非合法出版(読み)ひごうほうしゅっぱん

改訂新版 世界大百科事典 「非合法出版」の意味・わかりやすい解説

非合法出版 (ひごうほうしゅっぱん)

法に反して,あるいは法で定められた要件を備えずになされる出版。多くは,なんらかの言論統制がしかれている場合にそれに抵触する出版と,一般の公序良俗に反するとされる(プライバシーの侵害,猥褻(わいせつ)文書など)出版をいい,地下出版,秘密出版と重なるところが多い。著作権法違反にあたる出版は,海賊版として区別されるのがふつうである。日本では第2次世界大戦前の出版法などの言論統制各法によって取締りが厳しかった時代に反体制・反国家権力の立場でなされた出版が前者の例であり,それはむしろ盛んであった。1940年代にフランスのレジスタンス運動一環として刊行された〈深夜叢書〉(レジスタンス文学)は,地下出版の例として知られている。後者の例として,日本では江戸時代中期に出版が盛んになるとともに幕府によってわいせつとされる図書が取り締まられたが,その厳しかった時代にはその前後の時代よりもそれらはむしろ盛んに出版された。これは,わいせつ図書に厳しかったイギリスのビクトリア朝期でも同じである。現代の日本では〈言論・出版の自由〉をうたう憲法下で出版活動そのものを規制する法律はないので,公序良俗に反するとされる出版がその関係法規で規制されるものがあるくらいだが,一方では秩序維持のためとしてさまざまな法律や経済的規制により特定の出版活動を〈非合法化〉しようとしている,とする批判もある。

 海外ではその体制のいかんにかかわらず,なんらかの出版規制法規のある国が多い。近年の例では,ソ連における異論派の地下出版(サミズダート)の弾圧をめぐる一連の事件は,非合法出版とそれへの国家の対応の典型ともいえよう。なにを非合法とするかについては他のすべての問題と同じであるが,ことに出版に関しては,その国の文化を如実に反映するものであるだけに重大な問題をはらんでいる。
言論統制
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

図書館情報学用語辞典 第5版 「非合法出版」の解説

非合法出版

出版を規制する法律がある場合にその法律に従わない出版.民主主義国家では言論・出版の自由が確立しており,出版に対する法的規制は著作権侵害やプライバシーの侵害などに限られている.しかし,著作権侵害などで発売停止などの処分になった出版物を,通常は非合法出版とは呼ばない.非民主主義的な国家では,政治体制を批判する勢力・団体を非合法化し,その宣伝活動となる出版を禁止することが多い.それに抗して行われる出版を非合法出版と呼ぶ.日本では,1869(明治2)年の「出版条例」,1893(明治26)年の「出版法」などにより,政府が出版を取り締まった.当時は出版の自由が存在せず,非合法出版が数多く行われていた.第二次大戦後は,「日本国憲法」により出版の自由が保障されている.例外として,1952(昭和27)年の「破壊活動防止法」第5条で機関誌紙が発行停止処分を受けた場合に,発行を強行すれば非合法出版に該当することになる.

出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報

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