利根川の派川。現在の流路は
承和二年(八三五)に「下総国太日河」の崖岸が広遠で架橋できないので、渡船が二艘から四艘に増加されているが(同年六月二九日「太政官符」類聚三代格)、渡場の所在地はつまびらかでない。ただし「更級日記」に「しもつさの国と、武蔵との境にてあるふとゐがはといふがかみの瀬、まつさとのわたりの津に泊まりて、夜にと夜、舟にてかつがつ物などわたす」と記され、「まつさとのわたり」は松戸に比定する説がある。治承四年(一一八〇)一〇月二日、源頼朝は上総広常・千葉常胤らと舟に乗って「大井隅田両河」を渡り、兵三万余騎を率いて武蔵国に入っている(吾妻鏡)。文永六年(一二六九)成立という「万葉集註釈」に布止井川とある。香取の海にも通じていたと想定されており、その沿岸の多数の浦津を支配していた香取神宮は、太日川の右岸側に置かれた
寛永(一六二四―四四)末年頃に権現堂川・逆川とともに関宿(現関宿町)の西から現野田市辺りまで開削されて江戸川筋の流路が形成されたが、その開削年代や具体的な普請の過程などは未詳である。
利根川の派流。茨城県
寛永一二年(一六三五)関東郡代伊奈忠治は
寛文五年(一六六五)関宿城主板倉重常の御手伝普請により関宿から赤堀川に通じる新川が開削された(下総旧事考)。これを
千葉県
江戸時代前期に現在の河道が開削される以前、古代から中世にかけての江戸川は、「太日川」あるいは「太井川」と表記された。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
東京都の南東端にある区。東は千葉県市川、浦安(うらやす)両市に接する。1932年(昭和7)南葛飾(かつしか)郡の小松川、松江、小岩(こいわ)の3町と葛西(かさい)、瑞江(みずえ)、鹿本(しかもと)、篠崎(しのざき)の4村が合併して江戸川区となった。江戸川が東の千葉県境を流れるが、かつては渡良瀬(わたらせ)川の下流で太日(ふとひ)川(太井(ふとい)川)とよんだ。17世紀、利根(とね)川改修のとき、江戸に通ずる唯一の水路という意味で江戸川とつけられた。区名は江戸川の川名による。
区域は、この江戸川と荒川(荒川放水路)の間のきわめて低湿な沖積地にある。日本のキンギョ三大産地の一つとして知られる春江(はるえ)、一之江(いちのえ)両町を中心とした地区は、この低湿地を利用したものである。かつては農・漁業地帯として知られ、現在でも鹿骨(ししぼね)地区は花卉(かき)栽培、篠崎地区は葉菜類の栽培地である。なお、葛西の沿岸はノリ養殖が盛んであったが、第二次世界大戦後の埋立てによって消失した。また、ガラス容器の江戸切子(きりこ)をはじめ、和傘、風鈴、ざる、扇子、染色、竹製品、よしず、縁起物の熊手、凧(たこ)など、江戸下町の伝統を継ぐ工芸品が多く残っているのも特徴的である。
区の南部は都区のなかで都市化のもっとも遅れた地域であったが、1969年(昭和44)営団地下鉄(現、東京地下鉄)東西線、1983年都営地下鉄新宿線が開通(1989年全通)するに及んで、高層のアパート群が建設され、JR京葉線(1990年全通)の開通で開発はさらに進んだ。京葉線沿いには首都高速道路湾岸線も通じ、従来の農・漁村風景を大きく変えている。一方、区の北部、千葉街道(国道14号)とJR総武本線の通る地域は、古くから開発が進んだ。最北部を京成電鉄本線が横切っている。南北両地域の間を首都高速道路7号小松川線およびその延長の京葉道路が、また併走する荒川・旧中川沿いに同中央環状線が通じ、都心と千葉県、湾岸と葛飾・足立方面を結んでいる。北部の中心、小岩は、正倉(しょうそう)院に保存されている8世紀の戸籍に「甲和里」とみえる古い地名。区の中央には新中川が南流し、低地のため、高潮から守るための防潮堤が1957年河口部に完成。江戸川と旧江戸川の分岐点には江戸川水門がある。
おもな名所としては、一之江名主(なぬし)屋敷(都指定史跡。元禄(げんろく)のころから代々名主を勤めた田島家の住宅)、江戸五色不動の一つの目黄不動(めきふどう)(最勝(さいしょう)寺)、豪壮な枝ぶりをみせる善養(ぜんよう)寺(小岩不動)の影向(ようごう)の松、幟(のぼり)祭で知られている浅間(せんげん)神社などがある。東京湾に面して葛西臨海公園と葛西海浜公園があり、臨海公園内には葛西臨海水族園、鳥類園ウォッチングセンター、観覧車、ホテルなどがある。なお、葛西海浜公園は2018年(平成30)にラムサール条約湿地に登録された。面積49.90平方キロメートル(荒川河口部の面積を含まず、一部境界未定)、人口69万7932(2020)。
[沢田 清]
『『江戸川区史』(1955・江戸川区)』▽『『江戸川区史』全3冊(1976・江戸川区)』
関東地方を流れる利根川(とねがわ)の分流。一級河川。千葉県野田市北端で利根川の本流と分かれ、流山(ながれやま)、松戸の各市を通り、市川市で東京湾に注ぐ川。延長約60キロメートル、流域面積約200平方キロメートル。上流から茨城県、埼玉県、千葉県、東京都との境界をなしている。近世までは渡良瀬川(わたらせがわ)を上流とする太日川(ふとひがわ)(太井川(ふといがわ))として東京湾に注いでいたが、江戸幕府は江戸を水害から守るため、1654年(承応3)利根川と渡良瀬川の河道を変え、銚子(ちょうし)へ東流させてから、利根川分流の江戸川となった。また、かつては千葉県浦安(うらやす)市と東京都江戸川区の間を流れ東京湾に注ぐ流路を江戸川といったが、1919年(大正8)千葉県市川市に江戸川放水路を開削し、現河川法では、下流部は江戸川放水路が本流、もとの江戸川を旧江戸川とよんでいる。江戸時代は、利根川水運で栄え、いわゆる内川(うちかわ)回りとして、銚子、佐原(さわら)、野田、流山を経、海産物や醸造品の大半が江戸川を利用して江戸に運ばれた。1890年(明治23)利根運河を野田下流に開いて水路短縮が図られ、明治末まで隆盛を保ったが、鉄道の開通によって大正時代以後、水運は急激に衰微した。現在は、葛飾(かつしか)地域の幹線排水路、さらに東京都の江東地区と左岸の沿岸諸都市と船橋市、千葉市の上水道源になっており、産業用水にも利用されている。江戸川が形成した沖積低地は、潮入りの被害があるため、江戸時代はハス田が多く、行徳(ぎょうとく)付近は塩田であったが、近年の都市化の進行、とくに営団地下鉄(現、東京地下鉄)東西線開通(1969)後の沿線変貌(へんぼう)は著しい。下流に東京都立水元(みずもと)公園と江戸川水門があり、浦安市の埋立地には大遊園地東京ディズニーランドがある。
[菊池万雄]
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千葉県野田市で利根川から分流して東京湾に注ぐ川。西岸は東京都と埼玉県,東岸は千葉県である。長さ59km,流域面積75km2,下流に江戸川放水路(長さ2.8km,幅300m)を掘って洪水の際早く海に排水している。かつては利根川と渡良瀬川が東京湾に注いでいたが,元和年間(1615-24)両川を連結,1654年(承応3)の拡幅工事などにより利根川の本流は香取海(かとりうみ)に流れるように付け替えられ,利根川の旧河道が江戸川となった。近世から明治末まで江戸(東京)に物資を輸送する水運で栄え,関宿藩は城下の江戸町に番所をおいて川船を改めた。1903年利根川の柏と江戸川の流山を結んで航路を短縮する利根運河が開設され,関東平野から東京に送る物資の大動脈となった。しかし明治末に鉄道が普及するようになって水運は急速に衰えた。
現代の江戸川は京葉地域の用水供給と排水路として重要で,沿岸の水田約5400万haに農業用水を16.0m3/秒,東京都と千葉県に飲料水を41.0m3/秒,工業用水3.3m3/秒を供給している(1997年10月現在)。利根川の年間流量は江戸川を分流する直前の地点では約78億m3であるが,江戸川にはそのうち約32億m3を分流している(1997)。また江戸川の排水能力は,1947年のカスリン台風による大洪水以後に拡大され,東京を水害から守るために利根川本流の最大洪水量の約1/3を分流して東京湾へ排水できるように治水工事が行われている。
執筆者:菊地 利夫
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…近世には水質も良く,水量も確保できたから,現在の文京区関口1丁目あたりで取水のうえ,文京区・千代田区の一部へ配水されていた。そのため神田川は長い間,取水地点より上流部を神田上水,JR飯田橋駅付近までを江戸川,下流部を神田川として区別していた。下流部のうちJR御茶ノ水駅付近に見られる切割の河道は,江戸幕府の手による人工河川である。…
…江戸幕府の職制。1725年(享保10)に新設された勘定奉行配下の役職で,江戸川,鬼怒川,小貝川,下利根川の4川の治水事業を担当した。28年には職掌地域が関東一帯に拡大された。…
… こうした村数,石高の増加は,新田開発の結果によることが大きい。近世初頭には江戸川,荒川および多摩川の下流地域に水田が多く開かれていった。この地域の開発のために,治水,利水の工事が行われた。…
※「江戸川」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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