エイズによる肺の病気(読み)えいずによるはいのびょうき

家庭医学館 「エイズによる肺の病気」の解説

えいずによるはいのびょうき【エイズによる肺の病気】

日和見感染(ひよりみかんせん)によっておこる
 エイズ後天性免疫不全症候群(こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん))は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染することでおこります。HIVは、T細胞というリンパ球のなかのCD4リンパ球と呼ばれる免疫の中心的役割を担う細胞に感染し、壊してしまいます。そのため、からだを外敵から守る免疫のしくみが壊れ、ふつうは感染しないような感染力のごく弱い細菌でも感染するようになります(日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)(感染症とはの「日和見感染」))。また、免疫は悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の拡大も防いでいるため、エイズになると、がんにもかかりやすくなります。
 正常なCD4リンパ球は、血液1mm3あたり1000個ほどですが、この数が500以下、とくに200以下になると種々の日和見感染症がおこります。
カリニ肺炎(はいえん)
 日和見感染症のなかでも、カリニ原虫という微生物によるカリニ肺炎は代表的な呼吸器感染症で、CD4リンパ球数が200以下になるとおこりやすくなります。症状は、たんのからまないせき、発熱、呼吸困難などです。過去にはエイズにかかって亡くなる患者さんの大部分は、カリニ肺炎が原因でしたが、現在はCD4リンパ球数が200以下ならカリニ肺炎予防のための薬物治療が行なわれるため、米国ではカリニ肺炎による死亡者数は激減しています。
 HIVの感染がわかっていれば日和見感染の予防もできるのですが、日本ではカリニ肺炎になって初めてエイズと診断される患者さんがまだ多いため、いきおい重症化しやすく、死亡率は80%以上になっています。
 検査には、気管支ファイバースコープを口から肺に入れ、生理食塩水を注入して肺内を洗い(気管支肺胞洗浄(きかんしはいほうせんじょう))、洗浄液中にカリニ原虫が見つかれば診断がつきます。治療や予防にはST合剤やペンタミジンが使用されます。
●エイズによるその他の肺感染症
 CD4リンパ球数が減少すると、一般細菌、結核菌、非定型抗酸菌(ひていけいこうさんきん)のほか、カンジダ、クリプトコッカスなどの真菌(しんきん)(かび)、サイトメガロウイルス(CMV)やヘルペスウイルスなどの感染症もおこりやすくなります。とくに最近話題の、多剤耐性(たざいたいせい)の結核菌に感染する頻度が高く、米国では、エイズ患者さんが多剤耐性結核菌に感染した場合、その死亡率は70~90%とされています。日本は米国よりも多剤耐性結核菌の検出率が高いと考えられており、今後、エイズ患者さんの死亡率をひき上げるのでは、と憂慮されています。
 真菌のうちカンジダは、CD4リンパ球数が200以上でエイズの病状が進んでいない段階でも、口腔内に感染症(鵞口瘡(がこうそう))をおこします。100以下となると食道、気管支などにカンジダ症をおこすことがあります。クリプトコッカス感染症は、CD4リンパ球数が100以下で発症しやすく、おもに髄膜炎(ずいまくえん)をおこしますが、肺炎をおこすこともあります。
 サイトメガロウイルスの感染は、CD4リンパ球数が50以下になるとおこりがちで網膜炎(もうまくえん)や食道炎(しょくどうえん)、腸炎、肺炎などをおこします。
 これらの真菌やウイルスに対して予防投薬が有効かどうかはまだ結論が出ていません。
 感染症以外では、頻度は少ないのですが、カポジ肉腫(にくしゅ)という悪性腫瘍ができることもあります。皮膚または粘膜(ねんまく)に病変をともなうことが多いのですが、肺だけにおこることもあります。せき、呼吸困難などがおもな症状で、治療は抗がん剤を用いた化学療法や、インターフェロンによります。ただし、効果はあまり満足できるものではありません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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