中国山地の北側,日本海に面する地方をいい,狭義には鳥取・島根両県を,広義では京都府や兵庫・山口両県の北部を含む。名称は古代の地方行政区画,五畿七道の一つである山陰道に由来し,旧丹波,丹後,但馬,因幡,伯耆,出雲,石見,隠岐の8ヵ国を指す。古代出雲は日本でも最も早く開けた地方の一つで,銅鐸39個が一括埋納されていた島根県大原郡(現,雲南市北東部)の〈加茂岩倉遺跡〉の謎は測り知れない。しかし,瀬戸内海と山陽道を北九州や大陸との文化回廊として重視した大和政権下では発展から取り残されていた。大山(だいせん),三瓶(さんべ)山など火山が多く,また東西にのびる中国山地の分水界がやや北にかたよっているため一般に山がちで,千代(せんだい)川,日野川,斐伊(ひい)川などは急流をなし,平野は下流部を除いてほとんど見当たらない。冬季多雪の日本海型気候のため,水稲単作型の農業にとどまり,江戸時代の山陽地方にみられたような商品作物の導入はほとんどなかった。現在でも商品作物は鳥取県の二十世紀梨,萩のナツミカンぐらいである。江戸時代の特産には丹後のちりめん,伯耆・出雲の木綿,出雲・伯耆・石見の鉄・鋼(はがね),石見の銀があったが,鉱産は明治に入って衰えた。鉄道の発達にも違いがあり,山陽本線が明治30年代に全通したのに対し,山陰本線の全通は昭和に入ってからで,複線化,電化も遅れている。
総世帯数に占める農家の割合(農家率)は急速に低下し,島根,鳥取両県とも22%(1995)になった。しかし,山陽側の広島,山口の両県に比べると,なお2倍の高さである。工業が低調なことはいっそう明瞭で,鳥取・島根両県の製造品出荷額等の順位はつねに全国最後尾にあまんじ,その内容も食料品,パルプ・紙,木材・木製品といった原料加工型にかたよっていた。しかし,中海地区新産業都市をはじめ鳥取・北長門の両地区が工業開発地区に指定され,また国道9号線の改修や中国自動車道の開通(1983)など道路交通網の整備に刺激されて,近年ようやく阪神からの電気機械,繊維製品などの工場が進出し,また中海地区にも鉄工団地の建設,食料品や木工業の工場立地がみられる。これによって電気機械は,製造品出荷額の首位を占めるようになった。開発が遅れた反面,山陰海岸・大山隠岐(だいせんおき)両国立公園,氷ノ山後山那岐山(ひようのせんうしろやまなぎさん),比婆道後帝釈(ひばどうごたいしやく),北長門海岸,西中国山地の各国定公園に含まれる景勝地や,皆生(かいけ),玉造,三瓶などの温泉があり,多くの観光客をひきつけているとともに,国民生活の〈豊かさ指標〉の住みやすさ,育てやすさでは鳥取,島根両県はつねに高位にランクされている。
→中国地方
執筆者:藤原 健蔵
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国地方の日本海沿岸の鳥取県、島根県および山口県北部を含む地域をさし、瀬戸内側の山陽地方と対する呼称。京都府や兵庫県の日本海沿岸まで含めることもある。古代の山陰道は、丹波(たんば)、丹後(たんご)、但馬(たじま)、因幡(いなば)、伯耆(ほうき)、隠岐(おき)、出雲(いずも)、石見(いわみ)の諸国がこれに属し、出雲は神話時代から山陰地方の中心として特色ある文化圏を形成していた。
中国脊梁(せきりょう)山地の北斜面を占め、東西に細長い地域で、出雲平野や宍道(しんじ)湖を抱く島根半島付近のほかは単調な海岸線が続く。第四紀火山の大山(だいせん)(1729メートル)や三瓶山(さんべさん)、青野山などが噴出し、皆生(かいけ)、玉造(たまつくり)など各地に温泉が湧出(ゆうしゅつ)する。日本海式気候に属し、冬は北西季節風の影響で、北陸地方ほどではないが、雪の日や曇天が多い。
山陽地方に比べて人口密度が低く、第一次産業がおもで、ナシの栽培やナガイモ、ラッキョウの特産で知られる砂丘農業の先進地である。一方、工業化は後れており、都市も分散的で少なく、人口10万以上は、近世の城下町から発展した県庁都市の鳥取と松江、新産業都市の米子(よなご)、平成の合併を経ての出雲市だけである。東西に単線の山陰本線が走り、因美(いんび)、伯備(はくび)、山口などのJRの陰陽連絡線があり、中国縦貫自動車道に結ぶ道路網の開発が進められている。
[三浦 肇]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新