狼男(読み)オオカミオトコ(その他表記)werewolf

翻訳|werewolf

デジタル大辞泉 「狼男」の意味・読み・例文・類語

おおかみ‐おとこ〔おほかみをとこ〕【×狼男】

ヨーロッパ各地に伝わる人狼じんろう伝説。昼間は普通の男だが、夜間に狼に変身して人間家畜などを襲う話。

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精選版 日本国語大辞典 「狼男」の意味・読み・例文・類語

おおかみ‐おとこおほかみをとこ【狼男】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 外面はやさしく内心の邪悪な男。
    1. [初出の実例]「とにかくに盤帳(かんぢゃう)は得せず、催促すれば応(いらへ)のみする、狼男(オホカミヲトコ)に謀られて、今朝までは資送りたれど」(出典:読本・旬殿実々記(1808)八)
  3. ヨーロッパ各地の伝説に見える怪物。昼は人間だが、夜は狼に変身して人畜を襲うという。

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改訂新版 世界大百科事典 「狼男」の意味・わかりやすい解説

狼男 (おおかみおとこ)
werewolf

人間が突然狼に変身してしまう現象をリカントロピーlycanthropy(ギリシア語lykos(狼)とanthrōpos(人間)の合成語,狼狂)といい,その人間を狼男と総称する。ただし男性に限るわけではない。ふつうはある種の薬草製の軟膏を塗ったり,とりわけ満月の夜に月光を浴びたり,帯を身につけたりすると変身が起こり,これを倒すには銀製の銃弾を用いるなどと信じられている。古くはアルカディアの王リュカオンLykaōnがゼウスに人間の肉を食用として献じたために,ゼウスによって50人の息子とともに狼に変身させられたと伝えられる。ローマではペトロニウスの《サテュリコン》の〈トリマルキオ饗宴〉にニケロスが語る狼男の逸話が出てくる。ニケロスが一人の男と散歩をしていると,男は突然服を脱いで狼になり,そのまま森へ走り込んだ。家に帰ると留守中に家畜が襲われたという報告があり,このとき下僕の一人が狼の首に槍を刺した。それかあらぬかニケロスの道連れの男は医者に首の傷の手当てを受けていた,というものである。狼狂は伝染した。1598年にジュラ山地で狼狂流行病が突発し,〈人々は次々に狼狂の狂疾の手に落ちて,道で出会ったおびただしい数の人間や獣をむさぼり食った〉(リヒャルト・ヘニッヒ)。女性が狼に変身する場合もある。魔女はしばしば猫や狼に変身した。16世紀末フランスの猟師が,射とめた狼の前脚を猟袋に入れて家に帰ると,見れば驚いたことに,それは彼の妻の手だったという。ドイツでは狼や熊の毛皮を着た戦士ベルゼルカーBerserkerが,着帯している獣皮のためにウェアウォルフWerwolf(狼人)と呼ばれた。スウェーデン大司教オラウス・マグヌスOlaus Magnusは,16世紀中葉,プロイセン,リウラント,リトアニア一帯に跋扈ばつこ)した,これと同種の狼に変身する男たちから住民が受ける損害を,〈自然の狼からこうむる損害より重大である〉と記録している。

 近代文学における狼男変身のテーマやイメージは人間のなかにひそむ獣性もしくは劣性の分身の先祖返り的発現として,R.L.スティーブンソンの《ジキル博士とハイド氏》(1886)やB.ストーカーの《吸血鬼ドラキュラ》(1897)などに造形され,《キング・コング》(M.C. クーパー,A.B. シェードザック監督,1933)のような大衆映画の源泉ともなっている。
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狼男 (おおかみおとこ)
Wolf Man

S.フロイトによって,直接精神分析を受けたロシア人の患者。狼恐怖症wolf phobiaを示していたところから,この名が出た。フロイトは1918年,この症例をもとに《ある幼児神経症の病歴より》と題する論文を発表した。患者は4歳ころにオオカミその他の動物恐怖症となるが,やがて瀆神的な考えが浮かんで際限なく十字を切らずにいられぬなどの強迫症状を示すようになる。8歳ころを境にしだいに症状は軽快したが,18歳ころに再び発病し,まったく依存的になって独りでは生活できない状態に陥った。フロイトは,この青年の分析と幼児期の再構成を通して,〈オオカミが大きな木に座っている〉という不安夢は,1歳半ころに父母の原光景を見た際の父への恐怖の再現であり,父への被愛欲求と,父に愛されて男性としての自己を失う不安(すなわちオオカミに食べられる不安)の葛藤の表現であることを明らかにした。また,自我分裂による防衛や,強迫神経症の精神病理を考察した症例としても有名である。
去勢コンプレクス
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「狼男」の意味・わかりやすい解説

狼男
おおかみおとこ

昼間は普通の人間が、夜間に狼に変身し人間や家畜などを襲う話で、東ヨーロッパを中心にヨーロッパ各地に広く伝承されている。人狼(じんろう)werewolfといって人間が狼に変身する伝説は、古くギリシア・ローマの時代までさかのぼる。満月の光によって狼に変身し、おもに人の血や肉を求めてさまよい歩くが、夜明けとともに人間に戻る。変身のきっかけは、自分の意志による場合と、本人の意志を離れて外部からの力による場合の二つに分類できる。前者は狼の毛皮を身につけるとか、特殊な呪文(じゅもん)を唱える、あるいは、食べてはならぬとされている、狼に殺された家畜の肉を食べて変身する。後者は、魔女の呪術によって狼にされる場合が多く、魔女からの求婚を断ったとか、結婚式に魔女を招待しなかったために呪(のろ)いをかけられ、狼にされた話などがある。狼にまつわる話はわが国にも多く伝承されているが、狼男の話はない。おもにヨーロッパ諸国に行われる話である。

[野村純一]

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世界大百科事典(旧版)内の狼男の言及

【怪奇映画】より

…さまざまな超自然現象を扱った映画の総称。ミシェル・ラクロの分類によれば,幽霊,ゾンビ(歩く死骸),吸血鬼,狼男,シレーヌ(人魚),神と悪魔,天国と地獄,透明人間,霊媒,復活,死後に他の肉体に宿る魂,二重人格,透視力,幻覚,夢遊状態,ゴーレム(生命を吹きこまれた土人形)等々を扱った映画が含まれる。
[怪奇映画の源流]
 怪奇映画のもっとも古いテーマは,《フランケンシュタイン》と《ジキル博士とハイド氏》の二つの文芸作品から生まれ,いずれも1908年に映画化されているが,映画史的には,怪奇映画の源流は,第1次世界大戦直後に始まる〈ドイツ表現主義映画〉(表現主義)に発するというのが定説である。…

【フロイト】より

ねずみ男)と《ある幼児期神経症の病歴より》(1918。狼男)とはともに強迫状態に関する考察,《症例シュレーバー》(1911。シュレーバー)は精神分裂病者の手記に対する精神分析的解釈の試みである。…

※「狼男」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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