改訂新版 世界大百科事典 「奴隷制社会」の意味・わかりやすい解説
奴隷制社会 (どれいせいしゃかい)
slavery societies
経済制度または労働組織としての奴隷制度を基盤とする社会。およそ人間社会は,その社会を存続させるに必要な物質の生産を基盤とし,法制的・社会的・宗教的な上部構造に至るまで有機的に結合した,統一的な人間関係としてのみ存在した。具体的には血縁集団としての部族や部族連合や民族として存在し,階級制度を枢軸とする社会では国家機構によって包括されるという形をとったが,階級制度と国家を生み出している社会のなかで,奴隷制社会と規定すべき社会は,いうまでもなく主要生産分野における基底的生産構成体として奴隷制度を見いだすような社会に限られなければならない。したがって奴隷が存在しただけでは奴隷制社会とはいえない。
このような厳密な意味での奴隷制社会は,世界史の発展を巨視的にとらえれば,古典古代にのみ出現したのであり,それも一定の国家や地域の一定の段階だけに生まれたものである。奴隷制度は古代アジアにも,中世初期のゲルマンやスラブの社会にも,近代アメリカの黒人奴隷プランテーションにも見いだされるが,それらを直ちに奴隷制社会と規定することは不正確のそしりを免れない。今日の奴隷制研究の水準から見ると,古典期アテナイ社会,共和政後期から帝政前期までのローマ社会は,奴隷制社会と規定することができる。前者においては小規模家内奴隷制が中小農民の大部分にまで浸透し,その農業生産の基盤となっていたという理由で,後者においては小規模家内奴隷制と並んで,大規模な奴隷制大所領が発展し,農業生産の主要な経済制度が奴隷制度になっていたという理由で,奴隷制社会と規定しうる。しかし,それゆえ古典古代社会を直接に奴隷制社会と同一であると考えてはならず,商工業が発展した国家の最盛期にのみそれは出現したと見なければならない。古典古代の共通性は,奴隷制社会に求められてはならず,農業生産の基本的枠組みをなしていた古典古代的共同体に求められなければならないのである。
→奴隷
執筆者:太田 秀通
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報