京都府生れの作家細井和喜蔵(1897-1925)の著書。1925年刊。主として大正時代後期の紡織女工の労働条件や生活状態の記録。明治時代の女子労働者の記録としては,農商務省による《職工事情》(1903)や横山源之助の《日本之下層社会》(1899)などが知られているが,本書は,女工の立場に立った〈圧制な工場制度〉の告発という点に特徴があるといえる。これは著者自身が14歳のころから15年間紡績工場の下級職工として働いた経歴をもち,本書がその当時の体験をもとに書かれたという事情と無関係ではない。本文で注目されるのは女工募集の実態に関する叙述である。とくに大正期に入り募集の方法が企業内福利施設の整備を武器により狡猾(こうかつ)となっていく状況が,工場の宣伝びらや募集人と父母との会話などをもとに生々しく描かれている。また労働時間,賃金水準・形態に関する叙述も当時の女子労働者の労働条件を知るうえで貴重な資料である。なお,細井にはほかに《工場》《奴隷》などの著書がある。
執筆者:佐口 和郎
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近代日本の経済発展を担った大機械制工場下の紡績業・織布業の「女工」(女子労働者)の実態を描いた記録。細井和喜蔵(ほそいわきぞう)著。1925年(大正14)7月改造社刊。1916年の工場法施行後も紡績業などでは深夜業がなくならず、「女工」の多くは過酷な労働条件、自由を拘束される寄宿舎生活のもとに置かれていた。本書はヒューマンな眼(め)で、「女工」募集法、雇傭(こよう)契約制度、労働条件、虐使、寄宿舎生活、「福利増進施設」などの実態と、「女工」の心理や病理を精緻(せいち)に描き(「女工小唄(こうた)」も採譜収録)、あわせて工場の組織と経営実態についても鋭いメスを加えている。文献資料とともに著者自身の職工体験、寄宿舎生活を送った妻、堀(現姓高井)としをの体験などをもとに書かれた。初版刊行後たちまち版を重ね、深夜業廃止および20年代後半の紡織労働運動発展の礎(いしずえ)となり、その印税は労働者解放の資にされた。古典的文献として今日も読み継がれている。
[阿部恒久]
『『女工哀史』(岩波文庫)』
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紡織女工に関する細井和喜蔵(わきぞう)の著書。1925年(大正14)刊。著者は鐘紡や東京モスリンの職工生活の経験をもち,友愛会の活動家としても活躍した。彼と妻の紡織工場での労働体験にもとづき,女工の立場から募集人や労務管理・労働条件の実態,女工の心理などを生々しく描いた名著で,女工労働の研究の基本資料。刊行直後に著者が死亡し,印税は女工の解放運動に役立てられた。「岩波文庫」所収。
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…20年上京し東京モスリン亀戸工場に入り,労働運動に参加するなかで同じ職場の女工堀としをと結婚。退職後,妻に生活を支えられながら,23年から《女工哀史》の執筆にとりくみ,24年脱稿。翌年改造社から出版されたが,刊行の翌月死去。…
※「女工哀史」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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