英雄生い立ちの物語。金太郎は足柄(あしがら)山(神奈川県)の山姥(やまうば)の子で、山中で生まれ育ち、子供のときから大力であったという。江戸初期以来、桃太郎と並ぶ子供の姿の英雄として親しまれ、男の子の象徴として、早くから五月人形にもつくられた。源頼光(らいこう)の四天王の一人、坂田(酒田)金時(公時)の幼名とされる。素性については、古浄瑠璃(こじょうるり)の公平(きんぴら)本『公平誕生記』(1660前後)などにみえるのが古い。『清原右大将』(1677)に「怪童(かいど)」とあり、近松門左衛門の浄瑠璃『嫗山姥(こもちやまんば)』(1712)以後は快(怪)童丸が通称になる。金太郎の名は江戸中期ごろからのようである。『前太平記』(1717)には、山姥が足柄山の山頂で、赤竜と交わった夢をみて身ごもったとある。伝説が浄瑠璃や浮世絵などの世俗芸術にとられ、その作品がまた民衆のイメージを育てている。箱根の金時山(猪鼻(いのはな)岳)の中腹には金太郎と山姥が住んだ石室があったという巨石がある。本来、各地にあった山姥が山中で子供を生んだという伝説の一つで、長野県には、木曽(きそ)の金時山(南岐蘇(なきそ)岳)に金時母子が住んだ岩屋があり、旧上水内(かみみのち)郡芋井(いもい)村(現長野市)の虫倉明神は、金時の母を祀(まつ)ると伝える。山中で生まれた英雄の物語は『曽我(そが)物語』真名(まな)本など室町時代の物語文学にもみえ、狩猟民が伝えた山の神が山中で出産する物語は、金太郎をはじめ、この種の山中誕生譚(たん)の原形をなすものである。
[小島瓔]
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…これらでは坂田(酒田)という姓も明らかでない。近世に入って《前太平記》や《広益俗説弁》になって民譚的な金時あるいは金太郎の人物像に近づいてくる。この2書を総合すると,母の老嫗と足柄山中で生活していたのを,21歳のときに頼光に見いだされ,坂田公時と名付けられ,頼光に仕えて36歳のときに主馬佑として酒呑童子退治に参加し,一生妻女をもたず,頼光没後,行方をくらまし足柄山で足跡を絶ったという。…
※「金太郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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