リチャード2世以来のイギリス政府が発布した海運・貿易規制のための諸法令の総称。航海条令とも訳される。とくに1651年の通称クロムウェル航海法,60年の海上憲章,63年の貿易促進法が重要で,これらの諸法令によって完成した航海法体系は,重商主義政策の柱となった。51年法は,イギリスおよび植民地に輸入されるヨーロッパ以外の商品は,大部分の船員がイギリス人であるイギリス船で輸送さるべきこと,ヨーロッパ物産はイギリス船ないし生産国の船で輸入さるべきことなどを規定し,オランダ船による中継貿易の排除をめざした。翌年第1次英蘭戦争が勃発したのはこのためである。60年法では,とくに重要な交易品--砂糖,タバコ,インジゴなどの新世界物産,東インド物産,北欧の海運資材など--を列挙し,これらの商品のヨーロッパ向け輸出は必ず本国経由でなされるべきことを規定した。さらに,63年法では植民地に輸入される商品もすべてイギリスを経由すべきことが規定された。以後も96年まで細かな改訂がなされるものの,政策の骨格はここで確立したといえる。これらの政策についての評価は分かれているが,当時の経済・国防に対してそれが一定の役割を果たしたことはまちがいないし,ピューリタン革命以後の地主と外国貿易商人を担い手とする支配体制の象徴となってもいた。したがって,産業革命の進展でこの体制が崩壊すると,1849年この法体系も廃棄される。
執筆者:川北 稔
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航海条例ともいわれる。イギリス海運業の発達と貿易の保護ならびに王室収入の確保をねらいとする制定法の俗称。この趣旨の法律は14世紀以降しばしば制定されたが、ピューリタン革命期の共和国政府の出した1651年のものがもっとも有名である。ヨーロッパ以外の地域の産物をイギリスおよび植民地に運ぶ場合には、乗組員の大多数がイギリス人であるイギリス船もしくは植民地船に限ること、またヨーロッパの産物をイギリスあるいは植民地に輸入する場合は、イギリス船、産地国船もしくは最初の積出し国の船に限ることを規定した。これは、当時、北欧・バルト海を中心にヨーロッパの海運を支配していたオランダの中継貿易を排除することをねらったもので、制定直後に第一次イギリス・オランダ戦争を引き起こした。王政復古後の1660年に再制定され、また63年にはカリブ海域の物産の独占を図るためにさらに補強された。このように航海法はイギリス重商主義体制の基軸としての地位を占め続け、イギリスの植民地帝国の建設に多大の寄与をしたが、1820年代に入って自由貿易の主張の高まりとともにその規制は緩和され、ついに1849年に廃止された。
[今井 宏]
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1651年イングランド共和政政府によって制定された海運・貿易立法。60年に議会制定法として再制定された。イングランドと植民地間の海運をイングランド船のみに制限することを定めた。その直接のねらいは当時中継貿易によって覇権を握っていたオランダに挑戦することにあり,王政復古後も再確認されて,3度のオランダ‐イギリス戦争の原因となった。以後もイギリス重商主義政策の根幹をなす法として,その海外進出を支えたが,1849年自由貿易の高まりによって廃止された。
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…当時両国間には北海の漁業や貿易・海運,植民地をめぐって深刻な対立が生じていたが,全盛期のオランダがイギリスを圧倒する勢いにあった。イギリスはクロムウェル政権の登場とともに,1651年有名な航海法(海運法)を布告して,全面的にオランダに反撃に出た。また市民革命により王位を追われたスチュアート家と,オランダの総督職にある名門オランイェ(オレンジ)家が,姻戚関係にあったことも両国間の政治的緊張の原因となっていた。…
…これが今日の〈アイルランド問題〉のひとつの原点となっている。また51年議会が〈航海法〉を制定したため対オランダ戦争が勃発し,3回にわたって戦われたこの戦争(1752‐54,65‐67,72‐74)を通して,イギリスはオランダの海上覇権に挑戦し,植民地帝国建設に向けての第一歩を踏みだした。この間,暫定的に共和政の政権を担当していた残部議会は,いたずらに保身を図って軍を敵視したため,53年4月クロムウェルはこの軍の不満を背景にして議会を武力解散した。…
※「航海法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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