イギリスの小説家,劇作家。ハロー校,オックスフォード大学に学び,1890年弁護士の資格を取った。世界漫遊の後,97年ころからジョン・シンジョンの筆名で小説を発表していたが,本名で書いた《パリサイ人の島》(1904)でその社会批評的な作風を明らかにし,物欲にとらわれた新興資本家を描いた《財産の人》(1906)で作家としての地位を確立した。後者は後に三部作《フォーサイト家物語》(1922)の第1部となった。この成功の余勢をかって,3部からなる続編《近代喜劇》(1929)を完成,この両者を合わせたものが《フォーサイト家の記録》である。これにはさらにその外伝ともいうべき短編集と三部作が書き加えられた。このほか,地主階級を批判した《田舎邸》(1907),彫刻家の恋愛を描いた《暗い花》(1913)などの小説もある。
代表作《フォーサイト家物語》にはビクトリア朝末期から第1次大戦を経て1926年のゼネストに至る世相が巧みに描かれており,社会史的資料としても興味深い。また劇作家としてもすぐれ,処女作《銀の箱》(1906)のほか,ストライキの裏面を暴露した《闘争》(1909),監獄制度の改善を促すことになったといわれる《正義》(1910)などの社会的関心の強い作品を数多く発表している。これらの全作品を一貫して流れる基調は自由主義的改良主義であり,それが一時知識階級の反感を買ったが,第2次大戦後には《フォーサイト家物語》がテレビ上映され好評を博した。1921年ロンドン・ペンクラブ会長となり,32年ノーベル文学賞を受賞した。
執筆者:鈴木 建三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イギリスの小説家、劇作家。富裕な弁護士の子としてロンドン郊外に生まれ、ハロー校からオックスフォード大学に進み、弁護士の資格をとるが、転じて文筆生活に入る。小説『資産家』(1906)で注目を浴び、その連作『窮地』(1920)、『貸家』(1921)を発表、『フォーサイト家物語』を書き上げる。この続編として、『白猿』(1924)、『銀の匙(さじ)』(1926)、『白鳥の歌』(1928)よりなる『近代喜劇』を完成。これらに、長編三部作『終章』(1934、没後刊)を加え、『フォーサイト家年代記』と総称される。
これは、19世紀後半から20世紀前半のイギリス社会を背景に、典型的ブルジョア階級の一家、フォーサイト家の人々を中心とする大河小説で、作者の意図は、新興ブルジョア階級の精神の批判にあったが、その態度はかならずしも一貫してはいない。バージニア・ウルフによって、ベネット、ウェルズらとともに「物質主義者」のレッテルを貼(は)られ批判を浴びたが、彼の作品は正統的リアリズムの手法で、前後50年間にわたるイギリス社会変貌(へんぼう)の過程をみごとに定着させている。
劇作では『銀の箱』(1906)、『争議』(1909)、『公正』(1910)など、いわゆる「問題劇」の秀作が多い。1932年ノーベル文学賞受賞。
[小松原茂雄]
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…イギリスの作家J.ゴールズワージーのフォーサイト家を扱った小説の総称。《フォーサイト・サガ》(1922),《近代喜劇》(1929),《フォーサイト家の変貌》(1930)の3部からなる。…
※「ゴールズワージー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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