石川郎女(読み)イシカワノイラツメ

デジタル大辞泉 「石川郎女」の意味・読み・例文・類語

いしかわ‐の‐いらつめ〔いしかは‐〕【石川郎女/石川女郎】

大和奈良時代の女流歌人。万葉集に同名の七人が登場するが、実在したのは三人から五人とする説が有力。
久米禅師と歌を贈答した石川郎女。
大津皇子と歌を贈答した石川郎女。
日並皇子ひなみしのみこに歌を贈られた石川女郎
大伴田主と歌を贈答した石川女郎。
大伴宿奈麻呂に歌を贈った石川女郎。
大伴安麻呂の妻の石川郎女。
藤原宿奈麻呂の妻の石川女郎。

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精選版 日本国語大辞典 「石川郎女」の意味・読み・例文・類語

いしかわ‐の‐いらつめ【石川郎女】

  1. 「万葉集」の女流歌人。生没年未詳。
  2. [ 一 ] 久米禅師と歌を贈答した女性。「巻二‐九七・九八」の作者。
  3. [ 二 ] 大津皇子の贈歌に対して答えた女性。「巻二‐一〇八」の作者。
  4. [ 三 ] 日並皇子(ひなめしのみこ)と歌を贈答し、字を大名児(おおなこ)という女性。「巻二‐一一〇」の題詞に見える。
  5. [ 四 ] 大伴田主に求婚し拒絶された女性。あるいは大名児と同人か。「巻二‐一二六・一二八」の作者。
  6. [ 五 ] 大伴安麻呂の妻で坂上郎女の母。石川朝臣(あそみ)、石川命婦(ひめとね)、石川内命婦、邑波(おおば)ともいう。「巻二‐一二九」の作者。
  7. [ 六 ] 藤原宿奈麻呂朝臣の妻。「巻二〇‐四四九一」の左注に見える。

石川郎女の補助注記

[ 二 ][ 三 ][ 四 ]は同一人かといわれている。

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改訂新版 世界大百科事典 「石川郎女」の意味・わかりやすい解説

石川郎女 (いしかわのいらつめ)

万葉歌人。生没年不詳。字を大名児(おおなこ)といい,7世紀末の天武・持統朝に草壁皇子,大津皇子に愛され,約20年後の藤原朝末期に大伴田主(おおとものたぬし)・宿奈麻呂(すくなまろ)兄弟に思いをかけた歌をよんでいる。石川郎女の相手はいずれもそのころの代表的な貴公子美男で,そうした男性と浮名を流した女性として聞こえていたらしい。《万葉集》には8首の石川郎女の相聞歌があり,相手の男性は7名にのぼるが,すべてを同一人の作と見ることは困難である。そのなかには,上記とは同名異人の作,さらに上記の石川郎女が情話の主人公として伝承される過程で生じた虚構が含まれるものと考えられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「石川郎女」の意味・わかりやすい解説

石川郎女
いしかわのいらつめ

『万葉集』の歌人。集中、石川郎女(女郎)と表記される人物が多く、それぞれ同一かどうか古来論議の的となってきたが、(1)天智(てんじ)朝(661~671)に久米禅師(くめのぜんじ)と贈答した人、(2)持統(じとう)朝(686~697)に大津(おおつ)皇子、草壁皇子と贈答した人、(3)文武(もんむ)朝(697~707)に大伴田主(おおとものたぬし)、大伴宿奈麻呂(すくなまろ)と贈答した人、の3人に分ける説が穏当であろう。(1)には恋の掛け合いの巧みさがみられ、(2)には政治的な抗争を背景とする両皇子への恋物語的な興味が寄せられ、(3)には歌のやりとり自体の社交的なおもしろみが込められている。(1)(2)(3)はそれぞれの時代の恋歌表現の典型を示しているとみられる。

鈴木日出男

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「石川郎女」の解説

石川郎女(2) いしかわの-いらつめ

?-? 飛鳥(あすか)-奈良時代の歌人。
天武天皇(在位673-686)の時代に大津皇子と歌を贈答して通じ,草壁皇子からも歌をおくられた。のち大伴田主(おおともの-たぬし)・宿奈麻呂(すくなまろ)兄弟に恋の歌をおくった。別人説もある。別名に大名児(おおなご),山田郎女。石川女郎ともかく。
【格言など】吾(あ)を待つと君が濡(ぬ)れけむあしひきの山のしづくに成らましものを(「万葉集」)

石川郎女(3) いしかわの-いらつめ

?-? 奈良時代の歌人。
大伴(おおともの)安麻呂の妻。大伴坂上郎女の母。五位以上の女官。天平(てんぴょう)7年(735)に生存していたことが知られ,「万葉集」巻4・20に短歌2首がのる。安曇外命婦(あずみのげ-みょうぶ)の姉妹とされる。別名に石川内命婦(うちのみょうぶ),佐保大伴大家(おおとじ)。

石川郎女(1) いしかわの-いらつめ

?-? 飛鳥(あすか)時代の歌人。
天智(てんじ)天皇の時代に久米禅師(くめのぜんじ)に求愛され,その贈答歌2首が「万葉集」巻2にのる。
【格言など】み薦(こも)刈る信濃の真弓引かずして弦(を)はくる行事(わざ)を知ると言はなくに(「万葉集」)

石川郎女(4) いしかわの-いらつめ

?-? 奈良時代の歌人。
藤原良継(よしつぐ)(716-777)の妻。夫に離別された悲しみの歌1首が「万葉集」巻20にのる。

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