エクィテス(読み)えくぃてす(英語表記)equites ラテン語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エクィテス」の意味・わかりやすい解説

エクィテス
えくぃてす
equites ラテン語

古代ローマの騎兵騎士身分。エクエスequesの複数。共和政初期には、1800人の騎兵が国家から馬匹購入、維持費の支給を受け(官給馬騎兵)、特別の服装をし、ケントゥリアcenturia(100を意味し、軍団の最小単位であるが、ここでは民会の投票単位)民会で騎兵18ケントゥリアで投票するなど特権的扱いを受けた。紀元前400年ごろには、彼らと並んで私有馬騎兵が現れたが、前3世紀にはローマ軍団での騎兵の重要性が低下し、前120年代には元老院議員が騎兵18ケントゥリアで投票しなくなったことに加えて、ガイウス・グラックスが騎士にアシア州の徴税請負権を与え、また属州総督の不法搾取を裁く法廷の裁判官の地位を彼らに明け渡したことなどから、エクィテスは騎士「身分」となった。彼らはいまや、ローマ市のみならずイタリア諸都市出身の、自由生まれの土地所有者から構成され、政治に進出せず、商業や国家事業請負などの経済活動に携わる有産支配層となり、やがて初代皇帝アウグストゥスの体制を支えた。アウグストゥスは儀式用に、元老院議員の息子からなる騎兵隊を新編成し、また法廷の裁判官としての騎士の再編成に努めた。一方、帝政期には、属州在住者を含むローマ市民権保持者で40万セステルティウスSestertius(銀貨の単位)以上の価値の土地を所有する有産層という広義の騎士身分の大群が存在し、彼らのなかから帝国官職につく者が現れ、その子供の世代には元老院議員となる者も少なくなかった。3世紀以後は重要な帝国官職は元老院議員ではなく、騎士の手に握られた。

[弓削 達]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エクィテス」の意味・わかりやすい解説

エクイテス
equites

古代ローマの騎士 (階級) 。元来騎馬で軍務に服する者を意味し,セルウィウス・ツリウス制ではパトリキ (貴族) ,プレプス (平民) の 18ケンツリア (百人組) ,計 1800人が定められた。しかし次第に騎兵の戦術的価値が減じ,騎士はむしろ財産区分による階級をさすようになり,第2次ポエニ戦争後,軍事的職能が失われてくると,徴税請負人,金融業者,大商人などが属する階級の総称となっていく。その傾向は前 218年クラウディウス法が元老院議員を商業金融から締出して,騎士と区別したことによって促進され,G.グラックス (→グラックス兄弟 ) が 40万セステルチウスの財産資格を有する階級として,騎士身分を創設したことによって完成した。彼らは高官につかず,徴税請負,公共事業,貿易に従事した。また属州総督の不当取得法廷に介入して,元老院議員階級と抗争した。帝政期以後は帝権の支えとなり,近衛長官,エジプト総督は騎士の最高官職であった。4世紀以後政治的な力を失った。

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