中国における儒家古典。経史子集(けいしししゅう)の経部の書。単に経ともよぶ。『易』『書』『詩』『礼(れい)』『春秋』の五経(ごきょう)がその根幹をなす。『春秋』は孔子(孔丘(こうきゅう))の述作。ほかみな孔子の刪定(さんてい)(削り定めての編集)になり、五経にこそ古代の聖人・賢人の心をとらえうると信じ、それを目標とするのが経学である。経とは織物を織るときの経糸(たていと)、正統の書との意識で、後漢(ごかん)に流行した讖緯(しんい)の書を緯糸(よこいと)に見立てて緯書(いしょ)とよぶが、糸の縦横などはるかに超えて、五経とは五つの永遠の書、絶対の書の意であり、五経のなかには人間の生活に必要な道理はすべて含まれていると意識される。そうした意識の確立は、紀元前1世紀、漢の武帝が諸子百家を退けて六経(りくけい)(『楽(がく)』は滅び実質は五経)を表彰したときにあり、以後2000年にわたって、五経は必読の古典であり、倫理と政治の規範とされた。
また経の文章は、素朴な古代言語ではあるが、諸子の文の俗なるとは懸絶して雅であり、「日月(じつげつ)と倶(とも)に懸り、鬼神と奥(おう)を争う」(『文選』序)とまでの尊貴な言語であるとして、文学の原理がここに求められる。中国最古の図書分類、前漢末劉歆(りゅうきん)の「七略」において、『論語』『孝経』をあわせ六芸(りくげい)略を設けて別格に扱われた。のちの四部分類、経史子集における経部も同じ意識である。六朝・唐に漢訳仏典が経(きょう)とよばれたり、「道徳経(きょう)」(老子)、「南華真経(なんげしんきょう)」(荘子)などみな尊崇してのこと。宋明(そうみん)の学では四書、とくに『論語』が親しまれ、清朝(しんちょう)経学は『十三経注疏(ちゅうそ)』を学の根底とした。なお七経、九経などの数え方もある。
[近藤光男]
『平岡武夫著『経書の成立』(1945・全国書房)』▽『「『五経・論語』解説」(『吉川幸次郎全集21』所収・1975・筑摩書房)』
永遠の真理を説いた中国の古典。ふつうに《易》《書》《詩》《礼(らい)》《春秋》をさす。経は〈織の縦糸〉を意味し,織布に縦糸があるように,聖人の述作した典籍は古今を通じて変わらない天地の大経,不朽の大訓を示すものであるとして,経書と称した。孔子の学園では《詩》《書》が教学に用いられて尊ばれたが,これらを経と呼ぶことはなかった。経が権威ある古典として諸他の書物から区別されるのは周・秦の間のことであり,荀子では《礼》《楽》《詩》《書》《春秋》の五つが経として価値づけられている。これを五経という。これに漢初になって《易》が加えられて六経の名が生まれ,さらに九経,十二経,十三経としだいに増加するものの,経の本質的な意義に変りはない。
司馬遷は《史記》において経書の特質を〈易は天地陰陽四時五行(ごぎよう)を著す,故に変に長ず。礼は人倫を経紀す,故に行いに長ず。書は先王の事を記す,故に政に長ず。詩は山川渓谷禽獣草木牝牡(ひんぼう)雌雄を記す,故に風に長ず。楽は以て立つ所を楽しむ,故に和に長ず。春秋は是非を弁ず,故に人を治めるに長ず〉と述べている。経書には個人の修養,処世の要諦から,国家の政治,文物度数,自然哲学にいたるまで,人事と自然に関するあらゆる原理が包摂されているとの認識である。五経が成立してから十三経の出現するまで1000余年を経過しているので,それぞれの経書の思想にはかなりの距離があり,矛盾する主張すら含まれている。しかし,いずれも経書として並立するかぎり,すべてを支障なく成立させなければならず,そのためには経書の原義を超えた自由な創造的解釈が必要となる。また経書の用いる言語表現が簡潔なところから,その解釈に多様な主観をおりこむ余地が少なくなかった。この性格のゆえに,経書はいわゆる士人階級のために,つねに時代に応じた理論を捻出し,問題に即した解答を提供することができたのであり,ときにはその解釈を通して自己の思想を開陳しうるものであった。
執筆者:日原 利国
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儒教の聖典。儒教では絶対の権威と神聖性を持つ。『詩経』『書経』『易経』(えききょう)『礼記』(らいき)『春秋』の五経をいう。『春秋』以外の4書に,『周礼』(しゅらい)『儀礼』『春秋左氏伝』『春秋公羊(くよう)伝』『春秋穀梁(こくりょう)伝』を付し,さらに『孝経』『論語』『爾雅』(じが)を加え,宋代に『孟子』(もうし)を入れて十三経となった。これらはみな戦国,秦漢時代に編纂された。
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…今文経学ともいう。中国,経書研究の一学派。古文学に対する語。…
…中国古典の〈経書(けいしよ)〉〈四書五経(ししよごきよう)〉など,の解釈をめぐる学術。〈経書〉は,儒家の奉持した基本文献のことで,単に〈経(けい)〉ともいう。…
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