印刷版から直接紙に印刷せず、一度ゴム布(ゴムブランケットという)に印刷してから紙に印刷する方法。版は一般に平版(へいはん)を用いる。したがって印刷機の主要機能は、版に湿し水を与えること、インキを与えること、インキを版からゴムブランケットに移すこと、ブランケットから紙にインキを移すことなどである。一般に品質の高い印刷物を作製するときは枚葉印刷機(A判、B判など一定のサイズに断裁された紙=枚葉紙に印刷する機械)を用い、スピードを必要とするときは巻取紙を使うオフセット輪転機を利用する。
1904年、アメリカのルーベルIra Washington Rubel(1846―1908)は、平版印刷機にゴム布を巻き付けた円筒を追加しオフセット印刷すると、きれいな印刷物を得ることを偶然発見、特許をとった。ゴム布を中間物として印刷するから、粗面の紙や金属板(ブリキ板)にもよく印刷できること、大判の紙にもカラー印刷が経済的にできることなどの理由から、広く利用されるようになった。とくに第二次世界大戦後、カラー印刷の需要が増えて以来、ほかの方法、つまり原色版は製版代が高く印刷速度が遅いこと、グラビアは製版工程が複雑で印刷設備が大掛りであることなどの理由があって、オフセット印刷が大いに利用されるようになった。カラーインキも進歩し、鮮やかな4色のカラー印刷が容易にできるようになり、色刷りといえばオフセットというほど盛んになった。また、文字印刷の主流であった活版は、鉛活字を使うこと、版の重量が重いこと、印刷速度が遅いことなどの欠点があったので、1960年ごろから写真植字や電算植字が多用され、その後はDTP(デスクトップ・パブリッシング)が使われるようになった。コンピュータを使うDTPデータも平版としてオフセット印刷すると効果がよいので、パンフレット、カタログ、文庫本や書籍などもオフセット印刷が主流である。一方、簡易な印刷は謄写版で印刷し軽印刷ともよばれたが、いまではオフセットを利用し、かつて活版が主流であった新聞も1980年代以降大部分オフセット化されている。
[山本隆太郎・中村 幹]
『日立印刷編著『オフセット印刷ガイドブック よりよい印刷物を作るために』(1983・印刷学会出版部)』▽『三菱重工業三原製作所編著『オフセット印刷機械の仕組みと正しい運転』(1992・日本印刷新聞社)』▽『日本印刷技術協会編・刊『オフセット印刷技術作業基本マニュアル』(1994)』▽『日本印刷技術協会編・刊『オフセット印刷技術――作業手順と知識』増補改訂版(2009)』
版面から直接に紙に印刷する普通の印刷法に対し,版面からゴムブランケットと呼ばれるゴム布にいったん転写し,それを紙面に印刷する間接的な印刷方法をいう。凸版形式の版を用いるものもあるが,現代の平版印刷がほとんどオフセット印刷になっていることから,単にオフセット印刷といえば,平版からインキをゴムブランケットに転写し,それから紙面に印刷する方法を指す(図参照)。オフセットの場合,一度転写されたものを紙に移すため,版模様はでき上がる印刷物と同じ向きでよい。このように,版面から一度ゴム布面に転写して,それから最終の目的物に印刷する方法そのものは1875年ころからブリキ印刷に利用されていたが,オフセット印刷はこれとは別に,1904年アメリカのラブルIra Washington Rubel(1846-1908)が偶然のできごとから考案したものである。あるとき平版印刷機を操作していた工員があやまって紙をはさまずに機械をまわしたため,版のインキは圧胴に張ってあったゴム布に印刷され,それがつづいてはさんだ紙の裏にそっくり移って印刷されたのである。直接印刷した表面の印刷よりも裏面の印刷のほうが精巧で,しかも柔らかみがあって細部までよく刷れているのに気づいたラブルは,いろいろ考案した末オフセット印刷機を完成,いつもゴム布から紙に印刷する間接印刷法を開発した。
オフセット印刷は,細かい画線までよく刷れていること,粗面紙でも細かい印刷ができること,殖版(同じ版をいくつも作ること)が容易であること,カラー印刷に向いていること,オフセット印刷機のスピードが速いこと,版模様が実際の印刷物と同じ向きで見やすいこと,版の構造が簡単で製版処理が容易で迅速であることなど,多くの利点がある。ポスター,カレンダー,カタログ,ちらし,雑誌の表紙,口絵,絵本,包装紙,地図,ラベルの印刷に広く用いられるほか,写真植字から平版を作ることが工程上有利であるので文字印刷にも利用される傾向が強く,一般書籍にまで拡張されるようになった。また製版と印刷のスピード化により,ファクシミリと組み合わせた新聞の地方印刷,あるいは新聞のカラー印刷,本文印刷にも利用されている。
→印刷 →平版
執筆者:山本 隆太郎
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