鎖式の飽和ジカルボン酸の一つで、1,4-ブタンジカルボン酸、ヘキサン二酸の別名をもつ。
シクロヘキサノールないしはシクロヘキサノンを、バナジン酸アンモニウムなどを触媒として硝酸により酸化して合成する。アジポニトリルの加水分解によってもつくられる。無色の柱状結晶で、水にわずかに溶け、水溶液は酸性を示す。エタノール(エチルアルコール)、アセトンにはよく溶けるが、エーテル、炭化水素溶媒にはほとんど溶けない。加熱すると無水アジピン酸になる。カルシウム塩を乾留するとシクロペンタノンを生成する。ナイロン66の原料として重要であるほか、ポリエステル樹脂の原料としても用いられる。アジピン酸とオクチルアルコール、デシルアルコールなどとのジエステルは可塑剤や合成潤滑油としての用途をもつ。
[廣田 穰]
飽和ジカルボン酸の一種で,天然に存在する種々の脂肪の加水分解によって得られることからこの名がつけられた(ラテン語adipisは脂肪の意)。化学式HOOC(CH2)4COOH,融点153℃の無色柱状結晶。エチルアルコールに易溶,アセトン,熱水,熱酢酸に可溶,水から再結晶できる。水にわずかに溶けて酸性を呈する。高温に加熱すると脱水を起こし,反応条件によってアジピン酸無水物または重合体無水物を生じる。実験室ではシクロヘキサノールを硝酸で酸化して合成できるが,工業的にはシクロヘキサンの触媒による空気酸化で製造される。ナイロン66など合成繊維の原料,アルキド樹脂やポリエステル樹脂の原料として用いられ,またオクチルアルコールやデシルアルコールなどの高級アルコールとのジエステルは可塑剤として利用される。分析化学上は,酸の一次標準物質としてアルカリ標準液の標定に用いる(当量73.07)。
執筆者:井畑 敏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
hexanedioic acid.C6H10O4(146.14).HOOC(CH2)4COOH.二塩基酸の一種.シクロヘキサノール,シクロヘキサノン,あるいはシクロヘキサンの酸化分解で得られる.アジポニトリルの加水分解によっても得られる.単斜柱状晶.融点153 ℃,沸点205 ℃(1.3 kPa),265 ℃(13 kPa).Ka1 253.76×10-5.エタノール,アセトンに可溶,エーテルにはほとんど不溶.ナイロン66の重要な製造原料,そのほかポリアミド繊維,アルキド樹脂,ポリエステル樹脂,可塑剤,医薬品などの合成原料としても大きな用途がある.LD50 1900 mg/kg(マウス,経口).[CAS 124-04-9]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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