い
[1] 〘副助〙
上代の
助詞。ただし、訓点資料では平安初期にも広く用いられ、その後は、法相、律、三論等の
宗派の仏典訓読にかたよって現われる。
体言または活用語の
連体形を受け、特示強調する。→
いは・
いし。
① 体言を受ける。主格に立つ体言を受けることが最も多いが、他の格に立つ体言を受ける場合もある。
※古事記(712)中・
歌謡「頭椎
(くぶつつ)伊(イ) 石椎
(いしつつ)伊(イ)もち 今撃たば良らし」
※
万葉(8C後)四・五四五「わが背子が跡ふみ求め追ひ行かば紀伊
(き)の関守
伊(イ)留めてむかも」
② 活用語の連体形を受ける。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)五「
菩薩の行を行ずるが、
菩提の心を退けなむと欲する
い、如意宝光耀菩薩の是の法を説くを聞く時に、皆堅固に不可思議なること得つるをもちて、上の願満足しぬ」
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六「国土を護る諸の旧の善神とい遠離して去らむ時には」
[2] 〘間助〙 上代の助詞。連体形とその被修飾体言との間に用いられて強調を表わし、または
調子を整える。
接頭語とする説もある。
※万葉(8C後)三・四八一「玉の緒の 絶えじ射(い)妹と 結びてし」
[3] 〘終助〙 (
語源は
終助詞「よ」とも、あるいは
係助詞「や」の変化した「え」とも)
① 中世以後の助詞。
文末にあって念を押す
気持を添え、あるいは
語調を整える。
(イ)
命令文に用いられたもの。
動詞の命令形・連用形に続く形の他、禁止文で用いられる。「びくびくするな
い」
(ロ) 命令文以外で用いられるもの。語調を整える働きをする。他の終助詞とともに用いられる場合(「かい」「
ぞい」「いの(う)」「いな(あ)」等)が多い。「何言ってるんだ
い」「いったいどうしたんだ
い」
※虎明本
狂言・
薩摩守(室町末‐近世初)「道しゃがあまたあるひや
ひ」
※歌舞伎・傾城浅間嶽(1698)中「はて阿呆を相手にして何をいやるぞいの」
② 呼びかけに用いる。近世語。
※歌舞伎・傾城江戸桜(1698)上「かか様いのいのと夜中時分に泣いて歩いたれば」
※
浄瑠璃・難波丸金鶏(1759)深草砂川「コレとと様
いのふ、とと様とゆすれど甲斐も
亡骸を」
[語誌]((一)について) (1)①の「古事記歌謡」の例を
接尾語とする説がある。
(2)①②③の用法について、(イ)主格を示す助詞であるとする説(山田孝雄「奈良朝文法史」他)、(ロ)すべて
間投助詞であるとするもの(
松尾捨治郎「国語法論攷」、此島正年「国語助詞の研究」他)、(ハ)副助詞とするもの(小林芳規「謂はゆる主格助詞『い』は副助詞と考ふべきである」国語第二巻二・三・四合併号)等種々の説がある。しかし、(イ)の主格助詞説は、主格以外の格に立つ体言を受ける例や、格助詞を受ける例(③)の存在によって成立しない。また、間投助詞は文節の最後、したがって他種の助詞と重ね用いられる時は必ず下に位するものであるのに、「い」助詞には「いは」「いし」のごとく、係助詞や副助詞に上接する例があるため、(ロ)の間投助詞説も成立しない。ただし、「い」に、(一)の用法とは別に間投助詞用法(二)が存することを否定するものではない。((三)について) 口調を柔らげる働きを持つものであり、主として男性によって、砕けた調子で用いられることが多い。
い
(助動詞命令形) (四段動詞の未然形に付いて) 軽い敬意をもった命令を表わす。
※漢書列伝綿景抄(1467頃)「人にかさず、こちへとってをかいと云心ぞ」
※説経節・さんせう太夫(与七郎正本)(1640頃)中「まづてらをたづねてに、しゅっけをばたのまひよ」
[語誌](1)四段動詞の未然形に付き、一、二段動詞に付く「さい」と補い合う関係にある。
(2)「ロドリゲス日本大文典」では「上げさしめ」などより敬意のやや加わった言い方で、親が子に、また家の下男下女などに対して用いると説明している。室町時代にはかなり広く使われていたものと推測されるが、江戸時代の初めには衰退し、狂言では歌謡や一部の老人のことばにのみ用いられている。→
さい
い
〘名〙 (普通、片仮名で「イ」と表わす)
[一] (書誌学で「
異本」「一本」の略) 書物を校合
(きょうごう)して異本の字句を傍注する時に用いる符号。
[二] 三等級制時代の鉄道の一等客車の記号。
[三] 日本音名の一。ハ長調音階の第六音。イタリア、フランス音名のラ、ドイツ・イギリス音名のA(アー・エー)。国際的標準音で時報にも使われる。
[四] 能楽で節あつかいの一つ。その音にニュアンスをこめてうたう時に用いる。「ヽイ」と符号がある。
い
〘接頭〙 動詞に付いて語調を整える。「い隠る」「い通ふ」「い寄る」「い渡る」など。
※書紀(720)神代下・歌謡「天離(さか)る 鄙つ女の 以(イ)渡らす迫門(せと) 石川片淵」
い
〘感動〙 発語の類か。やい。おい。
※今昔(1120頃か)二四「い、其奴(やっこ)求めて来らむ」
い ゐ
〘名〙 「
あい(藍)」の略。〔俚言集覧(1797頃)〕
い
〘接尾〙 名詞または名詞的な語に付いて、これを形容詞化する。「四角い」「黄色い」など。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「い」の意味・読み・例文・類語
い[終助・間助・副助]
[終助]文末の助動詞「た」「だ」、禁止の意の終助詞「な」、質問の意の「か」、動詞の命令形などに付く。
1 親しみを込めて質問する意を表す。「何を悩んでいるんだい」「君も行くかい」
2 軽蔑したり、反発したり、詰問したりする意を表す。「何度言ったら分かるんだい」「なんだい、君らしくもない」
3 投げやりな気持ちやあきらめの意を表す。「勝手にしろい」「どうせ負けるに決まっているんだい」
4 念を押したり、語調を強めたりする意を表す。「じゃまをするない」「とっとと寝ろい」「絶対に海に行くんだい」→いの →かい →わい
[間助]体言、活用語の連体形に付く。上接の語を特に示したり、語調を強めたりする。
「青柳の糸の細しさ春風に乱れぬ―間に見せむ児もがも」〈万・一八五一〉
[副助]名詞、名詞に準じる語に付く。上接の語を特に示したり、語調を強めたりする。
「一日だに君―しなくは堪へかたきかも」〈万・五三七〉
[補説]
は終助詞「よ」あるいは係助詞「や」の音変化という。多く男性がくだけた会話の中で用いる。
は上代語。平安時代では漢文訓読体の文中にみられるだけである。
と
をまとめて、間投助詞とする説や格助詞とする説などもある。
い[接頭]
[接頭]動詞に付いて、意味を強めたり、語調を整えたりする。「い漕ぐ」「い隠る」「い行く」
い[五十音]
1 五十音図ア行の第2音。五母音の一。前舌の閉母音。[i]
2 平仮名「い」は「以」の草体から。片仮名「イ」は「伊」の偏。
3 いろは歌の第1文字。仮名がしら。
[補説]五十音図ヤ行の第2音としても重出。
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