小説家。大阪生まれ。同志社大学卒業後、証券会社などさまざまな職業を転々とする。1958年(昭和33)から小説の発表を始め、大阪釜ヶ崎(かまがさき)近くの病院を舞台に、吹きだまりの社会と悪徳医師を描く社会派推理小説『背徳のメス』によって61年に直木賞を受賞。男女の濃厚な愛欲と陰湿な社会的背景を推理小説的な手法で巧みに描くところに特色があり、『腐った太陽』『脂のしたたり』『真昼の罠(わな)』(以上いずれも1961)などがある。60年代後半からは作品にミステリー色が薄れ、風俗小説的な色合いが濃くなり、75年には自伝的長編『我が炎死なず』を、77年には大河小説『さらば星座』(全9冊、~89)を発表した。78年からは日本古代史に意欲を燃やし、古代の英雄を主人公とする長編を次々に執筆、壬申(じんしん)の乱を描く『天の川の太陽』(1979)で、80年に吉川英治文学賞を受賞。この分野のおもな作品に、蘇我入鹿(そがのいるか)を描いた『落日の王子』(1982)、『聖徳太子 日と影の王子』(1987)、『白鳥の王子ヤマトタケル』(1990)、『女龍王神功(じんぐう)皇后』(1999)、続いて5世紀なかばに中央集権国家の形成を目ざした雄略(ゆうりゃく)天皇の実像に迫った『ワカタケル大王』(2002)がある。史料と文献が乏しい古代史のなかで、古代史ロマンともいうべき歴史小説の新分野を開拓した功績により、1992年(平成4)に菊池寛(かん)賞を受賞した。
[厚木 淳]
『『黒岩重吾長編小説全集』全20巻(1976~78)』▽『『天の川の太陽』上下(1979・中央公論社)』▽『『落日の王子――蘇我入鹿』(1982・文芸春秋)』▽『『黒岩重吾全集』全30巻(1982~85・中央公論社)』▽『『聖徳太子――日と影の王子』上下(1987・文芸春秋)』▽『『白鳥の王子ヤマトタケル――大和の巻』『白鳥の王子ヤマトタケル――西戦の巻』上下『孤影立つ――白鳥の王子ヤマトタケル:終焉の巻』(1990、1994、2000・角川書店)』▽『『ワカタケル大王』(2002・文芸春秋)』▽『尾崎秀樹著『黒岩重吾の世界』(1980・泰流社)』
昭和・平成期の小説家
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
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