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エイズ エイズ AIDS

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

エイズ
エイズ
AIDS

正式名称は後天性免疫不全症候群 acquired immuno deficiency syndromeエイズはその略称。ヒト免疫不全ウイルス (HIV ) がヒトに感染して起こす慢性疾患細胞性免疫を司るリンパ球の一つヘルパーT細胞が減少して免疫システムが破壊されるため,健康体なら抑制できる感染症 (日和見感染症) や悪性腫瘍が現れ,治療をしなければそのまま死にいたる。

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出典|ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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知恵蔵の解説

エイズ

ヒト免疫不全ウイルス(HIV:human immunodeficiency virus)によって起こる疾患で、免疫を受け持つ細胞のリンパ球(ヘルパーTリンパ球)に感染し、免疫機能が低下する。ウイルスに汚染された血液の輸血や血液製剤の投与、激しい性行為などで感染し、また、母乳による垂直感染もある。潜伏期間は数年といわれ、感染者の10〜30%が発症する。発熱、体重減少、疲れやすさ、下痢、貧血などの症状で始まり、種々の日和見感染症や悪性腫瘍を起こす。日和見感染症ではニューモシスチス・カリニ肺炎が多く、その他、サイトメガロウイルス感染症、単純疱疹(ほうしん)ウイルス感染症、EBウイルス感染症、結核、真菌症、原虫感染症が見られ、悪性腫瘍としてはカポジ肉腫が特徴。近年では多くの抗エイズ薬が開発され、治療できるようになっている。しかし、まだ予後は悪く、早期の治療が必要である。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

出典|(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」
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栄養・生化学辞典の解説

出典|朝倉書店
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世界大百科事典 第2版の解説

エイズ【AIDS】

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染によって発症する疾患。1981年6月,アメリカロサンゼルス地区で5例の成人男子に日和見感染opportunistic infectionの一種であるカリニ原虫による肺炎が発生したことが報告され,7月にはニューヨークカリフォルニアで26例のカポジ肉腫Kaposi sarcomaが日和見感染を伴って発生していたことが報告され,調査の結果,1976年から81年7月のあいだに108例のこのような症例の通報があった。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
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大辞林 第三版の解説

エイズ【AIDS】

HIV の感染によって起こる疾患。性交・輸血・血液製剤の使用などで感染することが多い。免疫機構が破壊され、通常なら発病しない細菌やウイルスでも発病し、カポジ肉腫など悪性腫瘍を発症する。死亡率が非常に高い。後天性免疫不全症候群。

エイズ【AIDS】

〖acquired immunodeficiency syndrome〗
エイズ

出典|三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

エイズ
えいず

AIDS(エイズ)という名称は、1982年9月、acquired immune deficiency syndromeの頭文字をとって名づけられ、日本では後天性免疫不全症候群と呼称された。本症は、ヒトがHIV(ヒト免疫不全ウイルスhuman immunodeficiency virus)に感染した結果、細胞性免疫不全状態となり、感染抵抗力が低下して日和見(ひよりみ)感染(普通の免疫状態では侵されない弱毒微生物による感染)、神経障害あるいは二次的悪性腫瘍(しゅよう)を発症した病像である。1999年(平成11)4月施行の感染症予防・医療法(感染症法)では、後天性免疫不全症候群を全数報告義務の5類感染症に分類し、1989年(平成1)2月17日施行の「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」は、伝染病予防法、性病予防法とともに廃止された。[南谷幹夫]

総論


エイズウイルスとは
エイズの原因ウイルス(エイズウイルス)は1983年にパスツール研究所(フランス)のモンタニエらにより発見され、1984年にギャロRobert Charles Gallo(1937― )ら、レビーJay Levyらによっても分離報告されて、それぞれLAV(リンパ節症随伴ウイルスlymphadenopathy associated virus)、HTLV-(ヒトTリンパ球向性ウイルスタイプ human T cell lymphotropic virus-)、ARV(エイズ関連ウイルスAIDS associated virus)と名づけられたが、1986年5月、これらは同じウイルスとされ、ウイルス分離国際委員会によりHIVと統一命名された。また1986年4月には、モンタニエらによりHIV-2型が発見された。このHIVは、レトロウイルス科レンチウイルス亜科に属する外径100ナノメートルのRNAウイルスであり、その表面(外殻)にはノブ状に存在する糖タンパクgp120、gp41が存在する。[南谷幹夫]
ヒトへのHIV感染
ヒトに感染したHIVはCD4陽性T細胞(CD4陽性Tリンパ球、ヘルパーT細胞ともいう)に感染し、ウイルス増殖とヘルパーT細胞破壊を繰り返し、ついにヘルパーT細胞数が減少すると、生体は細胞性免疫不全状態となり、感染抵抗力が低下して、日和見感染症、二次性腫瘍、神経障害を発症してエイズとなる。したがってCD4陽性T細胞数は細胞性免疫の指標となる。[南谷幹夫]
HIVの増殖過程
HIVの増殖全行程の終了には1.6日を要する。以下増殖過程を示す。
(1)HIV外殻上のgp120がT細胞(Tリンパ球)やマクロファージ(大食細胞)の細胞膜にあるCD4分子と結合
(2)HIV外殻とT細胞やマクロファージの細胞膜の融合(糖タンパクgp41が必要)
(3)HIVのコア粒子の細胞膜への侵入と脱殻(T細胞ではCXCR-4を、マクロファージではCCR-5を必要とする。CXCR-4、CCR-5は、CD4分子と共同でウイルスの細胞内侵入を促進する補助因子)
(4)細胞内へ侵入したHIVはRNA(リボ核酸)からDNA(デオキシリボ核酸)へ逆転写される(逆転写酵素が必要)
(5)HIV由来のDNAは細胞核内へ移行し染色体へ組み込まれる(この組み込まれたエイズウイルスのDNAをプロウイルスDNAとよぶ)
(6)プロウイルスDNAからmRNA(メッセンジャーRNA)へ転写
(7)RNAにコードされる調節タンパク質であるTat、Revの発現と核内への移行
(8)RevタンパクによるEnv(外被膜タンパク)あるいはGag(コアタンパク)RNAの核外移行
(9)GagならびにEnvタンパクの合成と成熟(タンパク質分解酵素であるプロテアーゼが必要)
(10)ウイルス粒子形成とその粒子へのウイルスRNAの取込み
(11)ウイルスコア粒子とエンベロープ(外被膜)タンパクの細胞膜での会合
(12)ウイルス粒子の細胞外への放出[南谷幹夫]
HIVの動態
HIVの動態には以下のような特徴がある。
(1)増殖中に変異株が出現しやすい。
(2)1日に10~100億のHIVが産生され、血漿(けっしょう)中のHIVの半分は約6時間で入れ替わる。
(3)HIVが感染したCD4陽性T細胞の寿命は2.2日とされる。
(4)感染者体内の全HIVは、末梢(まっしょう)血液中に比べリンパ節に10倍以上存在し、CD4陽性T細胞に感染し破壊を繰り返している。
(5)血漿中のHIV-RNA量は、HIV増殖やCD4陽性T細胞の破壊程度を示しており、HIV増殖やCD4陽性T細胞の破壊程度の指標となり、病気の進行・薬剤の効果・生命予後の判断の参考となる。[南谷幹夫]
サブタイプ
HIV‐1は、グループM(major)、O(outlayer)、N(non‐M/non-O、new)の3群に大別される。世界中にみるのはグループMで、中央アフリカのカメルーンとガボンで分離されたグループOは限局されており、グループNは1999年にカメルーンで分離されたものである。グループMはサブタイプA~JないしKまでの10~11種がある。日本では、欧米に多いサブタイプBがもっとも広がっており、ついでタイからのサブタイプE、1999年にはアフリカまたはインドからきたサブタイプAやCもみいだされる。サブタイプの状況からHIV-1の起源は中央アフリカであることが研究者の通説となっている。HIV-2も少数のサブタイプがあり、起源は西アフリカとされる。[南谷幹夫]
感染経路
HIVはエイズ患者やHIV感染者の血液、精液、膣(ちつ)液、唾液(だえき)、母乳、尿、涙などの体液や各種の臓器に存在する。HIVの感染経路は、性的接触、汚染血液あるいは血液製剤、母子感染(垂直感染)の3経路である。[南谷幹夫]
性行為による感染

(1)キス(接吻(せっぷん)) 通常のキスで感染した報告はない。唾液中のウイルス量は、きわめて少量であるが、口腔(こうくう)内に出血を伴うときは危険性が指摘される。
(2)口腔性交 口腔性交のみで感染したと断定できる例の報告はないが、強く疑われる例は報告されており、とくに傷による出血を伴うときはHIV感染の可能性を否定できない。
(3)膣性交 異性間性的接触の感染経路として日本国内、南・東南アジア、アフリカでは多い。経膣性交で感染する可能性は、男性より女性への感染が女性より男性への感染より高いようである。また淋病(りんびょう)、梅毒、クラミジアなどの性感染症に罹患(りかん)していると感染する可能性が高くなる。
(4)肛門性交 男性の同性間性的接触の感染経路として注目されるが、異性間でも経肛門性交は感染しやすい行為である。膣粘膜に比べ直腸粘膜は菲薄(ひはく)で切れやすく出血しやすいためと考えられる。[南谷幹夫]
感染血液あるいは血液製剤による感染

〔1〕麻薬の静脈注射濫用 以前は、麻薬の静脈注射濫用者の間で使用した注射器や注射針などを洗浄消毒することなく、何度も回し打ちが行われることが多かった。このため注射器具がHIVで汚染され、注射器具を共用した人々にHIV感染を起こす可能性が高かった。注射器具共用の危険性が強調され、欧米では注射器具の交換配布が行われて以来減少した。日本では注射器・針の入手が容易なためか、以前から報告数が少ない。
〔2〕血液製剤および輸血
(1)血液製剤 HIV感染者の血液を原料としてつくられた凝固因子製剤などの血液製剤を未感染者へ使用すれば、高率にHIV感染を生じる。日本では1985年(昭和60)7月以降、凝固因子製剤が加熱処理されており、さらに製剤材料にHIV抗体陽性血液が使用されなくなってから新たな感染者は出ていない。
(2)輸血 HIV感染者の血液を未感染者へ輸血すれば、ほとんど確実に感染する。日本では輸血に使用する献血血液に対して1986年11月からHIV抗体検査が行われるようになり、輸血感染は発生していないと思われていたが、まもなく感染早期の献血を輸血した感染例が発生した。HIV感染の有無を判断する抗体検査は高感度で大量の検体処理が可能であるが、感染早期のウインドウ・ピリオド(感染してから抗体産生を認めるまでの期間)における献血検査の盲点が危惧(きぐ)されていたところ、1997年(平成9)2月にHIV抗体陽性の献血血液が発見され、遡及(そきゅう)調査で1996年12月に同人の献血を輸血された患者がHIVに感染したことが判明した。この献血血液はHIV抗体陰性であったが、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応polymerase chain reaction)法検査で陽性と判明した。その後1997年5月献血血液の輸血でHIV感染例が確認された。これを契機に献血血液の検査法が改良されたが、なお問題点が残されている。
(3)その他 医療事故にみることが多い針刺し事故は、HIV汚染血液に関連した事故であり、HIV感染者から提供された臓器による移植や消毒不完全な針によるいれずみ、ピアスなどからの感染もある。[南谷幹夫]
母子感染
母子感染の経路は、(1)子宮内での感染、(2)産道を通過する際の感染、(3)母乳からの感染がある。HIV感染の妊婦から生まれた乳児への感染率は調査方法で異なるが、15~30%とされる。母子感染の危険性は、母親の血中ウイルス量の高さと早期破水との間に相関があるという。また帝王切開はHIV感染妊婦から子への感染を有意に低下せしめ、ほかの報告では妊婦への抗エイズ剤ジドブジン(AZT)投与により感染率が3分の1に減少したとされた。HIV感染の母親の授乳は、母体の負担ばかりでなく母乳感染の危険がある。
 アフリカ、アメリカ、ヨーロッパでは母子感染によるHIV感染児が増加しており、親がエイズで死亡し孤児となった小児の増加が社会問題となっている。先進国では、HIV感染の母乳の授乳を行わないよう指導されている。[南谷幹夫]
エイズの症状
HIVに感染してエイズになるまでの全期間を含めてHIV感染症という。エイズはHIV感染症の終末病像の病名であるが、一般通称名としてHIV感染症と同義語に用いられている。[南谷幹夫]
HIV感染症の病期
HIV感染症は三つの病期に分けることができる。
(1)急性感染期(HIVの感染) HIVに感染すると無症状で経過することが多いが、一部の人は感染後2~数週間後に一過性の初期症状(発熱、リンパ節腫脹、咽頭(いんとう)痛、関節痛、筋痛、皮疹(ひしん)など)が現れ、1~2週後に消失する。感染後6~8週、ときに12週後に患者の血液中にHIV抗体が検出される。
(2)無症候性期(無症候性キャリア) 発病するまでの無症状期間で、6か月から十数年以上にわたる。この潜伏期間内でも、感染者の体内では、ウイルスの激しい増殖が続き、感染したCD4陽性T細胞(リンパ球)の破壊と新しいCD4陽性T細胞の産生が行われており、見かけ上はリンパ球の変動がないようにみえる。急性感染後まもなくエイズウイルスの急激な増殖があり、その後の免疫応答によって1~2か月後より血中HIV量が低下してくる(この免疫応答によってHIV抗体が産生される)。数か月~12か月で、それ以上ウイルス量が低下しなくなり安定してくる。この時点をセットポイントという。セットポイントのHIV量が低いほど発病が遅くなる。急性感染期からこの時期に入るときのHIV-RNA量は、病気の進行、エイズ発症、生命予後などと関連する。無症候性期の長さは個体差が大きい。母子感染では、この時期がかなり短い例が多い。
(3)エイズ期(エイズ発病) CD4陽性T細胞がさらに減少し細胞性免疫不全が進行すると、感染抵抗力はいっそう低下して、次のような特徴的症状が現れる。この時期をエイズとよぶ。エイズ発症前に全身倦怠(けんたい)感、下痢、盗汗(寝汗)、発熱、体重減少(10%以上)のほか、帯状疱疹(ほうしん)、口腔カンジダ症などがみられる。エイズ指標疾患を発症した時点で、エイズと診断される。[南谷幹夫]
エイズ指標疾患(23種)

〔1〕真菌症 (1)カンジダ症、(2)クリプトコックス症、(3)コクシジオイデス症、(4)ヒストプラズマ症、(5)カリニ肺炎
〔2〕原虫症 (6)トキソプラズマ脳症、(7)クリプトスポリジウム症、(8)イソスポラ症
〔3〕細菌感染症 (9)化膿(かのう)性細菌感染症、(10)サルモネラ菌血症、(11)活動性結核、(12)非結核性抗酸菌症
〔4〕ウイルス感染症 (13)サイトメガロウイルス感染症、(14)単純ヘルペスウイルス感染症、(15)進行性多巣性白質脳症
〔5〕腫瘍 (16)カポジ肉腫、(17)原発性脳リンパ腫、(18)非ホジキンリンパ腫、(19)浸潤性子宮頸癌(けいがん)
〔6〕その他 (20)反復性肺炎、(21)リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成、(22)HIV脳症、(23)HIV消耗性症候群[南谷幹夫]
エイズの検査
HIV感染症は長期間無症状であり、エイズの発症は日和見疾患の発病で、臨床症状からHIV感染を確定診断することは困難である。HIV感染の有無はHIV抗体、あるいはウイルス抗原検査で判定し、HIV感染症は検査結果ならびに感染機会、臨床像を含めて総合的に判断する。
 HIV感染の有無を決定するための検査は、HIVを直接検出する抗原検査とHIVに対する抗体検査があるが、通常、HIV抗体検査が行われる。抗体検査はHIVのウイルス検査と同等の診断的価値がある。[南谷幹夫]
HIV抗体検査
HIV抗体の検査は信頼性が高く実用的で、世界各国で広く行われている検査法である。HIV抗体が認められれば、HIVに感染していると診断される。HIV感染後、HIV抗体が産生されるまでに6~8週、ときに12週間を要するが、この抗体を認められない期間をウインドウ・ピリオドという。HIV抗体が認められない場合は、感染早期のウインドウ・ピリオドの時期を除けばHIVに感染していないと判断される。感染後検査法の改良とともにウインドウ・ピリオドは短縮されてきた。
 HIV抗体検査には、(1)スクリーニング検査法として酵素抗体(EIA)法、ゼラチン粒子凝集(PA)法、受身凝集法、免疫クロマトグラフィー法があり、(2)確定検査法にはウエスタンブロット(WB)法、蛍光抗体(IFA)法がある。検査の実際では、高感度で多数の検体処理が可能なスクリーニング(ふるい分け)検査を行い、その陽性検体を精度の高い確認検査で確定する。[南谷幹夫]
HIV抗原検査
HIV抗原検査には、(1)ウイルス分離、(2)PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)、(3)p24抗原検査がある。HIVの分離培養は、日時と熟練を要するばかりでなく、検出率が低く実用的でない。PCR法はウイルスのDNAの特定領域を試験管内で10~100万倍に増幅して証明する方法で、高感度であり、診断的価値も高いが、大量処理の検査には向かない。実用面では、p24抗原検査が行われ、ついでPCR法が実施され、感染初期のウインドウ・ピリオドや母子感染の早期診断に使われる。また、感染者には、HIV増殖やCD4陽性T細胞の破壊の程度の指標を求めてHIV-RNA量を測定する。HIV抗原検査では、ウインドウ・ピリオドが16日まで短縮される。[南谷幹夫]
エイズの治療
HIV感染症の治療には、HIV感染の治療に直接有効な抗HIV剤療法と、日和見感染症療法、二次的悪性腫瘍療法とがある。各種の日和見感染症や悪性腫瘍には、それぞれに対応する治療法が用いられる。[南谷幹夫]
抗HIV剤療法
1987年(昭和62)に逆転写酵素阻害剤(抗HIV剤の一種)のAZTが登場し、ついでddI(ジダノシン)が実用化されたが、当時は有効な治療薬が限られており、治療の目的もエイズ発症の遅延、合併する日和見感染症の対策であった。1995年(平成7)秋にAZTとddI、またはddC(ザルシタビン)との併用療法がAZT単剤に比べて有意の有効性を示すことが確認された。さらに1995~97年にはプロテアーゼ阻害剤が採用されて、治療法は一変し、逆転写酵素阻害剤2剤+プロテアーゼ阻害剤1剤のカクテル療法が標準療法とされた。2000年10月現在、逆転写酵素阻害剤の核酸系7剤(うち合剤1剤)、非核酸系3剤、プロテアーゼ阻害剤5剤が承認、実用化されている。
〔1〕逆転写酵素阻害剤核酸系型 (1)ジドブジン(略号AZT、承認年月1987.9)、(2)ジダノシン(ddI、1992.6)、(3)ザルシタビン(ddC、1996.4)、(4)ラミブジン(3TC、1997.2)、(5)サニルブジン(d4T、1997.7)、(6)ジドブジン+ラミブジン(AZT+3TC、1999.6)、(7)アバカビル(ABC、1999.9)
〔2〕逆転写酵素阻害剤非核酸系型 (8)ネビラピン(NVP、1998.11)、(9)エファビレンツ(EFV、1999.9)、(10)デラビルジン(DLV、2000.2)
〔3〕プロテアーゼ阻害剤 (11)インジナビル(IDV、1997.3)、(12)サキナビル(SQV、1997.9)、(13)リトナビル(RTV、1997.11)、(14)ネルフィナビル(NFV、1998.3)、(15)アンプレナビル(APV、1999.9)[南谷幹夫]
治療の実際
核酸系逆転写酵素阻害剤2剤とプロテアーゼ阻害剤1剤の3剤併用療法が標準的治療法とされるが、核酸系逆転写酵素阻害剤2剤と非核酸系逆転写酵素阻害剤1剤、あるいは核酸系逆転写酵素阻害剤2剤とプロテアーゼ阻害剤2剤の4剤併用療法も採用されている。抗HIV剤は内服しにくいものが多く、副作用として胃腸障害や尿路結石が現れるものが少なくない。そのうえ、内服時間も制約されているばかりでなく、他剤との併用禁忌や注意を要するものがあって、内服を継続するのも努力を要する。さらに薬の内服中断や不規則な内服により病気の進行あるいはHIVが薬剤耐性になることが知られているので、患者に抗HIV剤を処方するにあたり、これらの注意点を十分に説明しなければならない。治療効果をあげるためには患者の理解と協力が必要である。いずれの抗HIV剤も単剤投与は不適当(母子感染予防を除く)であり、また選択不適当の組合せがあるので注意を要する。適切な抗HIV剤併用の確実な長期連用により効果が得られるが、経過中に合併する疾患に対する使用薬剤への注意や併用禁忌薬剤にも配慮する。そして抗HIV剤の長期連用に伴うHIVの薬剤耐性にも注意が必要である。[南谷幹夫]
抗HIV剤治療開始の基準(アメリカの基準)

(1)エイズ指標疾患症状、口腔カンジダ症、不明熱などの発現。
(2)無症候期では、血漿中HIV-RNA量が2万コピー/ml以上、またはCD4陽性T細胞数が500/ml以下。このほか、無症候期で血漿中HIV-RNA量が2万~3万コピー/ml以上、あるいはCD4陽性T細胞数が350/ml以下、あるいは血漿中HIV-RNA量が5000コピー/ml以下との意見もある。[南谷幹夫]
使用の要点

(1)AZTとd4Tは活動期の細胞に有効、ddI、ddC、3TCは休止期の細胞に有効であるので、両群から1剤ずつ選ぶ。
(2)ddI、3TC、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤はAZT耐性ウイルスを感受性に戻す可能性がある。
(3)プロテアーゼ阻害剤は交叉(こうさ)耐性をつくりやすいものがある。
(4)プロテアーゼ阻害剤は他の多くの薬剤と併用禁忌、併用注意がある。また、単剤投与治療は効果が乏しく、同時期効果の抗HIV剤2剤併用も推奨できない。また、治療開始前にHIV-RNA量が5000コピー/ml以下の場合は、長期未発症の可能性もあり、3か月ごとに検査して経過をみることも提案されている。[南谷幹夫]
針事故等医療事故感染防止対策
HIV汚染血液暴露後、当事者理解のもとに、2時間以内(なるべく早く)にAZT(600mg/日)、3TC(300mg/日)、インジナビル(2400mg/日+1.5l以上の水)またはネルフィナビル(2250mg/日)の3剤の予防内服(4週間継続)を開始する方法が採用される。[南谷幹夫]

歴史と現状


世界
エイズに関する報告は、アメリカCDC(Centers for Disease Control=国立防疫センター)発行のMMWR(『Morbidity and Mortality Weekly Report』=伝染病週報)1981年6月5日号の「ロサンゼルスで、若い男性同性愛者5人に発症したカリニ肺炎」、7月3日号の「ニューヨークとカリフォルニアで、通常みられないカポジ肉腫が若い男性26人に発生」の記事に始まる。その後アメリカ各地で調査が行われ、これらの症例が男性同性愛ないし両性愛の男性であること、CD4陽性T細胞減少を伴う細胞性免疫障害であることなどが明らかにされた。当時は男性同性愛者特有の疾患と考えられたにしても、その成因が先天性の免疫障害でなく、放射線障害、抗癌(がん)剤や免疫抑制剤の投与でもない細胞性免疫障害が起こり、その結果日和見感染症や悪性腫瘍が発症する新しい疾患として後天性免疫不全症候群という概念が成立した。そして1983年には異性愛者にもエイズ発症が確認された。またヨーロッパ、アフリカでもエイズの存在が知られ、世界的疫学調査が行われることになった。その結果、1980年以前のエイズ症例が調査され、最古のエイズ死亡例として1959年イギリスのマンチェスターの男性例が確認された。
 「総論」の「エイズウイルスとは」の章でも述べたように、1983年5月にモンタニエらにより本症の病原体としてLAVが発見された後、1984年にはギャロら、レビーらによっても原因ウイルスの分離が報告されたが、後にこれらは同じウイルスと判定され、1986年5月ウイルス分離国際委員会によりHIVと命名された。その前年の1985年には抗体検査のELISA(エライザ)法(酵素免疫抗体法enzyme-linked immunosorbent assay)が、翌1986年にゼラチン凝集法が開発された。また同年、モンタニエらにより西アフリカの患者からHIV-2型が発見された。エイズという病気の全体像からみると、HIVの感染から病気が始まり、ついで無症状の時期(無症候感染期)が続いて、細胞性免疫が障害されるとエイズとして発病してくるもので、この病気の全病像からみて、病型分類が発表(1986)された。HIVの起源地に擬せられるアフリカにもっとも多く感染者が存在し、ついでアメリカ、ヨーロッパで毎年多発したが、アジアでは遅れて1980年代中期から南・東南アジアで流行が始まり、1990年代中期以後急増している。
 世界保健機関(WHO)では人類の脅威としてとらえ、世界をあげてエイズ対策に取り組んでいる。WHOは、人類をあげてエイズ蔓延(まんえん)の防止に努力し、エイズ患者・感染者とともに生きる世界的運動の一環として、1988年12月1日に「世界エイズデー」を設定し、以後毎年12月1日に感染予防・患者支援運動推進のキャンペーンを行うことになった。また、エイズの基礎医学、臨床医学、疫学研究、予防、社会的活動の推進、情報交換、交流を目的とした第1回国際エイズ会議が1985年4月、アメリカのアトランタで開催されて以来毎年開かれ、1994年8月には第10回会議が横浜市で行われた。その後は隔年で開催されている。治療面では、1999年5月に「HIV感染症に対する抗ウイルス療法指針」を公表している。
 世界の流行状況の推移を示すと、WHO報告による世界のエイズ患者数は、1990年末31万4611人、1995年末129万1810人、1996年末154万4067人、1997年末173万6958人、1998年末198万7217人、1999年末220万1461人、2000年11月231万2860人、そして2002年11月現在の世界のエイズ患者数は282万2111人であり、地域別では、アフリカ地域111万1663人、アメリカ地域120万0799人、東地中海地域1万0155人、ヨーロッパ地域25万7057人、東南アジア地域20万5090人、西太平洋地域3万7347人であった。
 アジア地域へのエイズの侵入は遅く、WHOによれば、1985年の患者数は43人とされ、1990年末872人の後、急増が始まり、1992年2582人、1994年1万7057人、1995年末2万8630人、1996年末5万3974人、1997年末7万4431人、1998年末10万8738人で、1999年からは増加の著明な東南アジア地域と西太平洋地域に2分割された。調査がよく行われているタイでは、1999年11月の患者数13万人、感染者数約80万人(人口比1.45%)とされ、性的接触による感染が80%以上であり、コマーシャル・セックスワーカー(性風俗産業の従事者)の感染率は低下して1996年には19%に減少したとされるが、インド、ミャンマー(25%)、カンボジア(40%)などとともに、有病率の高い地域である。
 国連合同エイズ計画によると、世界の1年間のHIV罹患者数は、1997年580万人、1999年540万人、2001年400万人、2003年500万人、2005年490万人、2007年490万人とされ、2007年末の世界のHIV感染者の生存数は推定3320万人であり、流行開始以来の累積エイズ死亡者数は4200万人に達するとされる。WHOの報告による患者数は、アメリカ地域が世界の42.5%を占めるが、推測される世界のエイズ患者はその4倍以上で、さらにその4分の3がアフリカ、とくにサハラ以南のアフリカが総数の67%以上と推測されている。
 北アメリカでは、性行動変化の結果として男性間の性的接触感染が減少しており、1996年以降はエイズ患者発生数が鈍化し、エイズによる死亡数も減少している。西欧先進国では麻薬等静脈注射薬物濫用による感染も減少傾向にあり、新感染者は異性間性的接触による感染が相対的に増加している。ヨーロッパでは1990年以降の年間罹患者数は約4万人で、エイズ罹患率が安定した状態にあるが、性的活動の活発な階層にコンドームの使用が増加したためと思われる。一方、アフリカでは異性間性的接触による感染が依然として多く、世界的な増大を続けている。サハラ以南のアフリカでは多くの地域で男性、女性とも15~24歳のHIV感染率がもっとも高く、ユニセフの調査(2000)によれば、(1)ボツワナ女性34%、男性16%、(2)レソト女性26%、男性12%、(3)南アフリカおよびジンバブエ女性25%、男性11%、(5)ナミビア女性20%、男性9.1%とされる。[南谷幹夫]
日本
1984年(昭和59)厚生省(現厚生労働省)がエイズサーベイランス(患者発生動向調査)を開始し、1985年3月初めて男性同性間性的接触による感染のエイズ患者が確認された。当時はアメリカやヨーロッパのようなパニックはみられなかったが、1987年に異性間性的接触による女性患者が認定されてからパニック状態となり、相談や検査希望者が急増し、医療機関でもHIV感染者や患者の診療拒否が波及し、社会問題となった。HIV感染者の年間報告数は、以後漸増し1992年(平成4)の急増後一時減少したが、1996年以降毎年増加している。診療解決策として、1993年3月設置のエイズ治療のあり方の検討会でエイズ診療拠点病院構想が提起され、同年7月厚生省は各都道府県に2か所以上のエイズ治療拠点病院の選定依頼を通知した。エイズ診療経験の乏しい医療機関は、HIVに対する危惧感、知識の不足、一般受診者の減少、周辺住民の意識を配慮して拠点病院となることに対して拒否的であり、全国にエイズ治療拠点病院が選定されて病院名が公表されたのは、1996年8月であった。その後もHIV感染症患者の年間報告数は1997年まで漸増を続け、1998年に初めて微減したが、1999年にはふたたび増加した。
 HIV感染者の増加は、おもに日本国籍男性によるもので、日本国籍女性感染者の増加は緩やかである。外国籍者の報告数は横ばい傾向である。エイズ患者は日本国籍男性の増加が著明で、外国籍者は微増であった。外国籍者では感染者・患者ともに、東南アジア地域がもっとも多く、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカがこれに次ぐ。日本の感染者・患者報告数の推移は凝固因子製剤による感染例を除いたものであるが、凝固因子製剤による感染者数が明らかにされた時点からみると、初発患者発見当初から患者・感染者総数の大部分はHIVに汚染された輸入凝固因子製剤によって感染した人が大部分を占めており、その患者累計がエイズ患者総累計の半数以下となったのは1996年であった。
 感染経路別にみると、2006年末HIV感染者累計から凝固因子製剤感染1438例を除く8344例(100%)では、異性間性的接触2996例(35.9%)、同性間性的接触3727例(44.7%)、静脈注射薬物濫用41例(0.5%)、母子感染41例(0.4%)、その他180例(2.2%)、不明1368例(16.4%)であり、エイズ患者累計例から凝固因子製剤感染例を除いた4050例(100%)では、異性間性的接触1700例(42.0%)、同性間性的接触364例(28.3%)、静脈注射薬物濫用31例(0.8%)、母子感染17例(0.4%)、その他110例(2.7%)、不明1044例(25.8%)であった。
 罹患年齢調査では、2006年末HIV感染者日本国籍男性累計5666例のうち20~40歳代が約84%であり、女性累計584例のうち約41%が20歳代である。エイズ患者日本国籍男性累計2924例では30~50歳代が80%以上を占めており、女性累計219例のうち20~30歳代が49.3%と半数近くを占める。
 感染地域別にみると、2006年末HIV感染者累計から凝固因子製剤感染例を除いた8344例のうち、日本国籍男性5666例の82.9%が国内感染、日本国籍女性584例の71.9%が国内感染であり、エイズ患者累計から凝固因子製剤感染例を除いた4050例のうち、日本国籍男性2924例の70.0%が国内感染、日本国籍女性219例の63.0%が国内感染であった。なお、2006年HIV感染者単独集計952例のうち836例が日本国籍(男性787例、女性49例)で、そのうち国内感染は92.0%であり、エイズ患者単独集計406例のうち、355例が日本国籍(男性335例、女性20例)で、そのうち国内感染は82.8%であった。これは調査年が下るにつれ国内感染が増加していることを示している。
 凝固因子製剤については、1985年から加熱処理凝固因子製剤が登場し、その後製剤材料にHIV抗体陰性血液のみが使用されるようになり、さらに遺伝子工学による製剤が出現して新しい感染者はなくなった。
 献血血液のHIV抗体保有率は、欧米諸国では献血血液のHIV抗体陽性率は年々減少、ないし低率で安定しているが、日本では逐年増加し、1987~1989年の10万対0.1~0.2から1990~1993年には0.3~0.5、さらに1994~1997年は0.5~0.9、1998~2000年は0.9~1.1、2001~2005年は1.3~1.4と上昇しており、2006年には10万対1.744となっている。[南谷幹夫]

日本における問題点と課題


医療体制

〔1〕エイズ診療拠点病院の整備 前述したように、厚生省は、1993年(平成5)7月、全国に格差のないエイズ診療が円滑に行われることを目的に、各都道府県に2か所以上のエイズ診療拠点病院の選定を依頼し、拠点病院の設備・機器の整備を図り、機能を充実して一般医療機関との連携のもとに医療体制の確立を企画した。エイズ診療拠点病院への参加病院はなかなか増加しなかったが、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て1996年8月に全国都道府県で293病院が拠点病院に参加し、その後も増加して2004年4月現在369病院に達した。拠点病院の実状は、依然として診療体制や診療経験などの格差が大きく、さらに世界のエイズ治療研究の日進月歩に即応する医療体制を整備する必要があった。厚生省は1996年、エイズ診療体制を強力に推進するために、(1)エイズ治療・研究開発センターを国立国際医療センター内に設置し、(2)全国を8ブロック(北海道、東北、関東甲信越、東海、北陸、近畿、中国四国、九州)に分け、各ブロックにブロック拠点病院を指定し、エイズ治療・研究開発センターとの連携体制、ブロック内のエイズ治療研究の拠点となるよう整備することになった。1999年8月のアンケート調査によれば、調査対象である一般拠点病院350施設、ブロック拠点病院14施設のうち、回答のあった268施設では、エイズ患者経験0例の施設が54施設(20.1%)であった。一方、一般診療病院約3000施設のアンケート調査で、約25%の施設がエイズ患者経験ありとし、拠点病院なみの診療が可能と回答したのは約10%であった。
〔2〕保健所のエイズ対策 保健所のエイズ対策は、大別すると、(1)エイズに対する無料匿名電話相談、(2)無料匿名来所相談・検査・HIV感染者への医療機関紹介、(3)社会への正しいエイズ教育の普及(一般社会、企業、職場、学校など)となる。保健所のエイズとのかかわりは、1987年1月、神戸での売春常習女性のエイズ患者確認後に、この女性と接触のあった不特定多数男性に対する相談・検査から始まった。これを契機に保健所におけるHIV抗体検査がしだいに常設的に行われることになった。東京では、すでに1985年12月、保健所を通してリーフレットの配布が行われており、1987年2月には都内全保健所で電話相談・エイズ相談・検査が開始され、1989年から保健所の検査は匿名検査となった。1992年には患者・感染者が急増し、全国各地で確認されるようになり、全国的に保健所での相談検査が推進され、1993年からはそれまでの匿名無料相談有料検査から匿名無料相談検査となった。そして検査受診者にはカウンセリング、検査陽性者にはカウンセリング、告知、医療機関の紹介(検査陽性者の希望優先)を行い、希望があれば患者家族の相談も受ける。このほか、保健所のエイズ関連事業には、社会一般に対するエイズの正しい知識の普及、企業・職場のエイズ教育、青少年に対する健康教育やエイズ教育、新しい性教育、世界エイズデー行事への協力などがある。匿名無料相談検査希望者が世界エイズデー行事の期間中に著明な増加をみていたが、1995年ごろから増加がみられなくなり、年間平坦(へいたん)化している。[南谷幹夫]
患者・感染者との共生

〔1〕HIV感染者の障害認定 1998年(平成10)1月身体障害者福祉法施行令等が改正され、同年4月からHIV感染者は「免疫機能障害」として認定されることになり、身体障害程度等級表により1級から4級判定され、身体障害手帳が交付され、(1)更生医療、(2)医療費助成、(3)ホームヘルプサービス(訪問介護)、デイ・サービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所生活介護)などの福祉サービスの利用、(4)その他税制上の優遇措置を受けられることになった。
〔2〕感染者に対する偏見・差別の解消 エイズが社会に登場して以来、性的接触感染による不治の疾患で、感染して発病すれば、かならず死に至る疾患として人々に恐れられ、感染者に対する偏見が高じて交際拒否、会合拒否、登校拒否など社会問題が生じた。感染者に対する偏見・差別は、かえって感染者の潜在化、病気の拡大を招くことになる。問題解決のためには、エイズに対する正しい知識の普及により、感染者に対する偏見・差別を解消して感染者とともに生きる理解が必要である。[南谷幹夫]
エイズ教育・性教育の必要性
HIV感染に有効な薬剤が次々に登場し、薬剤の併用療法の有効性が期待されているが、完全に治癒させる薬はまだ開発されていない。エイズ予防ワクチンの実用化は研究段階にあり、なお時日を要するとされる。確実な治療薬や予防ワクチンが登場した時代になってもHIV感染防止に勝るものはない。それには、エイズに対する正しい知識の普及が重要で、HIVの感染経路を含めた徹底した予防教育が中心となる。エイズに関する正しい知識を獲得することで、感染予防ばかりでなく、エイズ患者やHIV感染者に対する理解が進み、患者やHIV感染者の人権を尊重し、偏見や差別がなくなり、ともに生きる社会を築くことができる。[南谷幹夫]
性的接触による感染の予防教育
不特定多数の相手との性的接触は、なかには感染者がいる可能性が高くなり、HIVの感染の危険性が増大する。この危険を避けるためには、賢明な意志決定に基づいた性行為を行うことが大切で、具体的にはパートナーを限定することが第一であり、第二が正しいコンドームの使用が予防に有効である。アンケート調査によれば、ピルの使用でエイズ予防に有効と誤解するものがある一方、カやダニで感染するとか、咳(せき)やくしゃみで感染するといった誤解も解消されていない。予防教育にあわせて重要なことはHIV感染者に対する偏見・差別をなくす教育である。予防教育の実施は、自治体、保健所、職域、社会事業などの主催で、とくに12月1日の世界エイズデーを中心に行われることが多い。[南谷幹夫]
学校におけるエイズ教育
2000年(平成12)8月末のHIV感染者・エイズ患者(エイズ予防法以後の集計)3614名の年齢分布では20~30歳代が71.3%を占め、ことに女性では20歳代が66.3%と過半数を占めている。患者・感染者は若い年齢層に多く、中学や高校におけるエイズ教育の重要性を示している。文部省(現文部科学省)では学校におけるエイズ教育資料の作成を企図し、日本学校保健会に委託して1987年(昭和62)「エイズに関する指導の手引」を作成した。1989年に学習指導要領が改訂され、1992年に「エイズに関する指導の手引」改訂版が発行され、さらに1998年には小・中・高等学校における教科とのかかわりのなかで「みんなでいきるために――エイズ教育参考資料」を発行し、保健体育の教科のなかで重要な位置を占めている。これに伴って中学生用エイズ教育教材「エイズを正しく理解しよう!」、高校生用エイズ教育教材「AIDS――正しい理解のために」が生徒たちに配布され、エイズの本質に対する理解を高め、流行の現状、問題点、感染経路、予防、誤解や偏見・差別の解消に努めている。[南谷幹夫]
『北村敬・南谷幹夫著『エイズの臨床――一般医のための診療指針』(1987・医学書院) ▽山田卓生・大井玄・根岸昌功編『エイズに学ぶ』(1991・日本評論社) ▽NHK取材班編著、塩川優一監修『NHKスペシャル エイズ危機』(1992・日本放送出版協会) ▽松山幸弘著『エイズ戦争「日本への警告」』(1992・東洋経済新報社) ▽水野肇著『エイズのなにが恐いのか』(1992・中央公論社) ▽エイズ予防財団編『エイズ相談マニュアル』(1993・エイズ予防財団) ▽塩川優一編『からだの科学「エイズ」』(1994・日本評論社) ▽東京都衛生局編、南谷幹夫監修『HIV/AIDS教育・相談マニュアル』(1995・東京都衛生局) ▽エイズ対策研究会編、箕輪真澄監修『エイズ対策――理解と実践のすべて』(1995・東京法規出版) ▽労働省労働衛生課監修『職場とエイズ』(1995・産業医学振興財団) ▽秋山武久著『HIV感染症――この一冊でそのすべてが分かる』(1997・南山堂) ▽鎌倉光宏編『第4回アジア太平洋国際エイズ会議 アジア太平洋地域におけるHIV/AIDS/STD流行の現状と動向 1997.10.21~23』日本版(1997・保健会館健康教育推進本部) ▽日本学校保健会編『みんなでいきるために――エイズ教育参考資料』(1998・第一法規出版) ▽厚生省エイズ動向委員会編『平成11年エイズ発生動向年報』(2000) ▽HIV感染症治療研究会編『HIV感染症「治療の手引き」』第4版(2000・治療研究会事務局) ▽東京HIV訴訟弁護団編『薬害エイズ裁判史』全5巻(2002・日本評論社) ▽アリグザンダー・アーウィン他、八木由里訳『グローバル・エイズ――途上国における病の拡大と先進国の課題』(2005・明石書店) ▽本郷正武著『HIV/AIDSをめぐる集合行為の社会学』(2007・ミネルヴァ書房) ▽山本正・伊藤聡子編著『迫りくる東アジアのエイズ危機』(2007・連合出版)』

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世界大百科事典内のエイズの言及

【性行為感染症】より

…さらに,B型肝炎ウイルスによるB型肝炎は,同性愛男性間の肛門性交の際,血液中にあるこのウイルスが陰茎の外傷部位から侵入して発症すると考えられている。
[エイズ(AIDS)]
 HIVウイルスによって起こる感染症。acquired immuno deficiency syndromeの略で,日本語では後天性免疫不全症候群という。…

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