改訂新版 世界大百科事典 「ガス化学」の意味・わかりやすい解説
ガス化学 (ガスかがく)
gas chemistry
天然ガスやコークス炉ガスなどを原料として各種の化学製品を生産する化学技術の体系をいう。コークス炉ガスの主成分は,メタンCH4,一酸化炭素CO,水素H2などである。また天然ガスの主成分はメタンであるが,これを水蒸気と反応させ,一酸化炭素と水素からなる合成ガスを得ることができる。このようなわけで,天然ガスまたはコークス炉ガスのいずれを原料に用いても,生産される化学製品とその化学反応はよく似たものであり,おおむね図に示すとおりである。
メタンからの合成ガスの製造法としては水蒸気改質法(1)と部分酸化法(2)がある。
CH4+H2O─→CO+3H2 …… (1)
CH4+1/2O2─→CO+2H2 …… (2)
反応(1)は800~850℃,20~40気圧でニッケル触媒を用いて行われる。吸熱反応であるから,外部から反応熱を供給する必要がある。反応(2)は発熱反応であり,触媒を用いず,1300~1500℃,20~100気圧で行われる。このようにして得られた合成ガスを水蒸気と反応させると(3)式によって一酸化炭素が二酸化炭素と水素になり,二酸化炭素を除去すれば水素が得られる。
CO+H2O─→CO2+H2 …… (3)
水素からはアンモニアが合成され,尿素や硫安などの肥料,ヒドラジン,有機ニトリル化合物などが生産される。
合成ガスのおもな用途はメタノール合成である。この合成法には高圧法と低圧法がある。高圧法は,クロム酸銅またはクロム酸亜鉛を触媒として,400℃,300~400気圧で行われる。低圧法は,銅を主触媒とし,250~300℃,50~100気圧で行われるが,銅触媒の活性が失われるのを防ぐため,原料ガスを徹底的に脱硫する必要がある。
メタノールからは,ホルムアルデヒド,メチルエステル類,メチルアミン類,酢酸などが生産されるが,これらの在来の製品のほかに次のような新しい用途が開かれようとしている。これは,石油の値上がりによって天然ガスの価格が割安になり,エネルギー源あるいは化学原料として見直されるようになった結果であり,たとえば,メタノールをガソリンに10~20%混合してガソホールとし,自動車用燃料として用いる。またメタノールを芳香族成分に富むガソリンに変換するモービル法が発明され,実用化計画が進められている。
CH3OH─→ガソリン+H2O
この方法は,H-ZSM-5という特別なゼオライト(沸石)を触媒として,450℃,加圧下に行われる。さらに,メタノールをイソブチレンと反応させ,メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)をつくり,高オクタン価ガソリン製造用混合材源とするのである。
この反応は,常温,液相で酸触媒を用いて行われる。なおメタノールを発酵原料とし,微生物タンパク(SCP)を生産する計画も検討されている。これらの新たな需要が大きく開かれれば,メタノール工業は面目を一新し,重要なエネルギー・化学産業となろう。
一方,天然ガスの在来型の利用は,シアン化水素はメタンとアンモニアおよび空気を反応させてつくられる。すなわち,
2CH4+2NH3+3O2─→2HCN+6H2O
この方法はアンドルッソー法と呼ばれる。
メタンの塩素化反応生成物には,塩化メチルCH3Cl,塩化メチレンCH2Cl2,クロロホルムCHCl3,四塩化炭素CCl4などがあり,溶剤,エーロゾル噴霧剤,合成中間体などとして用いられる。
メタンと硫黄を高温で反応させると二硫化炭素が得られるが,この反応は次の2段階からなる。
第1工程で生じた硫化水素は,第2工程のクラウス法で硫黄として回収され,第1工程へリサイクルされる。
メタンからのアセチレン製造は1000℃以上の高温で行われるが,その詳細については〈アセチレン〉の項を参照のこと。
またメタン,合成ガス,メタノールなどの炭素数1個の分子を原料として,種々の有機化合物を合成する新しい化学反応とその技術の体系はC1(シーワン)化学と呼ばれ,いわゆる石油危機を契機として盛んに研究開発が行われている。
→C1化学
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報