感情面への配慮を過度に重んじ,知性や意志よりも個人の内的心情に支配される傾向の総称。主知主義および主意主義の対照語として感傷主義,主情主義,感情主義と訳される。知性の普遍性や意志の無限性でなく感情の相対性を根拠とするために,この立場をとる人生観には受動的になりやすい面もあり,ここからセンチメンタリズムとは個人的感傷におぼれがちな生活態度の蔑称にもなっている。だがこれは時代思潮の特質を語る概念でもあり,理性や秩序や調和を尊重する時代の反動として個人の感情や自由を謳歌する立場が生じるとき,これを総称するために用いられる。18世紀の啓蒙主義に対抗して現れたルソーの立場はその典型的な例であり,悟性偏重に反抗する19世紀のドイツ・ロマン主義の活動や,実証主義の時代を経て19世紀末から20世紀にかけて現れた〈生の哲学〉に流れる基調もこれに含められる。
執筆者:細井 雄介 そもそも〈センチメンタル〉なる英語がひろく用いられるようになるきっかけは,18世紀のイギリスの作家L.スターンの《センチメンタル・ジャーニー》(1768)であった。それまでに流布していた旅行記と異なり,自然の風物や都市の景観には目もくれず,もっぱら人心のあわれ(センチメント)を描くことを主眼にしたこの作品は,18世紀前半を支配した新古典主義(ネオ・クラシシズム)の主知主義からぬけ出る姿勢を示していた。やがてきたるべきロマン主義への,一つのバイパスであったと考えてもよい。この作品は諸国語に訳されたが,フランス語に〈サンティマンタル〉という新語が入るきっかけとなった。フランスもまた,この種の新しい主情主義が根を下ろすべき時期にさしかかっていた証拠である。ルソーの《新エロイーズ》(1761)はスターン作品に先だつが,そこにはすでに〈サンティマンタリスム〉が明瞭に見てとれる。そしてそのルソーこそが,〈ロマンティック〉なる英語をフランス語に移植した当人であり,古典主義,啓蒙主義からロマン主義に移行する思潮の推進者であった。同じころドイツにおいても敬虔主義の宗教運動や,シュトゥルム・ウント・ドラングの文学運動を経て,ロマン主義が確立される過程にあったが,そこにも〈センチメンタリズム〉の要素が強く作用していたのである。
執筆者:川崎 寿彦
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一般に「感傷主義」と訳され、「お涙頂戴(ちょうだい)」「子女の紅涙を絞る」式の感傷癖に用いられるが、本来は「多感」「風流」などの意味。イギリス17世紀末流行の「感傷喜劇」comedy of sentimentは、道徳感情に訴えて観客の涙を絞る劇構成であった。18世紀前期その反動として主知主義、古典主義が流行したが、同世紀中期にはふたたび人間の感性を重んじる傾向が現れる。その中心的存在がローレンス・スターンで、紀行文『センチメンタル・ジャーニー』によって、センチメントの意味を「洗練された感受性」にまで高めた。この作品は大陸に大きな影響を与え、ドイツ語にempfindsam、フランス語にsentimentalという新語を加え、やがてフロベールに『感情教育』を書かせるまでに至った。
[船戸英夫]
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…この時代の活発な文化活動は,啓蒙思想の運動に反映し,ラジーシチェフ(《ペテルブルグからモスクワへの旅》1790),ロシア・ジャーナリズムの創始者でフリーメーソンであったノビコフらを生むことになる。文学史的により重要なのは,西欧で通例プレ・ロマンティシズムと呼ばれている流派に対応するセンチメンタリズム(主情主義)という文学潮流である。ラジーシチェフは文学的にはこの派に属している。…
※「センチメンタリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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