マダガスカル島において化石でのみ知られている絶滅した巨大な鳥。隆鳥(りゅうちょう)あるいは象鳥(ぞうちょう)ともよばれる。マダガスカル島の海岸で、砂の中から長さが33センチメートル、径が24センチメートルもある巨大な卵がみつかり、容積はニワトリの卵の148倍もあった。発掘された骨格からは、その鳥の背丈は3メートルもあったと推定されている。先祖型にあたるものの化石は、北アフリカの始新世や漸新世の地層からみつかっており、この鳥の先祖たちは4000万年前ころにはアフリカ大陸に広く分布して飛び回っていた。大陸から孤立しているマダガスカル島に住み着くようになってからは、天敵がいなくて安全なために飛ぶ必要がなくなり、地上で歩行して生活するようになったとされている。人類がこの島に住み着くようになって、狩りつくされて絶滅してしまった。ニュージーランドの、同じように大形で飛ぶことができなかったために絶滅した鳥で、恐鳥(きょうちょう)とよばれているモアなどとともに走鳥類という鳥類のグループに分類されている。同じ走鳥類でも、ダチョウ、レア、エミュー、ヒクイドリは、早く走って逃げることができるので現在も生き残っているが、中足骨(ちゅうそっこつ)が短くて太いエピオルニスやモアは、早く走ることができなかったために絶滅してしまった。『千夜一夜物語』のシンドバッドの話にある巨大な怪鳥ロクrokhは、このエピオルニスのこととされている。
[亀井節夫]
ダチョウ目エピオルニス科Aepyornithidaeに属する鳥の総称。絶滅した大型の走鳥類で,マダガスカルの最新世および現世の地層から,化石ないし半化石の骨と卵殻が見つかっている。卵殻の古さや古い文献から,10世紀ころまで,あるいは17世紀の初めころまで,エピオルニスが生き残っていたという説があるが,真偽のほどはわからない。形態はダチョウよりエミューかモアに似ていたと思われ,頭は小さく,足は太く,あしゆびは通常4本(種によって3本)あった。骨格の大きさから,少なくとも6~7種が区別されている。そのうちの最大種エピオルニスマクシムスAepyornis maximusは頭高が3.3m,体重が450kg(推定)もあり,現生のダチョウ(頭高2.4m,体重150kg)よりはるかに大きかった。また,長径33cm,短径24cm,体積9lの卵が発見されているが,これはダチョウ卵の7個分,鶏卵の180個分の大きさに相当し,動物の卵として最大である。《アラビアン・ナイト》に登場するロック鳥roc(インド洋の島にすんでいて,つめで象をさらっていくという巨大な怪鳥)の伝説は,おそらくエピオルニスがもとになったのではないかといわれている。エピオルニスにいちばん近い鳥の化石は北アフリカの第三紀から数属出ているが,それらがエピオルニスの真の祖先であったかどうかはまだ明らかでない。
執筆者:森岡 弘之
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