消化器系に属する消化腺(せん)で、肝臓とともに二大消化腺とされる。膵臓は、消化に必要な膵液を分泌する外分泌腺と、特別な細胞群からなる内分泌腺とで構成されており、自律神経の支配を受ける。
[嶋井和世]
全体としてはウシの舌状の細長い臓器で、外観は大唾液(だえき)腺の耳下(じか)腺とか顎下(がくか)腺などに似ている。表面はやや赤みがかった灰白色を呈している。また、表面からは明らかな分葉構造がみられる。膵臓の長さは15センチメートル、厚さは約2センチメートル、重さは平均70グラムである。細長いこの臓器は、第1、第2腰椎(ようつい)の前方に横たわるようにして位置するため、前面(腹面)のみが腹膜に覆われ、後面は腹腔(ふくくう)後壁に接着している。
膵臓は膵頭、膵体、膵尾の3部分に区分される。右端が膵頭で、もっとも太く、かつ鉤(かぎ)の頭のように曲がっており、膵頭全体は十二指腸のC字状に彎曲(わんきょく)した部分にはまり込んでいる。膵頭に続く膵体は脊柱(せきちゅう)を横切るように左方へと延びている。左方は細い膵尾となり、膵尾の左端は鈍くとがっている。膵尾の部分は脾臓(ひぞう)の下部に接している。膵頭と膵体との境の部分の下縁には、膵切痕(せっこん)とよぶ切れ込みがあり、ここから膵臓の後面を通る上腸間膜動・静脈が現れてくる。膵体部分はほぼ三角柱状で、3面、すなわち前面、後面、下面が区別できる。前面は腹膜に覆われ、さらに網嚢(もうのう)を隔てて胃の後面がくる。そのほか、前面には十二指腸上部、横行結腸などがある。後面は後腹壁に接着して、その間を総胆管、門脈、下大静脈、腹大動脈などが通り、左腎(さじん)、脾門などが接している。
[嶋井和世]
外分泌腺としての膵臓の構造は、一般の腺組織、とくに耳下腺に類似の組織構造を示すため、「腹部の唾液腺」という異名もある。膵臓を覆っている結合組織は内部に侵入して小葉間結合組織となり、これによって腺小葉が分けられている。腺構造は漿液(しょうえき)性の複合胞状腺で、分泌細胞の内部には強屈折性を示す分泌顆粒(かりゅう)が含まれる。この顆粒を酵素原顆粒(チモーゲン顆粒)とよび、分泌細胞の内層部(細胞先端部)に集積している。分泌細胞の基底部にはリボ核酸(RNA)が多く、タンパク合成が盛んに行われている。
内分泌組織は膵臓実質組織の中に島のように散在する内分泌細胞群によって形成され、これを膵島(ランゲルハンス島ともいい、19世紀のドイツの病理学者P. Langerhansにちなむ)とよぶ。膵島の直径は約50~200マイクロメートルで、比較的、膵尾に多く分布する。膵島内の細胞は50万個くらいとされるが、その数量幅は20万個から200万個まであるとされる。膵島の中にある細胞は3種に分類される。すなわち、A細胞(α(アルファ)細胞)、B細胞(β(ベータ)細胞)、D細胞(δ(デルタ)細胞)である。このうち、B細胞が最多数で、膵島細胞の60~80%を占め、特殊な塩基性色素(アルデヒドフクシン、クロムヘマトキシリン)で青紫色に染まる分泌顆粒をもっている。この顆粒内にインスリンinsulinが含まれる。A細胞は大型であり、数は少ない。膵島細胞の15~20%を占め、赤い酸性色素(アゾカルミン、酸性フクシン)に赤く染まる分泌顆粒をもち、顆粒内にはグルカゴンglucagonが含まれる。D細胞はもっとも少数で、小型である。膵島内では10~20%を占め、とくに鍍銀(とぎん)染色で好銀性を示すので他の細胞と区別できる。この細胞の顆粒にはソマトスタチンsomatostatinが含まれる。このほか、膵島の周辺部や外分泌細胞間にはD細胞よりも小さい細胞が散在し、この細胞をF細胞あるいはpp細胞とよび、近年みいだされた膵ポリペプチドpancreatic polypeptideを含むとされるが、この同定についてはまだ不確定な部分が多い。
なお、血管系でみると、膵臓には脾動脈と膵十二指腸動脈からの枝が分布しているが、膵島内部の血管は洞様毛細血管で、外分泌部の毛細血管よりも太い。
[嶋井和世]
膵臓の外分泌腺から分泌される消化液で、消化にとって重要なものである。膵液は、分泌腺を形づくる腺房細胞から分泌される消化酵素、腺房中心細胞や介在管の上皮細胞から分泌される水、電解質が混合したものである。膵液の分泌は、1日に700~1500ミリリットルである。膵液は、無色透明、アルカリ性、pH約8.5、重炭酸ナトリウムの含量が多い粘稠(ねんちゅう)な液で、膵管を通り、胆汁の排出口と同じ十二指腸乳頭部から十二指腸の内腔に排出される。膵液の主たる役割は、(1)アルカリ液により、胃から十二指腸に運ばれた内容物を中和すること、(2)消化酵素により、食事由来の糖質、タンパク質、脂肪を分解することである。
膵液には、糖質、タンパク質、脂肪を分解する多くの消化酵素が含まれている。おもな消化酵素には以下のようなものがある。(1)アミラーゼamylase 糖質を分解する。(2)トリプシノーゲンtrypsinogen 腸液中のエンテロペプチダーゼ(エンテロキナーゼ)により、活性をもつトリプシンとなり、タンパク質を分解する。(3)キモトリプシノーゲンchymotrypsinogen トリプシンによりキモトリプシンとなり、タンパク質を分解する。(4)リパーゼlipase 脂肪をモノグリセリドと脂肪酸に分解する。(5)ヌクレアーゼnuclease 核酸を分解する。
膵液の分泌は迷走神経によって促進され、食物が口に入るとともに反射がおこって分泌が始まる。この時期の膵液は、分泌量は少ないが消化酵素に富んでいる。やがて、十二指腸に食物が入ってくると、十二指腸粘膜からセクレチンsecretin、パンクレオチミンpancreozyminというホルモンが分泌され、それらが膵臓の外分泌細胞を刺激して膵液分泌が促進される。このうち、セクレチンによって分泌される液は、重炭酸ナトリウムの含量が多く、分泌量も多いが、パンクレオチミンによって分泌される液は、消化酵素を多く含むが、分泌量は少ない。このほか、胃から分泌されるガストリンgastrinは膵液の分泌を盛んにする。このように、膵液分泌は神経と、消化管から分泌されるホルモンによって調節されている。
[市河三太・泉﨑雅彦]
膵島のB細胞(β細胞)から分泌されるポリペプチドである。21個のアミノ酸からなるA鎖と、30個のアミノ酸からなるB鎖とがS‐S結合している。B細胞の中では、インスリンよりも大きな分子であるプレプロインスリンが合成され、それが単鎖のプロインスリンとなる。分泌される前にペプチド結合が解かれ、インスリンとなる。食後に血液中のグルコースが増加すると、B細胞からインスリンが分泌される。グルコースはB細胞内へ取り込まれ、その結果カルシウムイオンがB細胞内へ流入し、インスリン分泌がおこる。また、迷走神経の興奮やグルカゴン、胃抑制ペプチド(GIP)などの消化管ホルモンもインスリンの分泌を促進する。
インスリンの生理作用としては次のようなものがあげられる。(1)グルコーストランスポーターを介しての筋肉や脂肪組織へのグルコースの取り込み促進(その結果、血糖値が低下する)、(2)グリコーゲン合成の促進、(3)細胞内へのアミノ酸取り込み促進、(4)タンパク合成の促進、(5)肝臓や脂肪組織での脂肪合成促進と脂肪分解抑制。
[市河三太・泉﨑雅彦]
膵島のA細胞(α細胞)から分泌される物質で、29個のアミノ酸からなる単鎖のペプチドである。血液中のグルコースが減少すると(低血糖)、分泌が刺激される。逆にグルコースが増加すると(高血糖)、分泌は抑制される。アルギニンなどのアミノ酸は分泌を刺激する。また、遊離脂肪酸によって抑制される。グルカゴンは、肝臓におけるグリコーゲンの分解やアミノ酸からの糖新生を促進し、血糖値を上昇させる。脂肪分解を促進する作用もある。
[市河三太・泉﨑雅彦]
膵臓のD細胞(δ細胞)から分泌されるソマトスタチンは、14個のアミノ酸からなるペプチドである。ソマトスタチンは、インスリンやグルカゴン、ガストリンの分泌を抑制する。ソマトスタチンは、視床下部から分泌される成長ホルモン放出抑制ホルモン(GIH)として発見されたもので、それは下垂体前葉に働いて成長ホルモンの放出を抑制する作用をもっている。なお、F細胞から分泌される膵ポリペプチドは36個の直鎖のペプチドであるが、その働きについては不明な点が多い。
[市河三太・泉﨑雅彦]
インスリンは細胞内へのグルコースの取り込みを促進するため、結果として血糖値を低下させるホルモンといえる。したがって、インスリンの作用不足は、血糖値の増加を引き起こす。糖尿病は、主としてインスリンの作用不足により引き起こされる慢性の高血糖を主徴とする疾患である。高血糖を呈し、多尿、口渇、多飲、体重減少、易疲労などの症状が出現する。さらに高血糖が続くことにより、多くの臓器、とくに神経や血管が傷害される。その結果、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害をはじめとする種々の合併症が引き起こされる。糖尿病はその成因により次のように分類される。(1)1型糖尿病、(2)2型糖尿病、(3)その他の特定の機序(メカニズム)、疾患によるもの(薬剤服用や他の内分泌疾患に伴うものなど)、(4)妊娠糖尿病である。
1型糖尿病は、主として自己免疫機序によって発症する。膵B細胞(β細胞)が破壊され、多くはインスリンが絶対的に欠乏する。比較的若年者で、急激に発症することが多い。膵島関連自己抗体(抗GAD抗体や抗IA-2抗体など)が高率に陽性となる。通常はインスリン療法による血糖管理が必要となる。
2型糖尿病は、糖尿病の大多数を占める。インスリン分泌低下あるいは標的細胞でのインスリン抵抗性が原因となり、高血糖が引き起こされる。インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されていてもその濃度に見合う作用が得られない状態である。中年以降に緩徐に発症することが多い。過食や肥満、運動不足などが原因となる。食事療法による摂取カロリーの制限や運動療法が治療の基本となる。これらはインスリン抵抗性を改善するといわれている。食事療法や運動療法で血糖がコントロールされない場合、薬物療法が行われる。インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗性改善薬などの投与、インスリン療法などが行われる。
その他に糖尿病の原因となる病態として、慢性膵炎などによる膵性糖尿病、クッシングCushing症候群や先端巨大症などの内分泌疾患、肝硬変などの肝疾患、副腎皮質ステロイド剤の服用などがあげられる。妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて出現した糖尿病や耐糖能異常をさす。
[市河三太・泉﨑雅彦]
膵島移植は、インスリンを産生する膵B細胞(β細胞)を移植し、インスリン分泌能を回復させることを目的とする。内因性インスリン分泌がなくなった1型糖尿病で、糖尿病専門医の治療努力によっても血糖管理が困難な患者に対する治療法として、膵島移植が選択されることがある。日本では心停止ドナーあるいは生体ドナーからレシピエント(患者)へ膵島が提供される。ドナー膵から膵島細胞を分離し、レシピエントの門脈へ注入する。膵島細胞は肝臓内で生着し、インスリンを分泌する。患者がインスリン治療から離脱するためには、複数回の移植が必要となることが多い。インスリン治療からの離脱ができない場合でも、インスリン必要量の減少や血糖値の安定化による低血糖発作の消失などの利点がある。膵島移植は膵臓移植に比して侵襲が少なく、最近では免疫抑制剤の進歩と複数回の移植を行うなどの治療法の改善により、その移植成績が高まってきている。今後は長期成績のさらなる向上が必要と考えられている。
[市河三太・泉﨑雅彦]
脊椎(せきつい)動物においても、膵臓は消化管に付属する腺(せん)で、膵液を分泌する外分泌性の組織と、ホルモンを分泌する内分泌腺の組織とよりなる。内分泌性組織は膵島(ランゲルハンス島)とよばれ、A細胞はグルカゴン、B細胞はインスリン、D細胞はソマトスタチンを分泌すると考えられている。硬骨魚では一般に外分泌組織と内分泌組織とが分かれている。また鳥類ではA細胞とB細胞は別の膵島にあるという特徴をもっている。
[菊山 栄]
『門田直幹他編『新生理学 下巻』(1982・医学書院)』▽『中野哲著『膵臓病教室』(1993・新興医学出版社)』▽『竹内正編『膵臓病学』(1993・南江堂)』▽『W・F・ギャノン著、岡田泰伸・赤須崇・上田陽一他訳『医科 生理学展望』原書20版(2002・丸善)』▽『竹井謙之・佐藤信紘著『消化器学用語辞典――肝・胆・膵』最新版(2004・メディカルレビュー社)』▽『真辺忠夫著『まるごと一冊 膵臓の本』第2版(2004・日本プランニングセンター)』
あらゆる脊椎動物がもっている消化器付属器官で,消化酵素を分泌する外分泌部と,内分泌部の膵島(ランゲルハンス島)からなる。膵臓の原基は腸管に由来する内胚葉性の数個の突起で,それらが合してつくられるが,多くの硬骨魚類では独立した器官とならず分散している。原基基部は膵管となるが,動物の種類によってはこれと独立に膵管をつくるものもある。外分泌性組織は膵液を産生する腺房細胞と,それにつづく介在部と導管とからなる。膵島は外分泌性組織の導管上皮からの突起として生じ,多くの動物では発生途上で導管からの連絡を失う。しかし,サメ類では膵管上皮の外側に層をなして存在し,ギンザメ類では膵島として部分的に離れている。硬骨魚以上の脊椎動物では,膵島として離れて独立して存在する。内分泌性組織はグルカゴンを分泌するA細胞,インシュリンを分泌するB細胞などを含むが,円口類にはグルカゴンを分泌する証拠がなく,A細胞も確認できない。
執筆者:川島 誠一郎
膵臓は,前300年ころにアレクサンドリアのヘロフィロスによって初めて記載されたといわれており,古代ギリシアの有名な医師であるエフェソスのルフォスRouphosによって,後100年ころにpankreasという名がつけられた。ギリシア語pankreasは,pan(〈すべて〉)とkreas(〈肉〉)の合成にもとづく。骨や軟骨がなく,一見肉の塊のように見えたからであろう。このようにギリシア人は,当時,明らかに膵臓の存在を確認していたが,機能については考えが及ばなかったようで,単に,胃と脊椎をつないでいる肉の塊で,クッションのような役割を果たしていると考えていたようである。
東洋医学には〈膵臓〉という概念はなく,いわゆる五臓六腑に入っていない。〈膵〉という字は,江戸時代に宇田川玄真によって造られた和製漢字で,《医範提綱》(1805)に初めて載せられたものである。萃は〈集まる〉という意味で,月(にくづき)と合わせて〈膵〉は〈肉の集合したもの〉すなわち原語のpancreas(pankreas)と同じように,〈すべてが肉からなる〉ということを表したものである。
膵臓は,自己のもっている消化酵素によって,死後比較的早く自己融解autolysisを起こし,解剖したときに認めにくいことが多かったと思われる。このようなわけで,膵臓はあまり注目されなかった臓器であり,外国の教科書にもsilent organ(沈黙の臓器)と書かれており,平素は,その存在が気づかれずにいる臓器である。しかし近年,膵臓の病気が注目されてきているが,これは,診断法の進歩によりそれと診断される例が多くなり,また実際に,急性膵炎,慢性膵炎,膵癌など膵臓の病気が増加しているからである。
ヒトの膵臓は腹部の深部に位置し,第1,2腰椎の前,胃の後方にあり,腹部の血管系と密接にかかわりあっている腹膜後臓器である。このような解剖学的な特徴により,膵臓は触診しにくく,膵臓疾患のときに診断が困難である理由の一つになっている。さらに,開腹手術の際にも膵臓への到達が面倒な理由となっている。
膵臓の右側は十二指腸に囲まれており,そこから斜め上方に走り,脊椎の前方を弧状にまたぎ,左は脾臓に接する扁平な細長い臓器で,重さは70~100g,長さは平均15cm,厚さは最大のところで3cmくらいである。十二指腸に接する部分は頭部(膵頭),腰椎の前は体部(膵体),そこから脾臓に接するところを尾部(膵尾)と呼んでいる。頭部が厚さも幅も最も大きく,尾部では細くなっている。全体の形は勾玉状,あるいはオタマジャクシのような形をしている。色は淡紅白色を呈し,硬さはゴム状の弾性がある。さらに解剖・生理学的な特徴として,血流に富み,リンパ流の多いこと,神経繊維がたくさん分布していることがあげられる。この特徴によって,活発なタンパク質合成が行われ,消化酵素を分泌するなどの機能が発揮されるが,いったん病気になると不都合なことが起こる。膵臓には神経分布が多いため,膵臓の病気では一般に疼痛が強いのが一つの特徴であり,血管に富んでいるため,急性膵炎のときには出血性膵炎となりやすく,またリンパ流に富んでいるため,膵癌のとき,容易に遠隔転移が起こりやすい。
膵臓は二つの異なる働きをする構造から成り立っている。一つは,膵臓の消化腺としての働きをする部分,すなわち膵液を産生・分泌する外分泌部で,全体の80%を占め,他方はホルモンをつくる内分泌部である。
外分泌部の主要な細胞である腺房細胞では,消化酵素が合成・分泌され,導管を通る間に,導管の上皮細胞から分泌される水分と炭酸水素ナトリウムと混和し,pH7.0~8.8の弱アルカリ性の無色透明な粘稠度の低い液体として十二指腸内に分泌される。1日の分泌量は800~1500mlといわれている。実際には,膵液が十二指腸に出るときに,同時に胆汁分泌も起こっているので,胆汁と混合して茶褐色を呈する。十二指腸内腔において,胃から出てくる酸性の胃内容物と膵液とが混じ,pHを中性ないし弱アルカリ性とし,膵液中に含まれている各種の消化酵素が働きやすい環境をつくる。食物の本格的な消化は,膵液中に含まれる消化酵素により小腸内で行われる。
膵液は消化に必要ないろいろな酵素を含んでいる。タンパク質を分解する酵素としてトリプシン,キモトリプシン,カルボキシペプチダーゼ,エラスターゼなど,デンプンを分解する酵素としてアミラーゼ,脂肪を分解する酵素としてリパーゼ,エステラーゼなど,核酸を分解する酵素としてリボヌクレアーゼ,デオキシリボヌクレアーゼがある。これらはいずれも中性・弱アルカリ性でその作用を発揮する。アミラーゼ,リパーゼ以外の消化酵素は,十二指腸内に出るまでは,それぞれの作用をもたない前駆物質として存在している。たとえば,トリプシンはトリプシノーゲンとして,エラスターゼはプロエラスターゼという不活性の状態で存在しており,膵臓内で作用して組織を消化しないようになっている。
内分泌部は顕微鏡的には小さくて明るい細胞の集まりであり,その細胞群が外分泌部の中に点在し,ほぼ球形の島状に見えるため,膵島または発見者の名前にちなんでランゲルハンス島と呼ばれる。膵尾に比較的多く分布している。主としてインシュリン(膵島のB細胞から),グルカゴン(同じくA細胞から)などの糖代謝に関係するホルモンを血液中に分泌している。
食物が胃の中に入ると,胃の幽門部から消化管ホルモンであるガストリンが血液中に放出され,それが胃粘膜の塩酸を分泌する細胞に働いて塩酸を出させるため,胃内は酸性となる。胃内の食物はこの酸性の状態で働くペプシンというタンパク質分解酵素によりある程度消化される。胃の内容物が酸性のまま十二指腸内に入ると,十二指腸粘膜からセクレチン,コレシストキニン-パンクレオチミンという消化管ホルモンが血液中に放出され,循環して膵臓に至り,膵液の分泌を促す。セクレチンは膵臓の導管系細胞から水と炭酸水素ナトリウムを分泌させ,コレシストキニン-パンクレオチミンは腺房細胞に働いて,消化酵素の合成・分泌をたかめる。このようにしてアルカリ性の膵液として導管を通り,太い膵管に集められて十二指腸内に分泌される。またコレシストキニン-パンクレオチミンは同時に胆囊を収縮させ,胆汁を分泌させる。なおセクレチンは,1902年,イギリスのベーリスWilliam Maddock Bayliss(1860-1924)とスターリングErnest Henry Starling(1866-1927)によって発見された最初のホルモンである。
内分泌部の障害によってインシュリンの分泌不足が起こると,糖尿病となる。しかしインシュリンの分泌が正常でも,その利用が悪いときも糖尿病になる。外分泌の障害が起こる病気には膵炎,膵癌がある。膵炎には急性膵炎と慢性膵炎があり,炎症のあとに囊胞をつくって膵囊胞として認められることがある。慢性膵炎のなかには膵管の中に結石が沈着した膵石症といわれるものがある。膵癌の大多数は導管系の細胞由来のもので,膵酵素をつくる腺房細胞由来のものは少ない。膵臓の内分泌細胞が腫瘍化すると,ホルモンの分泌が多くなり,そのホルモン特有の臨床症状を呈する。インシュリンを過剰に分泌すると,低血糖ショックを起こしたりする。また腫瘍がガストリンを産生・分泌するようになることもあり,ゾリンジャー=エリソン症候群といって,胃液分泌が異常にたかまり,難治性の消化性潰瘍を生ずる。
執筆者:竹内 正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…副甲状腺はパラトルモンparathormoneを分泌する。(5)膵臓 内分泌性組織はランゲルハンス島にある。発生学的には,十二指腸の突起として生じた膵臓の外分泌性組織の導管あるいは小管の上皮の突起がランゲルハンス島となる。…
※「膵臓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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