中央銀行が銀行などの市中金融機関に貸出しを行う際の貸出金利のことで,金融政策全般の方向を示すシグナルとして重視される。日本では,日本銀行が都市銀行などの所有する手形を期限前に買い取ったり(再割引),債券等を担保に貸出しを行うことを通じ,市中に資金を供給する際に適用される基準レートが公定歩合である。具体的には,現在,(1)商業手形割引歩合,(2)輸出貿易手形割引歩合,(3)輸出貿易手形担保貸付利子歩合,(4)国債またはとくに指定する債券担保の貸付利子歩合,(5)その他のものを担保とする貸付利子歩合,(6)当座利子貸越歩合をさす。ただし実際上は,(1)の商業手形割引歩合をもって公定歩合を代表させることがほとんどである。
公定歩合の水準を決定する権限は日本銀行にあり,日銀政策委員会によって決定される。日銀は公定歩合の操作を通じて経済活動に影響を及ぼし,金融政策の最終目標である通貨価値(物価)の安定の実現を図っている。
公定歩合が引き上げられる金融引締め期を例にとると,公定歩合は以下のような形で経済活動に影響を及ぼしていく。(1)市中銀行の資金調達コストの一部である公定歩合の引上げは,銀行の貸出金利を上昇させる効果をもっている。また銀行の預金金利など制度的に固定された金利(規制金利)の決定にも公定歩合の変更が大きな影響を及ぼすので,それらの金利は公定歩合に連動して引き上げられる場合が多い。一方,日本銀行は金融市場で行う調節もきつめに運営するので,市場で決まる金利(自由金利)もおのずから上昇する。すなわち公定歩合の引上げは,市中金利水準全般を上昇させ,金融機関の貸出しや企業活動に抑制的な影響を与えるわけである。(2)日本銀行は金融引締め期には,金利水準の上昇を促進するのと並行して市中銀行の預金等に対する支払準備率を引き上げたり,銀行の貸出増加額にガイドラインを設定し,直接貸出額をコントロールする(窓口規制)などの手段により,通貨の量的な側面からも引締め的な政策を推進していく。(3)公定歩合の引上げは日本銀行の金融引締めの姿勢を内外に明らかにすることになり,それが経済活動に直接影響する効果も大きい。たとえば物価の上昇を見越して原材料の買占めに走っていた企業が,公定歩合の引上げにより近く物価が安定するとみて買占めを手控える(そのこと自体が物価を鎮静させる効果をもつ)場合であり,これは公定歩合変更の〈アナウンスメント効果〉と呼ばれている。
金融引締め期には,以上のように公定歩合をはじめとする各種の政策手段が総合的に活用されることにより,行き過ぎた経済活動や過剰な通貨の供給が抑制される。金融緩和期には,逆のプロセスを通じて経済活動の沈滞を防ぐため,金利水準の低下,適切な通貨の供給が図られていくわけである。このように公定歩合は,伝統的に中央銀行の金融政策手段の中核として位置づけられてきたが,諸外国の例をみると公定歩合の性格にはかなりの差異がある。イギリスでは,〈最低貸出金利minimum lending rate〉(1972年公定歩合を廃止して導入)と呼ばれる中央銀行の貸出しレートは,市場レートに連動して自動的に変更され,その水準は事後的にしか公表されない。アメリカでも公定歩合が市中の金利水準の変化に追随する場合が多い。日本でも公定歩合を中心に金利水準が整然と決められている体系が徐々に崩れ,欧米的な市場中心型の金融政策に移行しつつある。1973年における全面的な変動為替相場制への移行,国際資本移動の活発化を契機に,各国の公定歩合政策が従来以上に通貨の対外価値(為替相場)の動向に配慮されて運営されるようになったことも,最近における特徴的な変化である。日本においても,こうした配慮を制度面から保証するため,81年,公定歩合と異なる金利で市中金融機関に貸出しを実行しうる制度(基準外貸出)が導入され,機動的な政策運営のための条件が整えられている。
→中央銀行
執筆者:吉田 真一
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日本銀行が民間金融機関に貸し出す際に適用された基準金利。2006年(平成18)8月からは名称を「基準割引率および基準貸付利率」に変更した。
公定歩合は、金融システムの動揺を食い止めるために、最後の貸手機能を発揮して日本銀行政策委員会において決定される。高度成長時代には、人為的低金利政策の下で資金不足に悩まされていた民間金融機関、とくに都市銀行がオーバーローンに陥り、日本銀行貸出に恒常的に依存していた。日本銀行貸出利率であるその変更は、民間金融機関の預金金利や貸出金利に直接影響を与える資金コスト効果が大いに発揮され、金融政策のスタンスを示す政策金利であった。金融自由化以降は、民間の日本銀行に対する信認を基に、日本銀行が景気の状況をどのように判断しているかを表すアナウンスメント効果が重視され、信用秩序の維持のための緊急措置的手段となっている。2001年3月から補完貸付(ロンバート型貸付)制度が導入され、あらかじめ定められた条件を満たす限り、金融機関が望むだけ短期資金を借り入れられる基準金利となった。
公定歩合は2001年9月に過去最低水準の0.1%となったが、2006年7月に0.4%へ約5年ぶりに引き上げられ、同年8月からは政策金利の意味が消滅したのに伴い、名称を「基準割引率および基準貸付利率」に変更された。
金融自由化後の市中金利はコールの需給で決められるようになり、市中金利の基準金利の役割は消滅し、コールレートの上限金利となった。2007年2月から0.75%に変更され、2008年10月に0.5%、12月からは0.3%に相次いで引き下げられた。金融危機の際に適用される日本銀行特別融資は基準貸付利率に0.5%上乗せした金利が設定される。
[金子邦彦]
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[種類]
日本における代表的な金利には以下のようなものがある。(1)公定歩合 日本銀行が民間金融機関に貸出しする場合の金利で,日本銀行政策委員会によって決定される。この金利を操作することを含めて日本銀行の対民間貸出しを操作することを金利政策,公定歩合政策あるいは貸出政策といい,金融政策の重要な手段となっている。…
…再割引適格商業手形は,販売の目的で買い入れた商品の代金決済のために振り出された約束手形または為替手形であって,再割引の日から3ヵ月以内に満期が到来すること,割引依頼人(取引先金融機関)のほか,支払能力確実なもの1名以上の裏書があることが要件とされている。なお,日本銀行の再割引および手形貸付けに付される金利は公告されることになっており,公定歩合と呼ばれている。【池田 直人】。…
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[金融政策の運営]
日銀は通貨価値の安定を政策目標としている。そのための金融政策手段として,公定歩合操作,債券・手形オペレーション,準備預金制度による預金準備率の変更操作のほか,必要に応じて金融機関に対する指導・説得(窓口規制)を実施している。公定歩合操作についてみると,公定歩合の変更は,民間金融機関の資金調達コストを左右するコスト効果をもつほか,経済の先行き見通しに関する中央銀行の見解の変更を示唆するアナウンスメント効果をもつ。…
※「公定歩合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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