懺法(読み)センボウ

デジタル大辞泉 「懺法」の意味・読み・例文・類語

せん‐ぼう〔‐ボフ〕【×懺法】

経をじゅして罪過懺悔さんげする法要法華懺法観音懺法などがある。
1のときに誦する経文
懺悔の方法を説いた書。

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精選版 日本国語大辞典 「懺法」の意味・読み・例文・類語

せん‐ぼう ‥ボフ【懺法】

〘名〙 (「せんぽう」とも) 仏語。
① 経を読誦して、罪過を懺悔(さんげ)する儀式作法。罪障を懺悔するために、特別に行なう法要で、古くは悔過(けか)といった。経典本尊によって種々の別があるが、法華懺法、観音懺法、阿彌陀(あみだ)懺法などは滅罪生善の後生菩提(ごしょうぼだい)のために、吉祥懺法は鎮護国家息災延命のために行なわれる。中古以後、法華懺法がもっとも盛んで、懺法は法華懺法の略称となった。懺法講。
※九暦‐逸文・天暦八年(954)一〇月一九日「今日中懺法」
源氏(1001‐14頃)御法「やがてこのついでに不断の読経せんほうなど、たゆみなく尊き事どもせさせ給ふ」
② ①のおりに読誦する経文や偈(げ)文。また、①のおりに仏名を念誦すること。
※源氏(1001‐14頃)若紫「法花三昧行ふ堂の、せむ法の声、山おろしにつきて聞えくる」
③ 懺悔の方法を書いた作法書。
※山家正統学則(1794頃)上「国清六時礼懺法。一巻写本」
④ 能「朝長(ともなが)」の特殊演出の呼称シテ・ワキ・間(あい)狂言とも重い習い物とされ、特に太鼓方秘事で一子相伝とされている。

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改訂新版 世界大百科事典 「懺法」の意味・わかりやすい解説

懺法 (せんぼう)

(1)仏事の法要の分類名。経を読誦して罪過を懺悔(さんげ)する法要で,天台系の《法華懺法》と禅系の《観音懺法》が有名である。構成は両者でかなり違っているが,その中心は敬礼段(きようらいだん)(頂礼段),懺悔段,経段にある。敬礼段は,法華経または観音菩薩に縁のある仏菩薩等の名号(みようごう)を連ねて敬う。懺悔段は心身の犯した罪を懺悔する。経段は,《法華懺法》では法華経の安楽行品(あんらくぎようほん)を読誦し,《観音懺法》では消伏毒害陀羅尼等の三陀羅尼を読誦する。《法華懺法》は全文漢音読みにするので,たとえば釈迦牟尼仏は〈セキャボジフ〉と発音する。《観音懺法》は独特の唐音読みにするので,たとえば釈迦牟尼世尊は〈シキャムニシスン〉と発音する。《法華懺法》は,全文にきわめてていねいなフシを付ける〈声明(しようみよう)懺法〉から,個人日常の行として勤める素読みのものまで,数段階の勤め方がある。曹洞宗の《観音懺法》では,〈鼓鈸(くはつ)〉といって太鼓と鈸(はち)で奏する一定の曲節が挿入される。上記2種の懺法のほかに,《法華懺法》と同じ構成の《阿弥陀懺法》がある。真言系には懺法はないが,《金剛界礼懺(れいさん)》《胎蔵界礼懺》がこれに相当すると考えられる。

(2)能《朝長(ともなが)》の小書(こがき)(変型演出の名)。後ジテ源朝長の霊の出の囃子事(はやしごと)は,通常は〈出端(では)〉だが,それをまったく別の〈懺法〉に変える。これに用いる太鼓は,にぶい低音の独特の音色に調えたものを用い,太鼓方の秘曲とされる。上述の法要における〈鼓鈸〉との関係はとらえにくい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「懺法」の意味・わかりやすい解説

懺法
せんぼう

仏教における懺悔(さんげ)(悔過(けか)ともいう)の行法、または法会(ほうえ)の儀式およびその儀則。諸仏菩薩(ぼさつ)に礼拝(らいはい)して自らの罪過を仏前に告白して容認を乞(こ)い、罪業を免れることが基調で、懺悔・悔過の行法を内容とする経論から抄出したものが、中国仏教で4、5世紀ころから治病除災などの現世得益のため行われた。それらは梁(りょう)の武帝により、仏名経典と合して『慈悲道場(じひどうじょう)懺法』10巻に編集されたが、天台智顗(ちぎ)は止観の行法として、在来のものを『法華三昧懺儀(ほっけさんまいせんぎ)・方等(ほうとう)三昧行法・請観世音(しょうかんぜおん)懺法・金光明(こんこうみょう)懺法・方等懺法・敬礼法』とつくり直して類形化し、『円覚経(えんがくきょう)道場修証儀(しゅしょうぎ)』18巻、『華厳経礼懺儀(けごんきょうらいせんぎ)』42巻など膨大なものまでつくられた。日本では、法華三昧懺儀の抄出である法華懺法をさし、宮中で先帝の御忌(ぎょき)に用いられ、天台宗勤行儀(ごんぎょうぎ)ともなっている。東大寺の御水取(おみずとり)に用いる「吉祥悔過法(きっしょうけかほう)」や勅会(ちょくえ)の御仏名会(おぶつみょうえ)も懺法であり、舎利(しゃり)懺法、薬師(やくし)懺法、弥陀(みだ)懺法などがある。

[塩入良道]

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普及版 字通 「懺法」の読み・字形・画数・意味

【懺法】ざんぽう

字通「懺」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「懺法」の意味・わかりやすい解説

懺法
せんぼう

仏教用語。諸経典の諸説によって罪を懺悔する儀式の法則。懺儀 (せんぎ) ともいう。懺悔の方法には,戒律を破った罪を僧や仏の前で懺悔するものと,業道による方法とがある。懺儀は中国で梁代以来盛んに行われた。日本では古くは悔過 (けか) と呼ばれ,「法華懺法」がしばしば行われた。

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世界大百科事典(旧版)内の懺法の言及

【延暦寺】より

…古来,山僧の多くは山上に住まず,東西坂本および洛中に里坊(さとぼう)を有したが,今では主として東坂本(大津市坂本)に集住し,ここには最澄生誕地と伝える生源寺,座主の住坊である滋賀院門跡をはじめ多くの住院がある。
[法会]
 《三宝絵詞》(984年源為憲撰)には,叡山で行われる毎年の法会として,1,4,7,10月に各21日間ずつ行う懺法(せんぼう)(812年最澄始修),3月と9月の15日に行う勧学会(964年始修,山僧20人と大学寮学生20人が坂本の寺に会し,朝は法華経を講じ,夕は念仏を行い,終夜,讃仏の詩文を作る),4月の花の盛りに行う舎利会(860年円仁始修),4月15日以前に行う授戒会(823年始),6月4日,最澄の忌日に行う六月会(みなづきえ),8月11日から17日まで行う不断念仏(865年円仁始修),9月15日に行う灌頂(843年円仁始修),11月24日の天台大師忌に行う霜月会(798年最澄始修)を掲げる。このうち六月,霜月の両会はとくに重んじられ,5年に1度,好季を選んで両会同時に修し,これを法華大会という。…

【朝長】より

…それは,平治の乱の敗戦で東国に落ちのびてきた源義朝の一行を,長は自分の家に泊めたが,重傷の次男朝長は父たちのことを考えて夜中に自害し,短い生涯を終えたといい(〈語り・上歌(あげうた)等〉),僧を自分の家に伴う。僧が観音懺法(かんのんせんぼう)の法要を勤めると,夜半に朝長の霊(後ジテ)が昔の姿で現れる。朝長は,兄義平や弟頼朝が敵に捕らえられ,父の義朝は家臣の長田(おさだ)に討たれるなど一門が不運をたどるなかで,青墓の宿の長が自分たちを親身に世話し,死後の弔いまで続けてくれていることに感謝し(〈クセ〉),今の修羅道の苦しみや,最後の戦いで膝を射られて重い手傷を負ったことなどを物語る(〈ロンギ・中ノリ地〉)。…

※「懺法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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