(げっぺい)を考えれば、団喜の中身はまさに餡の祖型であった。

 餡の種類は、アズキを材料とする漉(こ)し餡、小倉(おぐら)餡(粒餡)のほか、白アズキ、白インゲンでつくる白餡、青エンドウのうぐいす餡、いも餡、小豆(あずき)餡にゴマを加えたごま餡、ゆり餡、栗餡(くりあん)、葛(くず)餡などがある。また白餡をベースに食紅を加えて紅(べに)餡、ひき茶を加えてひき茶餡、さらにゆず餡やみそ餡もつくる。栗餡は白餡にクリの蜜煮(みつだ)きを入れたもののほか、純粋にクリだけでつくる餡がある。また葛餡の原料は、葛粉、かたくり粉、わらび粉で、麺(めん)類、野菜、魚、肉などのあんかけ料理のほか、焼き団子のたれにも用いられる。特殊な応用に練り切り餡がある。練り上げた素材を、へらや鋏(はさみ)で花や木の実に細工する和菓子独特の精緻(せいち)な手法には、餡に強靭(きょうじん)な腰を必要とする。このため、白インゲンの生(なま)餡にヤマイモと砂糖を加え、煮立たないように練りに練り上げ、しっとりした肌合いや腰をつくるのである。

 漉し餡の作り方は、よく洗ったアズキに、その4倍の水を加えて強火にかけ、沸騰したところで中火にして、差し水を加えふたたび沸騰させる。2回沸騰したところでアズキをざるに取り出し、十分に水をかけ、「渋(しぶ)切り」をする。渋切りののち、前と同量の水を加え、いったん沸騰させてから火を弱めて煮る。指先でアズキが押しつぶせるくらいになったら水を半分ほど入れた大きな容器にそっくり移す。さらに別の容器に漉しざるを置き、その中へアズキをすくい出し、水をかけながらよくつぶすと、ざるにアズキの皮だけ残り、生餡は下の容器に落ちる。この生餡をふるいにかけ、水を加えながらもう一度漉す。漉された生餡は容器の下に沈殿するから、上水(うわみず)は静かに流し捨てる。ふるいにかける手法を2、3回繰り返したら、布袋に入れて強く絞り、水分を取り除くと完全な生餡ができる。分量はアズキ1キログラムに対し、できあがりの生餡が1.5キログラムぐらいである。この生餡に砂糖(生餡の分量の4分の3)と水を加え、火を通しながらあくをとり、十分に練り上げれば漉し餡になる。

 小倉餡の場合は、アズキが煮上がった段階で、ふきんを敷いたざるに移し、水分を自然に切る。このあと砂糖と水を加え、沸騰直前まで、アズキがつぶれぬよう攪拌(かくはん)する。火から下ろして一晩ねかせ、別の容器にアズキだけ移し、鍋(なべ)に残された蜜(みつ)分を焦げ付かぬように糸が引くまで煮詰め、そこへ移しておいたアズキを入れて静かに煮上げる。アズキは上物を使う。生餡つくりの段階で「渋切り」をしないときは、渋切らず生餡ができる。この場合はアズキの深い香りが残り、濃い小豆色を呈するのが特徴である。

[沢 史生]

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改訂新版 世界大百科事典 「餡」の意味・わかりやすい解説

餡 (あん)

まんじゅう,餅,だんごなどに包みあるいはまぶす練物。南北朝時代に中国からまんじゅうが伝えられてからのもので,《日葡辞書》には餅またはまんじゅうの詰物としてある。中国では肉類を用いることが多いが,日本ではアズキ,インゲンなどの豆類を煮たものが多く,サツマイモ,ジャガイモなどを用いることもある。はじめは塩で味つけした塩あんであったが,室町初期ころから砂糖の輸入に伴って砂糖を使った甘味のものが現れ,江戸時代になって砂糖の国内生産が拡大するに従って,砂糖あんが主体となった。

 あんは,粒あん,つぶしあん,こしあんに大別される。豆の粒の形をのこしたまま,やわらかに煮上げて味をつけたのが粒あん,粒の形を多少のこした程度に煮て,皮を除かずに味をつけたのがつぶしあん,完全につぶして皮をとり除き,味をつけたのがこしあんである。こしあんは,豆をやわらかくなるまで煮てざるに入れ,しゃくしなどで粒をつぶし,水をそそいでデンプン粒を洗い出す。デンプン粒の入ったこの汁を布袋に入れ,固くしぼって水分をとったのが生のこしあんで,漉粉(こしこ)ともいう。この生あんを乾燥させたものが晒(さらし)あんである。生あん100gに対して砂糖60gほどの割合でなべに入れ,焦がさぬように煮つめながら練りあげると,こしあんができる。

 あんはまた含糖率によって,並あん,中割あん,上割あんにわける。並あんは生あんに対して75%以下の糖分を加えたもの,中割あんは75~90%,上割あんは90%以上のものをいう。白あんは大福,手亡(てぼう)などの白インゲンや白アズキで作り,この白あんにゴマ,白みそ,挽茶,黒砂糖その他を加えて,ゴマあん,みそあん,挽茶あん,大島あん,栗あん,ユズあんなど,さまざまな加合あんが作られる。
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和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典 「餡」の解説

あん【餡】

①あずきや白いんげん豆などの豆をやわらかく煮て砂糖を加え、火にかけて練ったもの。和菓子などに用いる。さつまいも・栗・かぼちゃ・ゆり根などを裏ごしして作るものもいう。◇「あんこ」ともいう。
②餅(もち)やまんじゅうなどの中に入れるもの。①のほか、調味したひき肉や野菜などを用いる。
③調味しただし汁に水で溶いた片栗粉やくず粉を加え、とろみをつけたもの。具を入れることもある。魚・豆腐・麺などにかける。日本料理や中華料理で用いる。

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