グリーンケミストリー(読み)ぐりーんけみすとりー(英語表記)green chemistry

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グリーンケミストリー」の意味・わかりやすい解説

グリーンケミストリー
ぐりーんけみすとりー
green chemistry

環境にやさしい化学をこのようによんでいる。これまでの化学技術、化学産業では効率と低コスト化が重視されてきたが、これに対し有害物質は使わない、また出さない、省資源省エネルギー型の生産方式とするなど環境に与える影響を少なくするような化学技術、製品の開発などが重んじられる。アメリカの第42代大統領クリントンが1996年に始めた大統領表彰President Green Chemistry Challenge Awardおよび国際会議International Green Chemistry and Engineering Conferenceはとくによく知られている。グリーンケミストリーが取り上げているテーマはきわめて広汎(こうはん)なものであるが、触媒、バイオ触媒、溶剤超臨界流体、代替溶剤、バイオ合成、安定化学品など多岐にわたっている。日本およびアジアでも多くグリーンケミストリーとよんでいるが、ヨーロッパ諸国ではやや過激な環境保護団体を連想させるということで、OECD(経済協力開発機構)の主唱するサステイナブルケミストリーsustainable chemistryがある。これはグリーンケミストリーを国際的なものとして推進していこうとするものである。

 日本では2000年(平成12)3月グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク(GSCN=Green & Sustainable Chemistry Network)という組織が設立され、化学製品製造から廃棄に至るまでの安全性向上、省資源、省エネルギー、環境保全のための化学技術の開発を目的として活動している。

[中原勝儼]

『ポール・T・アナスタス、ジョン・C・ワーナー著、日本化学会・化学技術戦略推進機構訳編『グリーンケミストリー』(1999・丸善)』『物質工学工業技術研究所編集グループ編『安全な物質・優しい材料――グリーンケミストリーをめざす物質工学』(1999・工業調査会)』『御園生誠・村橋俊一編『グリーンケミストリー――持続的社会のための化学』(2001・講談社)』『吉村忠与志・西宮辰明・本間善夫・村林真行著『グリーン・ケミストリー――ゼロ・エミッションの化学をめざして』(2001・三共出版)』『宮本純之監訳、GSCネットワーク訳『グリーンケミストリー――環境にやさしい21世紀の化学を求めて』(2001・化学同人)』『柘植秀樹・荻野和子・竹内茂弥編『環境と化学――グリーンケミストリー入門』(2002・東京化学同人)』『読売新聞科学部著『地球と生きる「緑の化学――グリーンケミストリー」』(中公新書ラクレ)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グリーンケミストリー」の意味・わかりやすい解説

グリーンケミストリー
green chemistry

化学物質組成や製造法,使用法のほか,原料も含めて環境に及ぼす影響を考慮することで,環境汚染の防止または軽減に努める化学的なアプローチのこと。グリーンサステナブルケミストリー green sustainable chemistry; GSCとも呼ばれる。1990年代,アメリカ合衆国環境保護局がこの概念を提唱したのが始まりとされる。1998年にはアメリカの化学者ジョン・ワーナーが課題を明確にするため,以下のグリーンケミストリー12ヵ条を提唱した。(1) 廃棄物はできるかぎり出さない。(2) 原料をむだにしない合成方法を選び,アトムエコノミー(原子利用率)を高める。(3) 害の少ない反応物や生成物にする。(4) 機能が同じならば,より毒性の少ない物質をつくる。(5) なるべく溶媒や補助物質の使用量を減らし,使う場合も毒性の少ない物質を選ぶ。(6) 省エネルギーを心がける。(7) 原料は再生可能な資源を使用する。(8) 製造途中の修飾反応はできるだけ避ける。(9) より少ない原料で化学反応を引き起こせる触媒反応を活用する。(10) 使用後に環境中で分解しやすい製品にする。(11) 有害物質の生成を制御するために,リアルタイムで計測を行なうプロセス計測を導入する。(12) 爆発や火災などの化学事故につながりにくい物質を使う。これらのうち,アメリカの化学者バリー・トロストが 1973年に提案した (2)のアトムエコノミーがグリーンケミストリーの中心的な概念になった。アトムエコノミーとは,反応に関係する物質がどれだけ生成物に組み込まれたのかを評価する指標で,アトムエコノミーを高めるためには,原料をよりむだにしない合成方法が求められる。従来,化学物質の製造においては,同じ原料からより多くの最終生成物をつくる「収率」が評価されてきたが,収率だけでは生成する主産物の量しか考慮されない。対して,アトムエコノミーを高めることは,廃棄する副産物の量を少なくすることにつながり,結果として環境への負荷を小さくすることができる。

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