日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリスタン」の意味・わかりやすい解説
トリスタン
とりすたん
Flora-Célestine-Thérèse-Henriette Tristan Moscoso
(1803―1844)
労働者および女性解放の運動家。ペルー系スペイン貴族の父とフランス革命亡命者の母との間の私生児として、パリに生まれる。サン・シモン、フーリエ、オーエンらの主張する社会問題の解決を実践に移すべきだとして、1843年『労働者同盟』Union ouvrièreを著し、男女労働者の階級的連帯による解放を呼びかけた。マルクスの先駆ともいわれる。彼女の独自性は、既存の職人労働者の諸組織すなわち伝統的コンパニョナージュ(職人組合)、相互扶助組織、生産協同組合などを利用しつつ、その枠を超えて国民的・国際的規模で彼らを組織し、その資金で労働者の擁護者を国会に代表させ、過激な共和主義や秘密結社活動を退け、合法主義の立場で、労働者大衆に階級的力量を与えようとした点にある。その啓蒙(けいもう)活動中ボルドーで客死したが、そこに二月革命後、労働者の基金で記念碑が立てられた。彼女は、女性を社会的「パリアparia」(のけ者)と称して、その解放を労働者階級解放の前提条件と主張し、フェミニズムの立場からも注目されている。その生涯は、「虐げられた人々の利益のために生涯を献(ささ)げたのでなかったら、狂気的冒険小説でしかない人生」(ジャン・バエレン)であった。なお、彼女は画家ゴーギャンの祖母にあたる。
[杉村和子]
『水田珠枝著『女性解放と労働者意識の形成――フロラ・トリスタンをめぐって』(『女性解放思想史』所収・1979・筑摩書房)』▽『黒木義典著『フロラ・トリスタン』(1980・青山社)』▽『ロール・アドレール「フロラ・トリスタン、ポリーヌ・ロランとその他の女たち」(ジャンポール・アロン編、片岡幸彦監訳『路地裏の女性史』所収・1984・新評論)』