地質時代の旧区分の一つ。中生代最後の白亜紀と新生代最後の第四紀の間の、新生代の大部分を占める時期で、およそ6600万年前から258万年前までの時代をいう。「第三紀」は、以前は公式の用語であったが、2008年、国際地質科学連合(IUGS)により「新第三紀」と「第四紀」の境界について新しい定義が発表(2009年に批准)された際に年代層序の用語も見直され、古第三紀(暁新世(ぎょうしんせい)、始新世、漸新世)、新第三紀(中新世、鮮新世)の総称として使われる非公式用語となった。新第三紀に次の更新世を含める意見もあるが、一般には更新世は第四紀として区別している。
第三紀に形成された地層を第三系というが、一般には未固結な岩石からなる。第三系の層序区分は、古典的には1832年にライエルによる地層中に含まれる軟体動物化石のうち現生種の含まれる割合によってなされた。1970年代から、層序区分は、浮遊性有孔虫、珪藻(けいそう)、放散虫などの海生の浮遊性微化石による生層序や、古地磁気層序および放射性同位体による年代層序などを組み合わせて行われている。
ユーラシア大陸では、古生代以後存在したテチス海の縮小によって、古第三紀のおもな造山期や新第三紀の大隆起でヒマラヤ―アルプス山脈が形成された。それと関連して、南アメリカおよび南極大陸とともに一つのゴンドワナ大陸をつくっていたアフリカ、インドおよびオーストラリアが、ゴンドワナ大陸の分裂によって北上し、とくにインドはユーラシア大陸と衝突してヒマラヤ山脈の隆起をもたらし、アフリカはアルプス山脈の隆起をもたらした(プレートテクトニクス)。アメリカ大陸では、北アメリカのコルディエラから南アメリカのアンデスに続く山脈が古第三紀に主たる造山期を経て、新第三紀の激しい隆起によって形成された。気候は中新世中期以降、温暖から寒冷へと移り変わった。始新世および中新世初期の海進は著しく、漸新世および鮮新世は海退期で特徴づけられる。
第三紀が中生代ともっとも異なる点は、アンモナイトや恐竜などの中生代型生物の中生代末の絶滅から現代型の生物へと移り変わったことである。また第三紀は二枚貝、巻き貝、ウニ類、有孔虫類、甲殻類の分化や多様化が進んだことによっても特徴づけられる。新生代は哺乳(ほにゅう)類の時代とよばれるように、哺乳類の発展が特徴的である。最初の哺乳類はすでに中生代の三畳紀後期に出現した。以来哺乳類は約1億年以上の間、大形の恐竜と共存してきた。しかし、この哺乳類はずっと小形で、恐竜のように陸上の支配者にはなれなかった。第三紀に入ってからの哺乳類の繁栄は、中生代末の恐竜の集団的絶滅や陸上の環境要因の変化や花を咲かせる被子植物の発展などと深く関係する。恐竜の占めていた生活空間は哺乳類がかわって占有するようになった。このような恐竜や他の中生代型の生物の白亜紀末の集団的絶滅を説明する多くの説が提案されてきたが、その一つに、隕石衝突説(いんせきしょうとつせつ)がある。隕石の地球への衝突に伴って、火山活動の活発化や気候の寒冷化や海水準の低下など各種の環境変動が知られるようになった。隕石衝突の証拠は地球の表層にはない重い元素イリジウムと衝撃石英を含む粘土鉱物層の存在にあるという。前者は、地球外から隕石によってもたらされたといわれ、また後者は、並行で平滑な幾対もの割れ目の存在で隕石の衝突によって形成されたと考えられている。それらの存在の前後で化石生物相に大きな変化(大量絶滅)があったことは確かであるが、同じ原因が白亜紀後半の約3000万年間に、化石生物相の生物の大規模な分類群の減少をもたらしたのではない。第三紀には、始新世後期(3650万年前)や中新世中期(1500万年前)にも生物の大規模な絶滅が知られているが、それらも隕石衝突とは異なる原因の絶滅と考えられる。第三紀の植物の特徴は、中生代白亜紀以降発展した被子植物の全盛である。古第三紀と新第三紀の植物は大差ないが、後者は気候帯の分化や地域化が著しい。それらは中生代白亜紀よりも現代的な様相をもつ。
[山口寿之 2015年8月19日]
地質時代の区分の一つ。新生代の大部分の期間を占め,約6500万年前から200万年前までの時代をいう。第三紀という名称は,18世紀に北イタリアの地層を,古い方から初源層,第二層,第三層と区分したもののなごりで,初源層は変成岩類からなる地層,第二層は主として中生界に相当する。第三層はそれらをおおう軟らかい泥岩や砂岩の地層で,この時代が第三紀である。第三紀は,ふつう6500万年前から2500万年前までの古第三紀と,2500万年前から200万年前までの新第三紀の2亜紀に区分される。また,古第三紀は古い方から暁新世,始新世,漸新世に,新第三紀は中新世,鮮新世に細分されている。
第三紀は,陸上では哺乳類の発展で,海中ではさまざまな現代型の生物の出現と発展で特徴づけられる。中生代の三畳紀に出現した哺乳類は,中生代の間は食虫類その他の原始的で小型なものが生息していただけであったが,第三紀にはいるとともに急速に分化して,草食の有蹄類や食肉類,霊長類などが現れ,著しく発展する。また海中でもクジラ類やカイギュウ類とともに,中生代に多かったアンモナイトやイノケラムス,サンカクガイなどが絶滅して,現在みられるものに近縁な貝類や魚類が現れる。植物では,中生代末に出現して急速に広がった顕花植物が全盛となる。このような生物界に,古第三紀末から新第三紀にかけてはげしい変化がおこった。哺乳類では長鼻類,カモシカ,ウシなどの偶蹄類,ウマで代表される奇蹄類などが,キク科,イネ科の植物を主体とする草原の発達につれて急速に大型化して発展し,それとともにこれらを捕食する食肉類にも大型のネコ科などが現れる。海中では,アサリ,ハマグリ,ホタテガイなど今ふつうにみられる貝類の多くのものが新第三紀以後に発見される。
古第三紀には全体に温和な気候が続く。ことに始新世には高緯度まで温帯林が広がり,北海道中部でもシュロ,シダなどの亜熱帯植物が発見されるなど,世界的な温暖期であった。しかし始新世の末期には,南極大陸に氷床が形成されはじめたことがわかっている。この後地球は寒冷化に向かうが,中新世の前期には再び著しい温暖期がある。このときには,日本列島でも陸上では北海道南部まで亜熱帯となり,海中では黒潮の影響が北海道中部にまで及んでいる。この後はまた寒冷化傾向が強まって,第四紀の中ごろ以降は北半球の大陸にも巨大な氷床が出現して,氷河時代に至る。
第三紀には地殻変動がはげしい。特に新第三紀以後は世界各地に大山脈が出現した。南半球のゴンドワナ大陸の一部が大陸移動によって北上してユーラシア大陸にぶつかったため,新第三紀の初めごろからアルプスとヒマラヤを結ぶ地帯で隆起が始まり,現在に至っている。北アメリカのコルディレラ山系やアンデス山系も同様で,ことにシエラ・ネバダ山脈やアンデス山脈の隆起は新第三紀以後の変動である。古第三紀の日本列島は,大半が陸上で浸食を受けていたと考えられ,北九州,常磐,石狩,釧路などの炭田地帯に陸成,浅海成の地層群が分布するほかは,西南日本の太平洋岸にそって外洋性の地層群が分布するのみである。一方,新第三紀は大海進期で,日本海沿岸や東北日本には厚い海成層が堆積した。現在の日本列島にみられるさまざまな地学現象は,多くは新第三紀に始まり現在まで続いている地殻変動によるものである。
→地質時代
執筆者:鎮西 清高
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地質年代区分における新生代といわれる名称は,第三紀と第四紀を含む。第三紀はさらに暁新世(ぎょうしんせい),始新世,漸新世,中新世,鮮新世に分けられる。第三紀を通じて気候の寒冷化と,熱帯・亜熱帯地域の縮小が起こり,哺乳類動物の適応放散が起こった。中新世中期から後期には草原が出現,拡大し,馬科,ラクダ科,象科,ウシ科などの有蹄(ゆうてい)類が多様化した。霊長類では,真猿類が始新世後期には出現し,中新世には類人猿が,鮮新世以後にはオナガザル類が繁栄した。人類の系統は中新世後期に出現し,鮮新世にはアウストラロピテクスが出現し,そのなかからホモ属が誕生した。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
新生代の大半を占める6500万~170万年前の時代。2300万年前を境に古第三紀と新第三紀に細分される。地球全体が温暖であった中生代に対して第三紀以降は南極大陸での氷床の形成が特徴的。日本列島はこの時代を通じてユーラシア大陸から分離した。
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