チベット仏教最高の思想家。ゲル派(ゲルク派)の始祖。宗喀巴とも書き、正式名はロプサンタクパBlo bza grags pa。チベット北東の辺境アムドのツォンカに生まれたため、ツォンカパと通称される。幼にして出家し、16歳のとき中央チベットに出て、ディグン、サキャなどの諸学問寺に学んだ。とくに19歳ころからサキャ派のクンガペルKun dga' dpalから『現観荘厳(げんかんしょうごん)論』、その弟子のレンダワRed mda' ba(1349―1412)から『倶舎(くしゃ)論』『入中(にゅうちゅう)論』などの講義を聞き、仏教学の理解を深めた。その後も『律』『量評釈』『阿毘達磨(あびだつま)集論』などを含めて研鑽(けんさん)を積んだが、その関心はしだいに中観(ちゅうがん)の問題に集中していった。33歳ころからウマパとよばれる神秘的人物の指導を受け、彼を通じて文殊菩薩(もんじゅぼさつ)に中観の疑問を尋ねたり、文殊の姿を実際に見るようになったといわれる。その後ブッダパーリタBuddhapālita(470―540ころ)著の『中論』釈を読んで、中観の決定的理解を得たともいう。36歳にして立教開宗し、46歳のとき主著『菩提道次第(ぼだいどうしだい)論』(『ラムリム』)を著した。53歳のときラサに「大祈願祭」を創始し、翌1410年ガンデン寺に入り、没するまでほぼそこに住した。弟子にタルマリンチェンDar ma rin chen(1364―1432)とケードゥプMkhas grub(1385―1438)の二大弟子のほか、ゲドゥンドゥッパ(ゲンドゥントゥプ。ダライ・ラマ1世)らがおり、他の著書に『秘密道次第論』『善説心髄』『密意解明』などがある。その思想的独自性は中観の解釈にあり、とくに自立派と帰謬(きびゅう)派の相違というものを、彼以前の学者がそうであったように単なる空性論証法の違いとみずに、両派の存在論の相違ととらえて、帰謬派絶対の中観哲学を樹立した点にある。
[松本史朗 2017年4月18日]
『長尾雅人著『西蔵仏教研究』(1954・岩波書店)』
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チベット仏教ゲルー派(黄帽派)の開祖。青海のツォンカ(宗喀爾)に生まれたのでこのように通称され,〈宗喀巴〉と漢音訳される。名はロサン・タクペーペル。1373年に中央チベットに出て,主としてサキャ派の学匠レンダーワについてアビダルマから般若,中観,因明に及ぶ顕教仏教学のいっさいを学び,プトゥンの諸弟子とサキャ派の密教僧からそれぞれの系統の密教を伝授され,具足戒はシャキャ・シュリー・バドラ由来のものを受けた。ロダクの地でカダム派の教を受け,アティーシャのいう小乗,大乗,金剛乗を統合して修めるという主張に共鳴し,中観帰謬論証派の教理を軸として,戒律を重んじ,タントラ仏教を〈空〉の教義に則して遺漏なく解釈し,最高の瑜伽行として修習する一派を開いたので,新カダム派またはゲルー(徳行)派と呼ばれた。1409年ラサ東方40kmの地にガンデン大僧院を建立して本山とした。著作には《菩提道次第論》(1402)と《秘密道次第論》(1406)のほか膨大なものが残っている。
→ラマ教
執筆者:山口 瑞鳳
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1357~1419
ゲルク派の開祖。青海地方に生まれ,中央チベットで学び,40歳の頃文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の啓示を受けて,中観(ちゅうがん)哲学によって既存の仏教思想を体系化する教説を確立した。さらに,律の復興と哲学教育の重視を提唱し,厳格な僧院生活を弟子に課した。1409年にガンデン寺を建立し,ツォンカパの死後は同寺の座主がゲルク派をまとめた。
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…このことを戒めとしていた明朝も,永楽帝時代にチベットに対して積極的な懐柔政策をとりはじめると,特に青海やカム(喀木)地方で寺院を擁していた民族が,通貢の利得をねらって宮廷に入りこみ,約1世紀にわたって後宮の猥褻(わいせつ)な要請におもねり,歴代皇帝を惑乱して,チベット仏教を淫祠邪教とするぬぐいがたい印象を中国に残した。 15世紀初めころ,ツォンカパと呼ばれる天才的な僧が現れて,ラサの東方40kmの地にガンデン大僧院を建て,ゲルー(〈徳行〉),あるいは黄帽派ともいわれる一宗を開いた。青海の西寧近くに生まれ,中央チベットに出て,西寄りのツァンに赴き,サキャ派のレンダーワ(1349‐1412)などに師事して顕密2教,特に中観帰謬論証派の哲学やタントラ仏教を学んだ。…
…儀礼音楽は,ラマ僧による読経と賛歌がユニゾンでの単旋律の朗唱と器楽伴奏によって奏される。パドマサンババを開祖とするニンマ派,あるいはカダム派,サキャ派,カギュ派など古派の儀礼音楽と,ツォンカパ以来のゲルク派の儀礼音楽とは大きな変化はない。ラマ教の分布するチベット高原,ブータン,シッキム,ネパールなどの地域的変化はわずかだが,インド北部のラダック各地の儀礼音楽は若干の変化がみられる。…
…竜樹の思想は,クマーラジーバ(鳩摩羅什)によって中国に伝えられ,その系統から〈三論宗〉が成立した。また一方,シャーンタラクシタによってチベットに導入され,ツォンカパを頂点とする全チベット仏教(ラマ教)教学の中核をなしている。なお8世紀以降のインド密教においても,竜樹を著者と仮託する,《五次第》などの多数の文献が著された。…
※「ツォンカパ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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