さなぶり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「さなぶり」の意味・わかりやすい解説

さなぶり

田植終了の祝いをいう。早苗振りなどと書くのは根拠のない当て字である。九州地方ではサノボリといって、田の神が田植を終わって天に帰る日という。静岡県などで田植開始の日をサオリ(田の神が天から降(くだ)る日)ということによってみても、「サ」が「田の神」のことを意味していたと考えられる。サナブリには、めいめいの家の田植の終わった祝いである家サナブリと、村全体の田植の終わった場合の村サナブリとがある。関西地方ではサナブリのことをシロミテとよぶ土地が多く、これにもサナブリと同様に家々の小シロミテと、村全体の大シロミテとの二つがある。家サナブリは日が一定していないのが普通であり、一軒が終わるとまた次の日に他家のサナブリを行う。村サナブリは村全体の田植が終了してからのことであるので、期日を決めることができるが、遅れて7月に入ってする場合もある。また静岡県や長野県には、村サナブリの日を毎年一定している例もある。サノボリの際には早乙女(さおとめ)や作男に対して小宴を開いている。埼玉県川越市では荒神様に苗を2把、ぼた餅(もち)、果物などを供えるという。また馬鍬(まぐわ)をきれいに洗ってこれにも供え物をする。サナブリは普通田植についていうが、麦のサナブリ、芋のサナブリを祝う例もある。

[大藤時彦]

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改訂新版 世界大百科事典 「さなぶり」の意味・わかりやすい解説

さなぶり

田植の終りに田の神を送る祭りで,田植始めに行うサオリに対する。〈さ〉は田植もしくは田の神を意味し,サナブリはこの神が昇天するサノボリの転訛といわれる。地方ごとの呼称も多く,サノボリは四国,九州地方に,サナブリは東北,関東地方に多い。北陸,中国地方にはシロミテという地域もある。シロは植田,ミテは完了の意味で,神事としての意識が薄れてからの呼称と思われる。田の水口屋内の荒神(こうじん),竈神に残り苗を供えて祭り,とくに,早乙女(さおとめ)を上席にして宴を催す風習もある。この日は休み日で,かつては忌籠(いみごもり)の日であった。日を定めて村中で行う村サナブリと家ごとに行う家サナブリとがある。田植の労働組織の変化などから,村サナブリが先行するものと考えられている。地方によっては両者を行う形といずれか一方だけを行う形とがみられる。
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百科事典マイペディア 「さなぶり」の意味・わかりやすい解説

さなぶり

田植終了後,田の神を送る行事。〈さのぼり〉とも,西日本では〈しろみて〉とも。田や水口(みなくち),屋内の荒神竈(かまど)神に苗を供え,田植に参加した人を招いて祝宴をはり(早乙女(さおとめ)を特に上座にすえた),のち忌ごもりを行った。今日ではその祝宴が消滅し,忌ごもりが転じた単なる休息の日としている所も多い。→さおり

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「さなぶり」の意味・わかりやすい解説

さなぶり

サノボリともいう。田植え終了後の祝いまたは休日田植えの始めの日をサオリ,サビラキなどというのに対していわれる。田の神が,田植えが終るのを見て帰る日と信じられ,この日に田の水口やあぜ,または床の間などに,苗を供えて田の神を祀る風習が日本各地にみられる。祝いには,家ごとに行う家サナブリと日を定めて村中で行う村サナブリとがある。また和歌山県では大休と小休,山陰地方ではシロミテと呼んで大代ミテと小代ミテというように両者が並存する形がある。もとは祝いに続いて忌籠 (いみごも) りがあったらしいが,現在ではただの休日とするところが多い。

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世界大百科事典(旧版)内のさなぶりの言及

【田の神】より

…祭日も農耕の段階に応じて春秋に分布し,とくに田植時に盛んにまつられ,秋は稲の刈上げにまつられる。〈さなぶり〉〈さのぼり〉〈さおり〉〈さんばい降(おろ)し〉などは前者の例であり,西日本から太平洋沿岸を千葉,茨城,埼玉の一部にわたって分布する亥子(いのこ)や関東北西部から甲信越地方に分布する十日夜(とおかんや)は後者の代表的なものである。田の神の石像が南九州に限って分布するのが注目される。…

※「さなぶり」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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