日本大百科全書(ニッポニカ) 「トーマ」の意味・わかりやすい解説
トーマ(Hans Thoma)
とーま
Hans Thoma
(1839―1924)
ドイツの画家、版画家。シュワルツワルトのベルナウに生まれる。初め石版画の手ほどきを受け、また漆工として働いたあと、カールスルーエおよびデュッセルドルフ美術学校に学ぶ。1868年パリに旅してクールベおよびバルビゾン派の影響を受ける。70年ミュンヘンに移住してウィルヘルム・ライプル、ベックリンらと交友。74年イタリア旅行でマレースと知る。77年フランクフルトで名声をあげ、99年カールスルーエ美術学校教授に迎えられ、同地に没。様式は多様であるが、写実的な風景、人物、静物に優れ、石版画の興隆に貢献した。代表作『ライン河畔』(1875)。
[野村太郎]
トーマ(Ludwig Thoma)
とーま
Ludwig Thoma
(1867―1921)
ドイツの作家。バイエルンのオーバーアメルガウに生まれる。ペーター・シュレミールPeter Schlemihlの筆名もある。父は営林官。林学専攻のあとミュンヘン、エルランゲンで法律を修め、ダッハウで弁護士を開業。かたわら『ジンプリツィシスムス』誌を編集、写実的手法で風刺小説を執筆。僧侶(そうりょ)社会の道徳欠如と隷属根性を揶揄(やゆ)し、市民、農民の俗物根性を痛撃する。代表作は『アンドレーアス・フェスト』『男やもめ』『道徳』『悪童物語』など。バイエルン方言を織り込み、俗悪な社会を軽妙洒脱(しゃだつ)な筆致で活写する。生涯郷里に住み、土地の旧弊と俗習を辛辣(しんらつ)につく。その反面、土地の環境から離れては生活できない人々に温かいまなざしを注いでいる。
[古賀保夫]