中国、古代の占筮(せんぜい)の書でもあり、儒教の経典(『詩経』『書経』『易経』『春秋(しゅんじゅう)』『礼記(らいき)』の五経)の一つでもある。『易経』の現在の姿は、「経」の部分と「十翼(じゅうよく)」の部分とからなる。「十翼」の部分は「経」の解釈学である。「経」の部分は、陰爻(いんこう)、陽爻(ようこう)の六爻からなる「卦(か)」と、「卦」につけられた文=「卦辞(かじ)(彖辞(たんじ))」と、各爻につけられた文=「爻辞(こうじ)(象辞(しょうじ))」とからなる。任意の数の陰爻、陽爻合計6爻をもって「卦」とするのであるが、陰爻(あるいは陽爻)の所在の位置が異なると、別の「卦」とするから、六陰の卦1、五陰一陽の卦6、四陰二陽の卦15、三陰三陽の卦20、二陰四陽の卦15、一陰五陽の卦6、六陽の卦1、合計64卦となる。この六十四卦の配列の順序は定まっており、その理論を説くのが「序卦伝(じょかでん)」である。その配列の形式は2卦1組とされる。乾(けん)と坤(こん)とのように陰陽の反対のもの4組、屯(ちゅん)と蒙(もう)とのように陰陽の所在位置が上下反対となっているもの26組、随(ずい)と蠱(こ)とのように陰陽反対とも、上下反対とも説明できるもの2組、合計32組である。またこの六十四卦を、乾より離(り)に至る30卦を「上経」、咸(かん)より未済(びせい)に至る34卦を「下経」とする。この六爻の卦を、上三爻と下三爻とに分けて整理すると、8種類の「卦」を得る。この八卦を「小成(しょうせい)の卦」といい、六十四卦を「大成の卦」という。「小成の卦」2個を重ねて「大成の卦」をつくると説明することもできる。「小成の卦」は種々の事象を象徴すると考えられ、その象徴を説くのが「説卦(せっか)伝」である。「卦辞」を解するものが「彖伝」と「象伝」の「大象」であり、「爻辞」を解するものが「象伝」の「小象」である。乾・坤両卦にはさらに「文言(ぶんげん)伝」がある。この「小成の卦」の象徴、「卦辞」「爻辞」によって吉凶の判断を下す。このような占筮の書である「経」の部分に理論的根拠を与えるものとして、「繋辞(けいじ)伝」がつくられ付加されると、儒教の経典としての『易経』の地位が確立する。
[藤原高男]
『本田済訳注『中国古典選 易』(1966・朝日新聞社)』▽『鈴木由次郎訳注『全釈漢文大系9・10 易経』(1974・集英社)』▽『高田真治・後藤基巳訳註『易経』上下(岩波文庫)』
中国,占いのためのテキスト。五経の筆頭に置かれる儒教の経典。《周易》,《易》ともいう。本文(経(けい))は64種類の象徴的符号(卦(か))と,そのおのおのに付された短い占断の言葉から成っており,本文の解説(伝(でん))は彖(たん)伝をはじめ10編があるので,これを十翼(翼はたすける意)という。《易経》はこの経と伝との総称である。卦とは,(陰の象徴)と(陽の象徴)の棒(爻(こう))をまず3本組み合わせて8種類のパターン(八卦(はつか))を作り,次にそれらを互いに重ねて64種類にしたものである。占断の辞は64卦だけではなく,各卦の各爻ごとに付されているから(前者を卦辞,後者を爻辞という),64×6の合計384種類のシチュエーションが備わっていることになる。たとえば,咸(かん)(感応)と呼ばれる卦の本文を書き下してみよう。はじめの3句が卦辞,〈初六〉以下が爻辞。〈初〉は最下の爻を指し,下から順に上へあがってゆく。〈六〉は陰の爻,〈九〉は陽の爻をあらわす。
〈 咸は亨(とお)る。貞(ただ)しきに利あり。女を取(めと)るときは吉。初六はその拇(おやゆび)に咸す。六二はその腓(こむらはぎ)に咸す,凶,居れば吉。九三はその股に咸す,執ることそれ随(したが)う,往けば吝(りん)。九四は貞しければ吉にして悔い亡ぶ。憧憧(しようしよう)として往来すれば,朋(とも)爾(なんじ)の思いに従う。九五はその(せじし)に咸す,悔いなし。上六はその輔頰舌に咸す〉。
占者は50本の筮竹(ぜいちく)を定められた操作によって切ってゆき,卦と爻を求めたのち,該当の卦辞と爻辞と卦のかたち(象)から占断を下すのである。このように《易経》は本来は占いの書であったが,十翼(特に繫辞(けいじ)伝)の付加によって陰陽哲学や宇宙論を備えるにいたり,のちの中国人の世界観や人生観のみならず,自然学の分野にまで大きな影響を与えた。なお,今日われわれが常用している〈観光〉〈革命〉〈同人〉〈口実〉〈苦節〉〈大過〉〈君子豹変〉などの語は《易経》にもとづく。
執筆者:三浦 国雄
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『易』『周易』ともいう。中国古代の占筮(せんぜい)の書。上下2経(陽爻(こう)と陰爻を組み合わせた64卦(か)を記す)と,これを解説した「彖伝」(たんでん)「象伝」(しょうでん)「繋辞伝」(けいじでん)などの十翼(じゅうよく)からなる。戦国時代に成立。五経の一つ。
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…むしろ,形而上学のみならず,魔術や呪術的世界観さえ,運動を論ずるものであったと見ることができる。
【運動観の歩み】
古代中国の形而上学体系として知られる《易経》は,もともと〈易〉の文字がトカゲ,あるいはヤモリをかたどった文字であるともされることからも明らかなように,(体色の)〈変化〉の象徴であり,結局は〈変化の学問〉を意味したし,それはのちに陰陽,五行,太極などの概念と結びついて,万物の起源たる唯一者〈太極〉からさまざまな物質や現象が生み出されて,世界となるための〈変化〉の原理を説明する,独特の運動論を構成したといってよい。ヘブライ思想とギリシア思想の混血から生まれたカバラもまた,同様に根元をなす一なる基本原理から,多くの形而上学的しかけを用いて,自然界のあらゆる事物が生み出される過程,すなわち〈変化〉について統一的な説明を与えようとする知識体系といえる。…
…《易経》の注釈(伝)。彖(たん)伝(上下),象伝(上下),繫辞(けいじ)伝(上下),文言伝,説卦(せつか)伝,序卦伝,雑卦伝の10編あるのでこう呼ぶ(翼はたすける意)。…
…古い卜辞と関連するが,占いの結果(吉か凶か)を判断するためのことばが伝わっていて,そのあるものは韻文であった。《易経》の本文(卦辞(かじ))はそこから出る。これに独特の哲学的解釈が付加されるのは戦国時代であるが,その本文にも文学としての鑑賞にたえるものがある。…
…インドでは天,地,人を区別せず,パクダ・カッチャーヤナのように地,水,火,風,苦,楽,魂を要素とするような哲学をつくったが,これらは構成要素であって分類とはいえず,普遍者を重んじるインドでは一般に博物学は発達しなかった。中国では,《書経》で五行,五事,八政,五紀,三徳,五福,六極など〈九疇(ちゆう)〉と呼ばれるカテゴリーが展開され,《易経》では陰と陽にもとづく体系がつくられたが,いずれも事物の性質やふるまいを規定するものと考えられ,事物を分類する枠組みとはいいがたい。分類としては《易経》の〈繫辞伝〉に出てくる〈三材〉(天,地,人)や明代にできた博物誌《三才図会》の14門があげられる(図2)。…
※「易経」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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