イーゴリ公(読み)イーゴリこう(英語表記)Igor' Ryurikovich, knyaz'

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イーゴリ公」の意味・わかりやすい解説

イーゴリ公
イーゴリこう
Igor' Ryurikovich, knyaz'

[生]877頃
[没]945. イスコロステン
ロシアキエフ大公 (在位 912~945) 。リューリクの子。父の死後,傍系のオレークに奉じられてキエフ入りを果す。妻オリガはスカンジナビア系の名をもち,息子にはスラブ系のスビャトスラフという名がつけられている。スビャトスラフがイーゴリを相続して以後,リューリク朝系図からスカンジナビア系の大公の名が消えるので,彼はバリャーグ人ルーシ (→ルス ) 化する過渡期の公として注目されている。オレークの死後イーゴリはリューリク朝3代目の大公となり,913年トゥムトロカンに軍を進め,その地のルーシを合せてオレーク以来懸案のカスピ海西岸への進出を企てたが,ドレブリャーニン人の反乱の報に接して軍を2分し,みずからは少数の兵とともにキエフに返して彼らを鎮定し,貢租を増加した。他の一軍はカスピ海域を攻略したが,その帰途ハザール人に襲撃されて全滅。続いてペチェネグ人と対決したが,休戦協定が成り,彼らを西方ブルガリアへ向けることに成功した。オレークが 911年に結んだ通商条約をビザンチン皇帝が破棄したので,944年クリビチ,チベルチ,スロベン人などのスラブ諸族の加勢を得て大遠征軍を起し,ドナウ河畔でコンスタンチノープルからの使節に新条約の締結に同意させ,通商関係を再開した。「巡回徴租 (ポリュージェ) 」のためドレブリャーニン人を訪れたとき,誅求を恨む彼らに殺害された。

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百科事典マイペディア 「イーゴリ公」の意味・わかりやすい解説

イーゴリ公【イーゴリこう】

ボロジン唯一のオペラ。《Knyaz' Igor'》。《イーゴリ軍記》に取材した4幕もので,台本は作曲者自身。1869年に起筆され未完に終わったが,リムスキー・コルサコフグラズノフが補筆完成。1890年サンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場初演グリンカの《ルスランとリュドミラ》の系譜につらなるロシアの国民主義オペラの代表作の一つとして知られ,第2幕の《韃靼(だったん)人の踊り》は有名。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イーゴリ公」の意味・わかりやすい解説

イーゴリ公
いーごりこう
Князь Игорь/Knyaz' Igor'

ボロディン作曲のオペラ。プロローグと4幕からなる。12世紀のキエフ公国を舞台に、ノブゴロド・セーベルスキー公イーゴリが遊牧民族ポーロベツ人の侵略と戦う物語で、作曲家自身が英雄叙事詩イーゴリ遠征物語』から台本を作成した。ドラマの愛国的性格から、そしてロシアの民謡や教会音楽に特有な旋律とリズムを大きく取り入れていることから、この作品はロシア国民主義歌劇の代表作とされている。またロシア的要素だけでなく、第2幕の有名な「ダッタン(ポーロベツ)人の踊り」のように、アジア・オリエントの民族的要素も組み込まれているため、異国情緒の表現は実に多彩なものとなっている。なお、ボロディンは作品未完のまま1887年に世を去ったため、リムスキー・コルサコフと弟子のグラズーノフオーケストレーションを行い未完の部分を補筆して完成、1890年にペテルブルグで初演された。日本初演は1965年(昭和40)スラヴ歌劇団。

[三宅幸夫]

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デジタル大辞泉プラス 「イーゴリ公」の解説

イーゴリ公

ロシアの作曲家アレクサンドル・ボロディンのロシア語によるプロローグと全4幕のオペラ(1890)。中世ロシアの叙事詩『イーゴリ軍記』に基づく。第2幕の曲『ダッタン人の踊り』が広く知られる。

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世界大百科事典(旧版)内のイーゴリ公の言及

【イーゴリ軍記】より

…少数意見ながら偽作説がある。なお,ボロジンの歌劇《イーゴリ公》は,この物語に取材したものである。【中村 喜和】。…

【バレエ・リュッス】より

…また当時ロシアのみに保たれていた厳格な古典舞踊教育機関(ペテルブルグ帝室マリインスキー劇場舞踊学校)の養成したA.パブロワT.P.カルサビナニジンスキーの演技はパリの観衆に熱狂的に迎えられた。さらにボロジンのオペラ《イーゴリ公》第2幕における男性舞踊手群の勇壮な戦士の踊りが,この公演を決定的なものとした。この成功によりディアギレフはパリの芸術社会で注目を浴び,多くの才幹がその周囲に集まったばかりでなく,バレエ・リュッスの作品に進んで協力することになった。…

【ボロジン】より

ロシア国民楽派の一人で,リストの紹介により五人組の中でも早くからヨーロッパで知られていた。民族叙事詩によるオペラ《イーゴリ公》(未完。のちリムスキー・コルサコフグラズノフにより完成。…

【ロシア国民楽派】より

…グリンカの抒情的旋律と色彩的管弦楽法,ダルゴムイシスキーの叙唱を重視するリアリズムの手法は,彼らの表現手段の基礎になった。オペラの分野ではムソルグスキーの《ボリス・ゴドゥノフ》(1869)と《ホバンシチナ》(1880),A.P.ボロジンの《イーゴリ公》(1890初演),リムスキー・コルサコフの《雪娘》(1881)や《サトコ》(1896)などがあるが,大衆の場面に重要な意味を与えた点に独自な劇作法を指摘できる。 管弦楽の分野では絵画性と風俗描写などを特徴としてあげることができるが,ボロジン(二つの交響曲と交響詩《中央アジアの草原にて》(1880)など)とバラーキレフ(《三つのロシアの歌の主題による序曲》(1858),交響詩《タマーラ》(1882)と《ルーシ》(1887)など)はロシア管弦楽の確立者の一翼をになっているし,リムスキー・コルサコフ(《スペイン奇想曲》(1887),《シェエラザード》(1888)など)の色彩豊かな管弦楽法はロシア音楽の古典になった。…

※「イーゴリ公」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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