明治時代の新聞記者、事業家。本名は銀次。播磨(はりま)国(岡山県)生まれ。江戸に上り、林図書頭(ずしょのかみ)の塾などに学ぶ。横浜でアメリカ人医師ヘボンと知り合いになったことから、外国の文物に目を開き、『和英語林集成』の編集に助力。1864年(元治1)ジョセフ・ヒコ(浜田彦蔵)が『海外新聞』を創刊した際にも協力した。1868年(慶応4)にはバン・リードEugene M. Van Reed(1835―1873)とともに『横浜新報もしほ草』を創刊し、日本の新聞発行に先駆的役割を果たした。また江戸と横浜の間に定期航路を開設したり、ヘボン伝授の目薬「精錡水(せいきすい)」を発売するなどさまざまな事業にも手を広げた。1872年『東京日日新聞』に入る。台湾出兵(1874)には日本初の従軍記者として現地に赴き、その報道は評判をよんだ。
1877年(明治10)には新聞社を退社し、活動の中心を実業方面に移した。目薬販売では中国大陸にも進出し、日中間の貿易拡大、文化交流にも尽力した。1876年洋学者中村正直(まさなお)らと盲学校「訓盲院」を創設。画家の岸田劉生(りゅうせい)は子息。
[有山輝雄]
『久保田辰彦著『廿一大先覚記者伝』(1930・大阪毎日新聞社)』▽『杉山栄著『先駆者岸田吟香』(1952・岸田吟香顕彰会)』
明治期の新聞人,薬業界の功労者。岡山の生れで,本名は銀次。江戸の藤森天山について漢学を修め,1855年(安政2)には三河挙母(ころも)藩主の侍読に推挙されたが,水戸派の天山の高弟であったため幕府の追及を受け潜伏生活を送った。雅号の吟香は,その間の呼名であった銀公をもじったものである。64年(元治1)横浜のアメリカ人医師J.C.ヘボンの医院に寄寓し,《和英語林集成》の編纂(へんさん)に協力,これを完成させた。同年辞書印刷のため上海に渡航。同じころ,アメリカ帰りの浜田彦蔵(ジョセフ・ヒコ)に啓発されて新聞に興味をもち,浜田の《海外新聞》発行に協力した。67年(慶応3)回船商社を設立,汽船を購入して江戸~横浜間の運送に従事。68年にはアメリカ人ウェン・リード(バン・リード)Eugene M.Van Reedと共同で《横浜新報もしほ草》を創刊,また独力で《金川日誌》を発行した。73年(明治6)《東京日日新聞》に招かれ,主筆として健筆をふるい,同紙の声価を高からしめた。74年の台湾出兵に際しては,日本で最初の従軍記者として戦況報道に活躍している。吟香は,その後新聞界を離れ,ヘボンに伝授された目薬〈精錡(せいき)水〉を銀座に開業した楽善堂で製造・販売するとともに,78年上海に支店を開き,日中貿易の促進や日中友好に奔走,日清貿易研究所,東亜同文会などの創設に尽力した。また新聞広告を重視したり,盲啞学校の先駆である訓盲院を設立(1876)するなど,多角的な業績を残した。画家の岸田劉生(りゆうせい)はその四男である。
執筆者:平井 隆太郎
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…彼は1862年(文久2)から横浜馬車道に氷屋を開いていたというが,横浜開港後アメリカ人がボストンから氷を舶載して大きな利益をあげた例にかんがみ,71年(明治4)ごろには函館に製氷場を設け,そこでつくった天然氷を船に積んで大量に回漕し,安価に販売して好評を博した。岸田吟香が横浜氷室商会を興したのも,そのころである。 人造氷は,83年に東京製氷会社,99年に機械製氷会社が設立され,ことに後者が本所業平橋(なりひらばし)の工場で日産50tを生産するに及んで普及し始めたが,実験的な人工製氷はすでに1870年に行われていた。…
…1807年スウェーデンの新聞《スウェーディッシュ・インテリジェンサーSwedish Intelligencer》の記者が,ナポレオンに反対して第4次対仏大同盟に加わった国王グスタブ4世の軍に従軍したのが最初とされる。日本では1874年の台湾出兵にあたり《東京日日新聞》の岸田吟香が従軍したのが最初であるが,軍は〈戦闘は其の謀,密なるを貴ぶ〉として記者としての従軍を許さなかったので,岸田は軍御用の大倉組手代として従軍した。その戦記は読者に喜ばれ,錦絵にもなった。…
※「岸田吟香」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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