小書(読み)コガキ

デジタル大辞泉 「小書」の意味・読み・例文・類語

こ‐がき【小書(き)】

[名](スル)
文書の中に注などを小さな文字で書き入れること。また、その書き入れ。
能の特殊演出のとき、番組曲名の左わきに小さくその演出を表す名称をつけ加えること。また、その特殊演出。
[類語]割り書き割り注脚注頭注補注注釈注解校注評注訳注原注傍注左注古注新注

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精選版 日本国語大辞典 「小書」の意味・読み・例文・類語

こ‐がき【小書】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 小さな文字で書くこと。また、その文字や、そのための筆。
  3. 詳細に書くこと。文章の注、内わけなどをこまかく書き入れること。また、そのもの。
    1. [初出の実例]「一人道行は此ところ大不出来大不出来と絵本の小がきに書かれるのだ」(出典:西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉三)
  4. 能楽の特殊演出のときに、番組の曲目の左側に、その種類を示す名称を小さくつけくわえること。また、その特殊演出。

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改訂新版 世界大百科事典 「小書」の意味・わかりやすい解説

小書 (こがき)

能,狂言の用語で,普通の奏演法とは異なる特殊な奏演法をいう。能でも狂言でも,謡・囃子所作のすべての面にわたって流派ごとに一応の規範が定められているが,ある部分については二つ以上の奏演法が認められていて,奏演者裁量に任されていることがある。その場合,そのうちの一つを基本の奏演法とし,他を変形の奏演法(〈替エ(替)〉と総称する)と規定していることが多い。そうした替エの奏演法のうち,伝授を受けなければ奏演を許されない事項(これを〈習イ〉と総称する)が小書の主体となる。こうした特殊な奏演法には,《安宅》の弁慶勧進帳を独唱することを示す〈勧進帳〉のようにその内容を示す特別な名称が付いており,その名称を番組に小さく付記することから〈小書〉と呼ばれるようになった。また,習イとなっていない替エの奏演法でも,それが大幅な変更である場合には,〈替装束〉とか〈替之型〉とかの名称を付して小書としている例もある。

 小書による変化には,普通は力強く床をふむ足拍子を音をたてずにふむといった程度のものから,ある1場面が全く別の場面となってしまうようなものまでさまざまだが,大きく分けると,役者の変更,扮装の変更,作り物の変更,詞章面の変更,音楽面の変更,所作面の変更の6通りとなる。その内容は,省略,添加,入れ換えの3通りなので,小書による変化は18通りとなるが,実際には,一つの小書で扮装と所作と音楽が変化するというように,いくつかの部分が同時に変更されることが多い。また,《海人(あま)》の〈赤頭(あかがしら)三段之舞〉と〈懐中之舞〉のように同じ部分(この場合は早舞(はやまい)部分)に数種の小書がある例も多い。したがって,奏演に際して採用(選択)される小書は,最多でも3種程度となることが多い。なお,その演目にあるすべての小書(奏演可能なすべての小書)を奏演することを,特に〈一式之習〉として一つの小書としている例もある。小書には後世の家元の工夫や舞台での偶然の思いつきから生まれたものもあるが,本来の演出が江戸時代の類型化の流れの中で小書とされたり,〈習イ〉を重視するあまりに小書化された例もある。特に〈アイ〉に関する小書(いわゆる〈替アイ〉)には後者の例が多い。

 能の小書は,シテ方・ワキ方・狂言方・囃子方の各役にわたるが,その大部分はシテ方の奏演に関連するため,シテ方各流派では公刊の名寄せ(流派の上演曲目を一覧としたもの)や謡本などで公認の小書を明らかにしている。それによると,小書のある演目は約170曲で,現在演じられている曲の約85%にあたるが,このうち5流すべてに小書のある演目は25曲にすぎない。しかし,《融(とおる)》のように一つで10余種の小書をもつ演目もあるため,小書の総数は最も少ない金春(こんぱる)流でも50を数え,以下,喜多流,宝生流各100,金剛流200,最も多い観世流では400に達する。5流すべてにある小書としては《安宅・延年之舞》《江口・平調返》《老松・紅梅殿》《鞍馬天狗・白頭》《朝長・懺法》《野宮・合掌留》《松風・見留》などがあるが,同じ内容でも流派によっては別の名称がついているものや,同じ名称でも内容の異なるものなどがある。異名同内容の例には《唐船》の〈手掛之応答(観世流)〉と〈棹之掛(宝生流,喜多流)〉などがあり,同名異内容の例には《安宅・延年之舞》(各流ともに小異がある)などがある。近年は金春流など小書の少ない流派はもとより,観世流のように小書の多い流派でも,他流派にあるおもしろい小書を取り入れて演ずる傾向がある。また,小書としない〈替エ〉でも,観客に知らせる意味で番組に付記する場合もあるので,番組に記されたものがすべてその流派の小書というわけではない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小書」の意味・わかりやすい解説

小書
こがき

能の特殊演出のこと。曲目の左わきに小さく書き添えるため、この名がある。小書の演出が固定したのは江戸中期以降と考えられ、今日1000種ほどが各流各役に制定、登録されている。小書つきでは曲のねらいが変化し、また強調され、その上演は常の演能より重く扱われる。面(おもて)、装束、作り物、囃子(はやし)から登場人物まで変化することがあり、脚本が短くなり、あるいは別の脚本が挿入される場合もある。狂言にも少数の小書があるが、能のような本質的な変化はない。

[増田正造]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「小書」の意味・わかりやすい解説

小書
こがき

能の特殊演出。通常の演出とは異なり,詞章,謡,型,囃子,扮装,作り物などを添加,省略したり,入替えたりする。番組の曲名の左脇に少し下げて小さく書き添えるところからいう。曲の演出に変化を求めたために起り,家元が自流の習事 (ならいごと) と定めたもので,重い扱いとなることが多い。 600種ほどが数えられる。

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世界大百科事典(旧版)内の小書の言及

【懺法】より

…真言系には懺法はないが,《金剛界礼懺(れいさん)》《胎蔵界礼懺》がこれに相当すると考えられる。(2)能《朝長(ともなが)》の小書(こがき)(変型演出の名)。後ジテ源朝長の霊の出の囃子事(はやしごと)は,通常は〈出端(では)〉だが,それをまったく別の〈懺法〉に変える。…

【習】より

…しかし,一般に大曲,秘曲と目されている演目,たとえば能の《石橋(しやつきよう)》や《道成寺》,老女物の《姨捨(おばすて)》《関寺小町》《檜垣》《鸚鵡(おうむ)小町》《卒都婆小町》など,また狂言の《釣狐》《花子(はなご)》などは,各流派,各役種とも習に扱っている。また,通常の演じ方とは替えて演ずることが習に結びつく一つの要件で,小書(こがき)(特殊演出)の能は原則として習であり,同様の意味で,〈一調(いつちよう)〉という演奏形式はつねに習である。 習には伝授の順序が定められており,演目ごとに初伝(しよでん)・中伝・奥伝,あるいは小習(こならい)・中習(ちゆうならい)・大習(おおならい)・重習(おもならい)・別習(べつならい)・一子相伝(いつしそうでん)などと名づけられた等級がある。…

【音取】より

…能の囃子のなかでも,きわめて特異な構造になっている。《翁》付脇能のほか,老女物やとくに重要な小書(こがき)付きの能の冒頭に一曲の序曲として用いられる。そして曲柄に応じたいくつかの旋律があって,〈真(しん)ノ音取〉〈鬘(かつら)ノ音取〉などという名称が用いられる。…

【連獅子】より

…(1)能《石橋(しやつきよう)》の小書(こがき)(変型演出の名)。観世流は〈大獅子(おおじし)〉と称する。…

※「小書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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