横山源之助の労作で1899年(明治32)刊。横山は1894年末の毎日新聞社入社後,日本の下層社会の実態調査に着手したが,やがて佐久間貞一の援助を得て本格的に取り組むようになり,東京,大阪,神戸,桐生,足利,前橋,富山などの現地を精力的に視察して,都市雑業層や職人,織物業・生糸業・マッチ製造業・紡績業・重工業の労働者,小作農民の労働と生活の実態を克明にとらえた。成果はそのつど新聞や雑誌に発表された。これらを再検討し,体系的に集成して公にしたのが本書であり,付録として日本の社会運動の歴史と現状を論じた項を載せている。興味本位の社会探訪記などに示される従来の水準をはるかにこえて,社会運動に連帯する立場から,産業資本主義確立期の労働者,農民,都市雑業層の状態を正確かつ克明にとらえた名著であり,農商務省刊行の《職工事情》とならび称される古典的文献である。
執筆者:池田 信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
横山源之助(げんのすけ)の著書。1899年(明治32)教文館より刊行。二葉亭四迷(ふたばていしめい)の影響を受けた横山は、社会問題とくに貧民問題に関心を抱いた。毎日新聞の記者だった彼は、1896年から98年にかけて各地の貧民の実態調査を行い、その視察記を同紙上に発表して好評を得た。本書はそれをもとにまとめたもの。同じく二葉亭の影響を受けた松原岩五郎が『最暗黒之東京』において下層民を都市の貧民に代表させたのに対し、横山はそれを「経済上の欠乏者」とみ、都市貧民のほか労働者や小作人を視野に入れた。そして東京の貧民状態、職人社会、手工業の現状、機械工場の労働者、小作人生活事情の五編にまとめた。そこでは労働者数、賃金、労働時間などの統計資料をもとに、貧民の職業や生活費、職人の実態、機業における工女の前借金雇用と過酷な労働、マッチ工場での児童労働、工場労働者を代表するものとしての綿紡における女工と鉄工における男工をあげて労働条件などの問題を指摘する。さらに労働者供給源としての小作人の生活実態を明らかにした。
[大木基子]
『『日本の下層社会』(岩波文庫)』
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出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…洋行時,ヨーロッパ諸都市で開始された下水道建設やペッテンコーファーの説に接した森鷗外は,ここに都市問題解決の中心を見いだし,〈市区改正は果して衛生上の問題に非ざるか〉(1889)として〈立都建家の改良〉を図るため下水道,住宅,清掃等生活環境改善の必要を力説した。また続いてせっかく横山源之助《日本之下層社会》(1899)や農商務省《職工事情》(1903)等の調査があったにもかかわらず,〈富国強兵〉の名のもとで,〈道路橋梁河川ハ本ナリ,水道家屋下水ハ末ナリ〉(東京市区改正意見草案,1884)とされた。そして工場や事務所(たとえば丸の内煉瓦街),軍事施設づくりが都市内でも優先した。…
※「日本之下層社会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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