(読み)ゾ

デジタル大辞泉 「ぞ」の意味・読み・例文・類語

ぞ[副助・係助・終助]

[副助]
疑問を表す語に付いて、不定の意を表す。「どこで休んでいくか」
「誰―合力ニ雇ワウ」〈天草本伊曽保・狼と狐〉
「よく」「つい」などの副詞に付いて、上の語を強調する意を表す。「よくがまんしてくれた」「つい見たことがない」
[係助]名詞、活用語の連用形・連体形副助詞などに付く。
「ぞ」の付いた語・句を特に強く示す意を表す。
「梅の花折りかざしつつ諸人もろひとの遊ぶを見れば都し―ふ」〈・八四三〉
上代、活用語の已然形に直接付き、中古以降は、その下に接続助詞「ば」を伴ったものに付いて、理由・原因を強調して示す意を表す。…からこそ。…からか。
が待ちし秋は来たりぬいもあれと何事あれ―ひも解かずあらむ」〈・二〇三六〉
「いにしへも今も心のなければ―憂きをも知らで年をのみふる」〈後撰・恋六〉
文末用法
㋐相手に告げ知らせる意を込めて強く断定する意を表す。…だ。…のだ。…であるぞ。
「ああしやごしや嘲咲あざわらふ―」〈・中・歌謡
「この返事はあるべき―」〈平家・四〉
㋑疑問の語とともに用いて、問いただす意を表す。→とぞもぞ
「ナゼニヲヌシワ何ヲモ知ラヌト言ウ―」〈天草本伊曽保・イソポが生涯〉
[終助]名詞、活用語の終止形、断定の助動詞「じゃ」「だ」などに付く。
自分の判断・決意を自分に言い聞かせ、念を押す意を表す。「これは弱った」「うまくいった
自分の考えを強く主張し、念を押す意を表す。「そうはさせない」「努力が肝心だ
推量の助動詞「う」「よう」、または名詞に付き、疑問の語と呼応して、反語・強調の意を表す。「そんな案をどうして承認できよう」「国民の声を聞かずしてなんの政治家
[補説]「ぞ」は本来清音「そ」であったといわれ、上代から中古にかけて濁音化したという。係助詞「ぞ」が文中にある場合、「ぞ」を受ける文末の活用語は、原則として連体形で終わる(係り結びの法則)が、中世以降、その法則が衰え、となった。また、3の用法からが生じた。は近世以降の用法。なお、係助詞「ぞ」は、係助詞「こそ」よりは弱く、係助詞「なむ」よりは強く指示する意をもつといわれる。

ぞ[五十音]

」の濁音。歯茎の有声破擦子音[dz]と母音[o]とから成る音節。[dzo
[補説]清音「そ」に対する濁音としては、本来、歯茎の有声摩擦子音[z]と母音[o]とから成る音節[zo]が相当するが、現代共通語では一般に[dzo]と発音する。しかし、[zo]とも発音し、両者音韻としては区別されない。古くは[ʒo](あるいは[dʒo][dzo])であったかともいわれる。室町時代末には[zo]と発音され、近世江戸語以降[dzo]と発音された。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「ぞ」の意味・読み・例文・類語

  1. [ 1 ] 〘 係助詞 〙 ( 「そ」とも。→語誌 )
    1. [ 一 ] 文末用法。
      1. 体言、活用語の連体形、副助詞などを受けて、指定的に強調し、聞き手に働きかける。
        1. [初出の実例]「八千矛の 神の命 萎(ぬ)え草の 女にしあれば 我が心 浦渚(うらす)の鳥(ゾ)」(出典古事記(712)上・歌謡)
        2. 「吾が衣摺れるにはあらず高松の野辺行きしかば萩の摺れる(ソ)」(出典:万葉集(8C後)一〇・二一〇一)
        3. 「かれは何となんをとこに問ひける」(出典:伊勢物語(10C前)六)
      2. 一体言だけからなる文を受けて指定的に強調する。同様の構造のものを畳みかける場合は、並列効果が生ずる。中世以後の用法。
        1. [初出の実例]「年をいひて年にしたがひて、太郎次郎、わかきを五郎とさだめてちぎりをなしていふやう」(出典:法華修法一百座聞書抄(1110)三月二七日)
        2. 「その音におそれて、狐狸などいふ物、ここかしこより逃げ去りぬ」(出典:仮名草子・伊曾保物語(1639頃)中)
    2. [ 二 ] 文中の連用語や条件句を受け、指示強調する。結びの活用語は連体形となる。
      1. [初出の実例]「畝火山 昼は雲とゐ 夕されば 風吹かむと(ソ) 木の葉さやげる」(出典:古事記(712)中・歌謡)
      2. 「時々の花は咲けども何すれ(ソ)母とふ花の咲き出来ずけむ」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三二三)
      3. 「枕よりあとより恋のせめくればせんかたなみとこなかにをる〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)雑体・一〇二三)
      4. 「女は舟底にかしらをつきあてて、音(ね)をのみ泣く」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月九日)
  2. [ 2 ] 〘 副詞助 〙 文中の疑問語を受けて不定の意を表わす。中世以後の用法。
    1. [初出の実例]「何事かあって、にげて秦へきたものでぞあるらうぞ」(出典:史記抄(1477)四)
    2. 「どこへよめ入りがしたう候が」(出典:寛永刊本蒙求抄(1529頃)六)
    3. 「なん思ひ付が有るならば、言ってみなせへ」(出典:洒落本・無駄酸辛甘(1785))
  3. [ 3 ] 〘 終助詞 〙 文末にあって聞き手に強く働きかける。中世以後の用法。
    1. [初出の実例]「別将・別は音は清でよむ」(出典:漢書列伝竺桃抄(1458‐60)陳勝項籍第一)
    2. 「そんなら討つ」(出典:歌舞伎・一心二河白道(1698)一)
    3. 「こいつがまた一仕事です」(出典:夜明け前(1932‐35)〈島崎藤村〉第一部)

ぞの語誌

( [ 一 ]について ) 上代には濁音仮名も見られるが、清音仮名によるものの方が多い。従って、古くは清音であったが、上代から中古にかけて濁音化したものと考えられる。語源については、指示詞「其(ソ)」とするもの、「シ・ソ」と変化する指定辞とするもの、などがある。


ぞ【ぞ・ゾ】

  1. ( 「そ」の濁音 ) ⇒そ(そ・ソ)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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