濁音(読み)だくおん

精選版 日本国語大辞典 「濁音」の意味・読み・例文・類語

だく‐おん【濁音】

〘名〙 五十音図のカサタハ四行のかなの受け持つ音韻には、その頭子音無声の場合、有声の場合があるが、前者を清音というに対し後者を濁音という。かなが濁音に読まれるべきことを示すために、そのかなの右肩に濁点を添える。→清音半濁音
※両足院本山谷抄(1500頃)四「濁音から清音へうつるを一均と云ぞ」
滑稽本浮世風呂(1809‐13)四「すべて田舎唄は、濁音で音声がだみてゐやす」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「濁音」の意味・読み・例文・類語

だく‐おん【濁音】

五十音図のカ・サ・タ・ハ行の仮名濁音符「゛」を付けて表すガ・ザ・ダ・バの各行の音節。濁音の各頭子音有声音である。なお、清濁対立は有声・無声音の対立関係とは必ずしも一致しない。→清音半濁音拗音
[類語]清音半濁音清濁鼻濁音撥音促音長音

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「濁音」の意味・わかりやすい解説

濁音 (だくおん)

五十音図のガザダバ4行のかなに対応する音節を伝統的に濁音とよび,かなの右肩につける[]を濁音符また濁点という。清音に対する濁音であること,また濁音になることを〈にごる〉ということがある。清音と濁音との対立は,必ずしも無声音と有声音との対立に一致しない。たとえば,タとダとでは,その相違は無声のt-対有声のd-にあるが,ハとバとの相違はh-とb-との相違になっている。しかし,これも古くさかのぼれば,元来はp-とb-との対応であったものと推定される。文字の上で,必ず清・濁を書き分ける習慣が規範として確立されたのは明治以後の教育においてである。こんにちでも特殊なものには濁点はほどこさない(和歌短冊(たんざく)に書くような場合)。すでに江戸時代には,かなりよく清濁の書き分けがみられるが,さらにさかのぼると,むしろ一つ一つに濁音を示さないほうがふつうになる。他面,奈良時代の万葉仮名の段階までさかのぼると,清音と濁音とは原則として別の文字で書き分けられた。しかし,奈良時代においても私的な文書のごときでは,必ずしも清濁の区別は守られていない。古くは,日本語には濁音ではじまる語はなかった(濁音に先行する音節の母音発音には鼻音化が起こったらしい)。複合語においては,〈たる→さかだる〉のように,複合の第2要素に立つ語の語頭の濁音になること(連濁)が少なくない。漢語の浸透とともに,単独の語の語頭にも濁音の用いられることが多くなり,後世になれば,語頭を濁音ではじめる語が日本語そのもののなかにも発生するようになった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「濁音」の意味・わかりやすい解説

濁音
だくおん

日本語の濁音とは、濁点をつけた仮名文字で表す音節(拍)で、濁音に発音することを「にごる」といい、清音に対立する。狭義の清音カサタハ行の頭子音と、調音の位置や方法が同じ(またはかつて同じだったとされる)有声子音の拍であるガザダバ行とその拗音(ようおん)の拍を濁音とすることで、両者を清濁の対応としてとらえている〔例、カ(蚊)とガ(蛾)は[k]と[g]の、マト(的)とマド(窓)は[t]と[d]の対応〕。

 上代は万葉仮名で清濁別の文字を使ったが、平仮名・片仮名には別文字の書き分けがなく、同じ仮名で清濁両様に用い、のちに濁声点(゜゜や‥)などで濁音を示すことがあり、近世以降は肩に濁点を付す形が一般的となった。なお、第一拍清音の語が複合語の後部成素となって濁音化することを「連濁」といい、多少の法則がある。また、濁音は漢語が日本語に定着するまで原則として語頭にたたず、和語で濁音で始まる語は、ガニ、ゴミ、ドブ、ドロ、ビリなど価値の低いものが多い。

[秋永一枝]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「濁音」の意味・わかりやすい解説

濁音
だくおん

日本語の音韻の一範疇で,仮名文字表記において濁点をつけて書き表すモーラをさす。清音および半濁音に対する。ガザダバの各行があり,いずれも有声子音で始まる(→有声音)。現代共通語ではその子音は /g(ŋ),d,z,b/ で,/k,t,c,s,p/ に対する有声音素である(ただし音素交替では /b/ は /h/ に対する)。しかしながら,有声性と濁音とは必ずしも一致しない。ナマラ行(さらにアヤワ行およびンも)は有声子音で始まるが濁音ではない。本来の濁音を「本濁」というのに対し,タル(樽)―サカダル(酒樽)のようなものを連濁(「連声濁」「新濁」)という。奈良時代の日本語では,自立語の語頭に濁音は立たなかったといわれる。濁音符(濁点)は仮名の右肩に「 ゛」を打つが,もと声点(しょうてん)から生じたもので,清音の「◦」「・」に対し,「◦◦」「・・」が用いられた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「濁音」の意味・わかりやすい解説

濁音【だくおん】

五十音図のガ・ザ・ダ・バの4行およびこれに応ずる拗(よう)音の音節。濁音の表記は仮名の右肩に濁音符・濁点を付けるのが普通であるが,この方式に固定するまでには相当動揺があり,明治以後の学校教育で規範として確立された。古代日本語では濁音で始まる語はなかったが,漢語の浸透とともに語頭に濁音が用いられることが多くなった。また複合語においては連濁の生じることも少なくない。
→関連項目清音半濁音

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の濁音の言及

【字音】より

…中国語でも,唐代以降全濁字がしだいに無声化し,代りに声調の差を生じ,ついに有気・無気の対立のみの現代北京音の子音体系にいたっている。日本漢音の米(ベイ)(呉音マイ),母(ボ)(同モ)のような濁音は,唐代に次濁字が有声閉鎖音化(非鼻音化)したことの反映で,朝・越漢字音には見られない特徴である。 唐代以降,特定韻母の字についてp→f,b→vといった摩擦音化(軽唇音化)が生じたが,これを反映するのは,これらの子音の区別をもつベトナム語の漢字音のみである(ただし,日本唐音の包(パウ),兵(ピン)等対方(ハウ),不(フ)等にも一部反映はあり,漢音の直拗に反映するという説もある)。…

【日本語】より

…なお,〈ガ〉の子音[ɡ]の構えで,軟口蓋の後部を下げ鼻から息を通せば軟口蓋鼻音の[]となる。この音は〈鼻濁音〉と呼ばれ,[a i ɯ e o]の形で語中に用いられる。例えば〈学校〉[ɡakkoː]は〈小学校〉[ʃoːɡakkoː]となる。…

※「濁音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android