神農(読み)シンノウ(英語表記)Shén nóng

デジタル大辞泉 「神農」の意味・読み・例文・類語

しんのう【神農】

中国古代神話上の帝王。三皇の一。人身で牛首。農耕神と医薬神の性格をもち、百草の性質を調べるためにみずからなめたと伝えられる。日本でも、医者や商人の信仰の対象となった。炎帝神農氏

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精選版 日本国語大辞典 「神農」の意味・読み・例文・類語

しんのう【神農】

  1. 中国古伝説中の帝王。三皇の一人。敬称を付して神農氏ともいう。人身牛首で、人民に耕作を教えたところからいう。五行の火の徳によって王となったので炎帝ともいう。諸草をなめて初めて医薬を作ったと伝えられ、医学薬学の祖として崇敬された。また、五弦の瑟を作り、八卦を重ねて六四爻(こう)を作ったという。在位一二〇年、子孫八代、五二〇年で黄帝の世となったという。
    1. [初出の実例]「もろこしの三皇の初、伏犠と云王あり。次、神農氏」(出典:神皇正統記(1339‐43)上)
    2. [その他の文献]〔易経‐繋辞下〕

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改訂新版 世界大百科事典 「神農」の意味・わかりやすい解説

神農 (しんのう)
Shén nóng

中国神話にみえる農業神。《孟子》滕文公上に〈神農の言を為すもの許行〉とあって,その学派の成立をうかがわせるが,神話的な伝承はほとんどなく,《易》繫辞伝下に,庖犠(ほうぎ)氏(伏羲)についで興り,農耕や交易を教えたことがみえ,のち先農としてまつられた。これを炎帝とするのは漢以後のことである。《淮南子(えなんじ)》脩務訓に〈百草の滋味を嘗(な)め,一日にして七十毒に遇う〉とあり,本草医学の神となったことを記している。《漢書》芸文志に神農黄帝の書として,《神農》20編,《神農黄帝食禁》7巻などを著録するが仮託。三皇説が出るにおよんで,《荘子》盗跖とうせき)に〈民その母を知るもその父を知らず。麋鹿(びろく)とともに処(お)り,耕して食い,織りて衣(き)る〉と上古無為の理想の時代とするのは,《礼記(らいき)》礼運の上古を大同の世とするのと同じ考えかたである。神話のうちでは最も作為的な神であるが,民衆の生活のなかでは永く信仰の対象とされた。
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普及版 字通 「神農」の読み・字形・画数・意味

【神農】しんのう

古帝王の名。〔易、辞伝下〕犧氏沒して、農氏作(おこ)る。木を(き)りて耜(すき)と爲し、木を揉(た)めて耒(すき)と爲し、耒耨(らいどう)の利、以て天下ふ。

字通「神」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「神農」の意味・わかりやすい解説

神農【しんのう】

中国の農業神。三皇(三皇五帝)の一人。炎帝と結びつき,炎帝神農氏と称される。戦国時代,諸子百家のうち農家が神農を奉戴(ほうたい)した。《易経》では,農具を発明し,交易の道を教えた聖王とされる。後さまざまな説話が付加され,医薬の神,鍛冶の神,商業の神,易の神として,各種の職業人にあがめられるようになった。
→関連項目神農祭神農本草経

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神農」の意味・わかりやすい解説

神農
しんのう

中国古代の伝説上の帝王。神農の名前が最初に文献に現れるのは『孟子(もうし)』であり、これには、戦国時代、許行という神農の教えを奉じる人物が、民も君主もともに農耕に従事すべきであると主張したという話が載っている。許行が信奉した神農がいかなる存在であったかは明らかではないが、漢代になると、神秘的な予言の書である『緯書(いしょ)』などにしばしば神農のことが記されるようになる。それによれば、神農は体は人間だが頭は牛、あるいは竜という奇怪な姿をしており、民に農業や養蚕を教えたり、市場(いちば)を設けて商業を教えるほか、さまざまな草を試食して医薬の方法を教え、五絃(げん)の琴を発明したとされる。こうした業績から三皇の一人に数えられることもあるが、神農に関する具体的な記述は古い文献にみえないため、神農の伝説には後代の知識人が付け加えた部分が多いと考えられている。

[桐本東太]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「神農」の意味・わかりやすい解説

神農
しんのう
Shen-nong

中国,古代の三皇の1人 (→三皇五帝 ) 。人身牛首の炎帝のことで,人民に農耕を教えたことをもってこの名があるといわれる。この天子は,中国文化の源とされ,農業,医薬,音楽,占筮,経済の祖神であった。本来オオクニヌシノカミ,スクナヒコナノミコトを医師の神とした日本でも漢方医や薬種商によって祀られた。祭日には,無病息災を祈ってさまざまな習俗 (ゆず湯に入る,カボチャを食べるなど) がなされた冬至の日があてられ,「神農さん」の社での祭事のほか,漢方医の家でも神農祭と称して親戚や友人を集め,赤豆餅,赤豆飯や酒肴盛饌 (しゅこうせいせん) の具を整え,賀宴を催すことを常例とした。

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世界大百科事典(旧版)内の神農の言及

【文化英雄】より

…彼は,医薬を発明し,虫害・鳥獣の害を除去する法を定めたと伝えられる。農耕や医薬,占い,法などを発明した神農(しんのう)や,書契の法を考案し婚姻の礼を定め,漁猟や祭器を教えた伏羲(ふくぎ)なども,中国神話における文化英雄である。ギリシア神話のプロメテウスも,文化英雄の典型である。…

【香具師】より

…その起源については,香具師の親分連が秘蔵する《十三香具・虎之巻》によれば,源頼朝の密命を受けた長野録郎高友が薬売りをしながら各地で隠密探索をしたことに始まり,大岡越前守のとき,香具師が隠密をして犯人逮捕に協力することとひきかえに営業を公許されたとか,香具師は聖徳太子の二子に始まるとするなどの伝承があるが,定かではない。香具師はしばしばみずからを神農と称するが,その職神は薬種神の神農皇帝であり,親子盃その他の儀式に際しては,神農の掛軸が飾られる。その組織は,営業組織としての帳元,帳脇,世話人,若い衆の区分をもつと同時に,親分,子分,兄弟分の身分的絆(きずな)によって強くつながれている。…

※「神農」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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