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中国、秦漢(しんかん)期の儒家が尊奉した「易(えき)・書・詩・礼・春秋(しゅんじゅう)」の5種の経典。「経」は、政治と倫理の基本原理を提供する人類生活の永遠の規範の意。「楽」を加えて六芸(りくげい)(六経(りくけい))とも称する。漢の武帝が学官に五経博士をたてて以来、国教としての根本聖典となり、すべて儒教の開祖孔子(こうし)(孔丘(こうきゅう))の編定ないし述作とされた。その内容解釈を経学(けいがく)といい、後漢礼教(ごかんれいきょう)国家に盛行し、「礼」は『儀礼(ぎらい)』に『礼記(らいき)』『周礼(しゅらい)』が並立して三礼(さんらい)を擁し、「春秋」は『公羊(くよう)伝』『穀梁(こくりょう)伝』に対立する『左氏(さし)伝』が加わって三伝(解説)が競い、漢魏(ぎ)の古注が多く制作された。多様で繁雑な六朝(りくちょう)期の経学は、唐初の正統解釈である『五経正義』によって国家統制されて、それ以後は科挙(かきょ)(科目別の官吏登用試験制度)の発達に伴い、思想に枠をはめる結果となった。
宋(そう)代の新儒学は、「五経」から「四書」に経書の中心が移行するが、明(みん)の成祖(せいそ)が公布した『五経大全(たいぜん)』は朱子学的な観点から編纂(へんさん)されたにもかかわらず、従事した学者の見識の低さから「大全出(い)でて経学亡(ほろ)ぶ」と非難された。「経書は心志の注釈にすぎぬ」とみる陽明学の流行期には、いっそう経学は軽視された。
経書の研究は、清(しん)代考証学に至って面目を一新し、小学(古代言語学)、文献批判など科学的方法による究明が進められた。
[戸川芳郎]
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儒教の五つの基本的な経典,すなわち《易経》《書経》《詩経》《礼記(らいき)》《春秋》のこと。いずれも孔子が編纂したといわれてきたが,《詩経》と《書経》のほかは疑問である。前漢の武帝のとき儒教が国家公認の学とされ,五経博士がおかれて五経の名が定まった。漢代には《詩経》に魯詩・斉詩・韓詩の3派があり,《春秋》に《公羊伝(くようでん)》《穀梁伝》《左氏伝》というふうに,それぞれ諸学派が現れたが,唐代には,太宗が孔穎達(くようだつ)に命じて《五経正義》を作らせてから,《周易》《尚書》《毛詩》《礼記》《春秋左氏伝》が五経とされた。漢以後,五経の修得は官僚士大夫の必須の教養とされ,学問の基準が五経におかれるようになった。そのため,明の永楽帝のときにも,朱子学系統の注を用いてであるが,新しい総合的な注釈書として,胡広らが勅命によって《五経大全》を作った。検索には森本角蔵の《五経索引》が便利。
執筆者:日原 利国
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…しかし,内包,外延すべてまったく同じことばが,一言語の中に二つ以上存在するはずはないから,置き換え方式による意味の説明には当然有効性に限度があり,多くの場合それは,この文脈ではA字をB字に置き換えても,それを含む表現の全体が伝えようとするものに大差が出ないという程度のものであるにすぎない。 ところで文字の意味を明らかにするという作業は,中国の古代にあっては,まず何よりも《五経》,すなわち文明の中心となるべき5種類の古典,《易》《書》《詩》《礼(らい)》《春秋(しゆんじゆう)》の本文を,その最も正しい意味において読み取るという目的につながっていたのであるから,経書の解釈学全体が,訓詁学の業績の総体だということもできるわけだが,実際には,経書解釈学の歴史上,《十三経注疏(じゆうさんぎようちゆうそ)》がいわゆる漢・唐訓詁の学(古注の学)の集大成として,程・朱以後の新注の学問,すなわち宋元理気の学と対比されて〈訓詁学〉と呼ばれることが多い。その場合〈訓詁学〉は,字義の末に拘泥して,大所高所からの視角,人間社会への洞察に裏づけられた自由な発想を欠くというような,非難の意味がこめられていると考えていいであろう。…
…経が権威ある古典として諸他の書物から区別されるのは周・秦の間のことであり,荀子では《礼》《楽》《詩》《書》《春秋》の五つが経として価値づけられている。これを五経という。これに漢初になって《易》が加えられて六経の名が生まれ,さらに九経,十二経,十三経としだいに増加するものの,経の本質的な意義に変りはない。…
※「五経」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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