C型肝炎ウイルス(読み)シーガタカンエンウイルス

デジタル大辞泉 「C型肝炎ウイルス」の意味・読み・例文・類語

シーがたかんえん‐ウイルス【C型肝炎ウイルス】

C型肝炎の原因となる肝炎ウイルスRNAゲノムとするRNAウイルスで、血液を介して感染する。ウイルス粒子表面を被うエンベロープの一部が変異しやすく、対応できる抗体を誘導することが困難なことから、現在のところワクチンはないが、有効な抗ウイルス薬が開発された。HCV(hepatitis C virus)。
[補説]H=オルター、M=ホートン、C=ライスは、同ウイルスの発見に寄与する研究により、2020年にノーベル生理学医学賞を受賞した。

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内科学 第10版 「C型肝炎ウイルス」の解説

C型肝炎ウイルス(肝炎ウイルス)

(3)C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)
1)形態と構造:
1988年米国のChiron社により血液伝播性非A非B型肝炎ウイルス遺伝子の一部が,分離・同定され,輸血後肝炎患者血清で確認され,C型肝炎ウイルスと命名された.免疫電子顕微鏡法により,感染者血清中に直径55~65 nmの球状の,表面にスパイク様突起を有するHCV粒子が観察される.
2)ゲノム構造と複製:
ゲノムは全長9500塩基の1本鎖RNAからなる.HCV遺伝子の大部分を占めるのが,1つの大きな読み取り枠(open reading frame:ORF)で,そこからウイルス蛋白が前駆体の形で発現され,プロセシングを受け,機能するウイルス蛋白が産生される.
 前駆体蛋白のN末端にはウイルス粒子を構成する構造蛋白(コア,E1,E2/NS1),C末端側には少なくとも4つのウイルスの増殖に必要な蛋白(NS2,3,4および5)が存在する.ORFの5'末端と3'末端には,それぞれ短い非翻訳領域(untranslated region:UTR)がある(図9-2-2)(加藤ら,1992).
3)HCVの遺伝子型と多様性:
HCVには現在までに6種類の遺伝子型とその亜型が多数報告されている.わが国では1b型が多く,70~80%を占める.そのほか,2a型,2b型などが存在する.これらの遺伝子型の地理的分布は特異的で,1型,2型は世界中に,3型はタイを中心とした南アジアに,4型は中近東・アフリカに,5型は南アフリカに,6型は香港を中心とした東南アジアに存在する.これら遺伝子型の病原性の違いは現時点で明らかでないが,インターフェロン治療に対する反応性は遺伝子型1型,4型が効きにくく,2型は効きやすい.
4)HCV関連蛋白と臨床的特徴:
HCVゲノムには変異を生じやすいが,変異の頻度はゲノムの領域により異なる.5'末端のUTRは,変異がどの領域よりも低く,また,遺伝子型をこえて塩基配列の相同性が高い.エンベロープ領域やNS2領域は塩基配列の保存性が低く,遺伝子型間の相違も大きい.しかし,全体としては同一遺伝子型間での違いは少ない. E2/NS1の上流には超可変領域(hypervariable region:HVR)があり,同一患者でも持続感染の間にこのHVRのアミノ酸の配列が時間とともに変化していくことが認められている.このような現象がHCVの持続感染や肝炎の慢性化に関与していると考えられている. RNAウイルスは一般に遺伝子変異を起こしやすく,このことがHCVワクチンの開発を困難にしている. 一方,HCVが複製する蛋白は細胞内で多彩な生理活性を呈することが知られており,このことがHCVの肝発癌に関与すると考えられている.特にコア蛋白に関する研究が注目されており,コア遺伝子を組み込んだ遺伝子導入マウスで発癌が確認されているし,肝細胞の脂肪化にも関与していると考えられている.[溝上雅史]
■文献
Hollinger FB, Ticehurst J: Hepatitis A virus. In: Virology, 2nd ed(Fields DM ed),pp631-670, Raven Press, New York, 1990.
加藤宣之,土方誠也:ウイルス複製と遺伝子発現,C型肝炎ウイルス.蛋白質核酸酵素,37(10月増刊号):2626-2632, 1992.
岡本宏明,真弓 忠:肝炎ウイルスと肝炎の発症機序,B型.最新内科学大系 48,ウイルス肝炎—肝感染症(井村裕夫,尾形悦郎,他編),pp12-39,中山書店,東京,1991.

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六訂版 家庭医学大全科 「C型肝炎ウイルス」の解説

C型肝炎ウイルス(HCV)
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

 C型肝炎ウイルス(HCV)が発見されたのは、1989年のことです。

 HCVに冒された肝細胞は、免疫機能によって破壊されては再生しています。この修復の過程で、肝臓では10~30年以上かけて線維化(皮膚の傷跡のように、元どおりに再生せず硬くなってしまうこと)が進み、次第に肝臓は「結節(けっせつ)」(こぶ)ができて硬くなっていきます。

 肝線維化の程度を表す指標にはF分類があり、おおむね年間発がん率はF1(軽度)で0.5%未満、F2(中度)で1.5%、F3(高度)で5%、F4(肝硬変)で8%と線維化が進むほど発がん率が上がることがわかってきました(図1)。

 また、HCVの感染により、肝臓以外の臓器も冒されることがまれにあります。HCV感染はクリオグロブリン血症による腎炎、HCV腎炎、心筋症、リンパ腫シェーグレン症候群(ドライアイ、ドライマウス)、晩発性皮膚(ばんはつせいひふ)ポルフィリン(しょう)(光線過敏性皮膚炎など)、扁平苔癬(へんぺいたいせん)、糖尿病などの原因になりうることが知られています。

 HCV感染のほとんどは血液を介したものです。輸血や手術などで使われた血液製剤によって感染したと思われる場合が多く、ほかに注射針を介しての感染が考えられます。

 いずれもHCVの存在がわからなかった時代のことで、今は検査法も確立されているのでこうした感染はまず心配ありません。ただ現在でも刺青(いれずみ)・薬物注射といった行為で他人と器具を共有すれば、感染の可能性はあります。

 自分がC型肝炎ウイルスに感染していることに気づいていない人は、まだまだたくさんいます。40歳以上で過去に輸血や手術を受けたことのある人、若い人で刺青などで他人と器具を共有したことのある人で、C型肝炎ウイルス検査を受けたことのない人は、一度調べてみてください。検査は保健所でも可能ですし、検査費補助のある自治体もあります。


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「C型肝炎ウイルス」の意味・わかりやすい解説

C型肝炎ウイルス
シーがたかんえんウイルス
hepatitis C virus

輸血をおもな感染経路とするC型肝炎の病原体ウイルスで,HCVともいう。 1989年,アメリカのカイロン社によって遺伝子が発見されたが,粒子の発見には至っていない。日本では,非A非B型肝炎の 90%を占めるといわれている。有効な薬品としてはインターフェロンなどが良く知られている。

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