高さの約30倍の幅に盛り土した堤防の通称。たとえば高さ10メートルの堤防であれば幅はおよそ300メートルとし、緩やかな勾配(こうばい)のついた堤防の上に街や住宅を再建設して、地域ごと堤防にしてしまう構想である。正式名称は「高規格堤防」。川に面した部分だけを高くする通常の堤防と異なり、堤防が街や住宅地に向けて長くなだらかな傾斜となっており、大規模な洪水や川の氾濫(はんらん)などで水位が堤防の高さを越えても、水の流れが緩やかで住宅などが押し流される危険が少ないとされている。しかし、膨大な予算と100年単位の長期工事が必要で、むだな公共工事の典型例として批判されることが多い。また、東京都江戸川区の住民が事業計画の取消しを求めた訴訟を起こすなど、反対運動の対象にもなっている。
建設省(現、国土交通省)が1987年度(昭和62)から事業を開始。人口が密集したゼロメートル地帯で堤防決壊時に大きな被害が出ると予想される首都圏や関西の6河川(利根(とね)川、江戸川、荒川、多摩川、淀(よど)川、大和(やまと)川)の流域約873キロメートルを対象として整備に着手した。事業開始後、住民はいったん退去して仮住まいに4、5年住み、盛り土と宅地造成が終了してから、街の整備や新居の建設にとりかかる。民主党政権による「事業仕分け」で、2010年(平成22)にいったん廃止と判定されたが、2011年の東日本大震災後に、整備区域を流域約120キロメートルに縮小して事業継続することが決まった。なお国土交通省は当初、完成または整備中の区域は約50キロメートルであるとしていたが、2012年公表の会計検査院調査では約9キロメートルにすぎないと報告されている。
[編集部]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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