インドの世界観で,すべての衆生が,死ねばその生(しよう)の業(ごう)に従って輪廻転生(りんねてんしよう)するという6種の世界。業によって趣き住む所なのでこれを六趣(ろくしゆ)ともいうが,六道は悪趣ともいって苦の世界である。すなわち天道,人(にん)(間)道,修羅道,畜生道,餓鬼道,地獄道をいい,このうちとくに畜生道,餓鬼道,地獄道を三悪趣(さんなくしゆ)(三悪道)という。天道は天人の世界で人間の世界の人道より楽多く苦の少ない世界であるが,天人にも死苦があり,死に先立って五衰をあらわす。すなわち衣裳垢膩,頭上花萎,身体臭穢,腋下汗出,不楽本座の五相で死に至る。人間の人道(人間道)は生病老死の四苦八苦の世界であり,修羅道は鬼類の世界でつねに闘戦をくりかえしてやむことがない。畜生道は虫から蛇や竜,鳥獣にいたるまで弱肉強食をくりかえし,竜も畜類であることを説く《竜畜経》があり,牛馬も人間に使役される苦があるという。餓鬼道と地獄道の苦に至っては,その様相が平安時代の絵巻物である《餓鬼草紙》《地獄草紙》に活写されている。《正法念処経》には餓鬼に三十六鬼,地獄に八大地獄十六別所合わせて百三十六地獄があることを説いており,源信の《往生要集》もこれを受けて六道の苦を説いた。平安時代には多数の六道絵が描かれたことが文献に見えているが,《餓鬼草紙》《地獄草紙》はその一部が残ったのだろうという説もある。六道の苦を脱するのが仏教の解脱(げだつ)で,その上に声聞,縁覚,菩薩,仏の四聖を加えて十界とする説も広くおこなわれた。したがって六道絵は十界図の一部であることが多い。
六道絵と十界図は仏教の因果を説く唱導にもちいられたが,六道も十界も一心より出たものだという唯心説を説く唱導もり,一心十界図が描かれた。中央に大きく〈心〉の字を置き,そのまわりの円を10区に画して六道と四聖を描いたものである。六道絵でも十界図でももっとも大きなスペースを取るのは地獄図であり,地獄変相図の観を呈する。しかし,日本では死後の世界を六道とするところから,墓地を六道原というところがあり,京都東山の鳥辺野葬場の入口も六道の辻という。六道原の入口や六道の辻には地蔵菩薩または六地蔵がまつられているが,これは地蔵を六道能化(のうけ)といって,六道全部の救済者とするからである。また死者の頭陀袋(ずだぶくろ)に入れる六文銭を六道銭といい三途(さんず)の川の渡賃などというのも,すべて死後の世界を六道とするからであり,インドの六道輪廻説や十界説と異なる六道の理解があったことがわかる。
執筆者:五来 重
平曲の曲名。《六道之沙汰》とも称する。伝授物。《灌頂巻(かんぢようのまき)》5曲の中。平家滅亡後大原の庵室にこもった建礼門院を,後白河法皇が訪れた。女院は,仏門に入り一族の成仏を祈願している現在だが,わが子安徳天皇の面影が忘れられないと嘆いた(〈中音(ちゆうおん)・初重(しよじゆう)〉)。法皇は,今の仏道修行が後生(ごしよう)につながるのだからと慰めた。女院が言うには,自分は太政大臣平清盛の娘に生まれて中宮となり,栄花を極めて天上界(天道)さながらの日を送った(〈折リ声・中音等〉)。だが一門が源氏に追われて散り散りに西海をさまようことになり,人間界(人道)の四苦八苦を味わった。波の上の生活は,水も食物も不自由な餓鬼道の苦であった(〈三重〉)。修羅道のような戦闘が続いて壇ノ浦の最期がきた。二位の尼に抱かれた安徳帝は,東の伊勢神宮を拝み,西の極楽に向かい念仏を唱えて海に沈んだが,そのとき人々の泣き叫ぶ声は,地獄道の叫喚(きようかん)かと思われた(〈中音・初重〉)。自分は源氏の武士に捕らえられ,護送される途中で安徳帝が竜宮にいる夢を見たが,ここも竜畜経に説く苦の世界(畜生道を暗示)であろう。自分はこうしてわずかの間に六道の苦しみを経験したのだと物語ったので,人々は涙を流した。平曲《大原御幸(おはらごこう)》と共に能《大原御幸》の原拠。
執筆者:横道 万里雄
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仏教の輪廻(りんね)思想において、衆生(しゅじょう)がその業(ごう)に従って死後に赴くべき六つの世界。地獄道、餓鬼(がき)道、畜生(ちくしょう)道、阿修羅(あしゅら)道、人間(にんげん)道、天道をいい、六趣(ろくしゅ)ともいう。人・天の二道は善趣、他の四道は悪趣とされる。仏典では修羅(阿修羅(あしゅら))をあげず五道とするのが一般的であるが、日本では六道輪廻の語が定着している。六観音(かんのん)、六地蔵(じぞう)は、観音菩薩(ぼさつ)や地蔵菩薩が六道のそれぞれに姿を現し、迷える衆生を済度(さいど)するという思想を象徴したものである。また、死者を葬るとき冥土(めいど)での入用として棺内に入れる六文の銭を六道銭という。
[松田愼也]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…上・下帯の間を縦に4区に分けるのが縦帯で,そのうち2本は竜頭の長軸に合わせる。鋳物師の間ではこれを〈六道(ろくどう)〉と呼ぶ。上帯の下にある横長の4区画を乳の間(にゆうのま∥ちのま),または乳の町という。…
…三界のうち最下の層は欲界で,欲望にとらわれた生物のすむ領域である。これは地獄(の生物),餓鬼,畜生,人間,天(神のこと)の5種の生物の居住空間(五趣)からなる(五趣に阿修羅を加えたものを六道(ろくどう)という)。欲界の上に色界がある。…
…精神的な生き方を,迷いより悟りへの10層に分け,最下の地獄より餓鬼,畜生,修羅,人間,天上,声聞,縁覚,菩薩,仏へと上昇するもの。はじめの六つが凡夫,後の四つが聖者の世界で,凡夫はそれらの六つを輪廻転生するから,六道,または六趣とよぶ。また最後の仏界以外は,なお迷いを免れないから,十界にそれぞれ十界の権実があるとして,十界互具を説くことがあり,天台の一念三千説の根拠となる。…
…シオリクドキ・折リ声・初重(しよじゆう)・中音などの曲節を随所に配した叙景中心の美しい曲である。話の筋は次の《六道(ろくどう)》に続く。そこでは,法皇に対面した女院が,栄華の頂点から流浪の境界に転落した悲しい思い出を物語る。…
※「六道」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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